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小屋の外で荒れ狂っていた雨音が、いつの間にか遠くへ消えていく。
雲の切れ間から差し込むわずかな光が、湿った空気の中を泳いでいた。
けれど、私の心の中の嵐は、一向に収まる気配がなかった。
それどころか、内側から激しく揺さぶられ、形を変えて吹き荒れている。
「……んっ、ふ……あ…♡」
首筋に落とされる熱く、執拗な吸い痕。
そして、鼓膜を直接震わせるように刻まれる低く甘い囁き。
二人の執事に挟まれ、冷たい石壁に押し付けられたまま
私は酸素を求める魚のように熱い吐息を漏らすことしかできない。
ルカの節くれだった大きな掌が、私の細い腰を強引に抱き寄せ
密着した体から彼の速い鼓動が伝わってくる。
一方で、セシルの細く、どこか冷ややかさを湛えた指先が
私の顎を優しく、しかし有無を言わせぬ力で上向かせた。
「アリア様……こんなに震えて。僕の熱、伝わってますか? ほら、ここも…こんなに熱い」
「……おや、瞳が潤んでいますね。ただ私の声を聞かせただけで、そんなに感じてくださるのですか?」
二人の言葉は、もはや敬愛すべき主への執事のそれではない。
主をこの上なく慈しみ、同時にその理性を完膚なきまでに屈服させようとする
「雄」としての本能が剥き出しになった響きだ。
「……だめ……二人とも…やめて、って……言ってる……のに……」
口では拒絶の言葉を紡いでいる。
けれど、私の体は裏切りのように正直だった。
ルカの野性味あふれる、焦燥に駆られた強引な愛撫。
そして、セシルの計算し尽くされた
急所を的確に突く緻密な愛撫。
相反する二つの快楽が、交互に、あるいは同時に波のように押し寄せ
私の脆弱な理性を粉々に砕いていく。
「……はぁ……っ、あ…」
ついに力が抜け、膝が折れそうになったその時だった。
ルカが「逃がさない」とばかりに私の体をがっしりと支え
同時にセシルが私の耳たぶを、壊れ物を扱うような残酷さで甘く噛んだ。
「……逃がしませんよ。あなたが、どちらを……『誰』を選ぶか、その口から仰るまで」
「……アリア様、僕だけを見て。セシルなんか、あんな陰険な男のことなんて、視界に入れちゃダメだ……っ」
二人の執着が、狭い密室の中で激しく火花を散らす。
私を巡る「争奪戦」は、いつの間にか互いへの牽制を孕んだ「共有」から
相手を排除しようとする「独占」へと、より危険で甘美なフェーズへと移行しようとしていた。
その時──
コンコン。
「……アリア様? お迎えに上がりました。……アリア様、いらっしゃいますか?」
石壁の向こうから聞こえてきたのは、公爵家の御者の、聞き慣れた穏やかな声だった。
そのあまりに日常的で現実的な響きに、私の意識が冷水を浴びせられたようにハッと浮上する。
「……っ!!」
私は、必死に二人を突き飛ばした。
……いえ、突き飛ばそうとしたのだけれど、鍛え上げられた二人の体は岩のように微動だにしない。
結局、彼らが外の気配を察し
名残惜しそうに自らスッと身を引いたことで、ようやく私はその熱い包囲網から解放された。
「……アリア様。…顔、真っ赤ですよ? 隠さなきゃ、他の奴に見られちゃう」
ルカが、勝ち誇ったような悦びと
それでいてどこか見捨てられた仔犬のような切なげな瞳で私を見つめる。
「……フフ。随分と乱れてしまいましたね。……整えて差し上げたいのは山々ですが、今は『禁止令』の最中でしたね。……残念です。実に」
セシルは悠然とした動作で眼鏡をかけ直し、瞬時にいつもの「完璧な執事」の仮面を被り直した。
けれど、その瞳の奥には、まだ隠しきれないギラついた捕食者の熱が、沈殿するように残っている。
「……二人とも…っ、帰ったら、たっぷりお仕置きよ…っ!」
私は乱れたドレスの襟元を、震える指先で必死に整え、まだ力が入らない脚を叱咤して小屋の扉を開けた。
雨上がりの冷たい外気が頬に触れ
ようやく少しだけ、焼け付くような脳内が冷静さを取り戻していく。
馬車に乗り込む際、ルカが当然の権利のようにエスコートの手を貸そうとし
セシルが流麗な動作で跪き、足元を支えようとする。
私はその手を、あえて乱暴に無視した。
「……触らないで!今は、あなたたちの顔も見たくないわ」
私が氷のように冷たく言い放つと、二人の獣の耳が同時にピクリと跳ね
そして見る間に力なく、しょんぼりと垂れ下がった。
「「……アリア様……っ」」
……ふん
あんなに私のことを翻弄して、理性をめちゃくちゃにしておいて。
今さらそんな、捨てられた仔犬や仔猫のような顔をしてみせても、もうダメなんだから。
馬車の中、向かい合って座る二人の執事。
彼らは一言も発さない。
だが、その視線は火花を散らす剣のように静かに、そして激しくぶつかり合っていた。
「次は、あんな程度では済ませませんから」
「次は、完全に僕だけのものにする」
そんな声が、沈黙の中から聞こえてくるようで──
私の「モフモフ禁止令」は、もはや意味をなさないどころか
彼らの「執着」という名の毒を、私の全身に回してしまったようだった。