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夜の明け方、二人の子供が大量の魔物の死体に囲まれている。
少女は皮の手袋をはめ直し、死体に触れて何かを調べてる少年の横に立つ。
「どう?魔物増加の原因わかりそう?」
「…魔石が沢山出てきた。多分無理やりねじ込まれてる。」
ロタネの血に塗れた手に、不気味に光る石がいくつか覗く。
ルドベキアはそれを手袋の上から掴み、日に当ててみる。
透き通らず、濃い魔力が感じ取れる。
「…明らかに人工物だね。持って帰る?」
「そのつもり。後、むやみに触るな。特にルドは。」
「大丈夫。手袋越しなら平気!」
そう言って笑う双子の妹を見て、ロタネはそっかと頷いた。
「リトナさん!マリトーナさんどこに居るかわかります?」
「 どうしたの?ルドベキアちゃん。マリトーナちゃんはすぐ呼べるけど…」
ソファーに座り込むリトナの前に、ルドベキアが立っている。
少女は手を開きそこにある魔石をリトナに見せる。
それを見てすぐに理解した彼女は目の前に居る少女の頭を撫でて、立ち上がった。
「マリトーナちゃん。」
「どうなさいましたか。リトナ様。」
リトナがそう呼ぶと、マリトーナと言われる黒子の様な女性が背後に現れた。
彼女は魔法や魔力等の知識が豊富だ。
「マリトーナちゃんって、魔法、詳しいよね。」
「…リュートル様には劣りますが。」
主の問いにそう答える彼女は顔を上げない。
そんな様子の従者を見て、リトナは彼女の前にしゃがみ込む。
少し分厚い手で真っ黒な髪を撫でた。
黒い布で隠された顔がリトナを見る。表情がわからない。
「少し、手伝ってくれる?」
「…喜んで。」
別の部屋に移動する。もし何かあった時の為に、一応リトナの部屋で調べることにした。
丸い机を3人で囲み、マリトーナが魔石に触れて何かを呟いている。
ギュンと音を立て、いくつもの魔法陣が空に浮かぶ。
どっかの異世界アニメみたいだなとリトナは思いながらそれを見つめる。
「…人の魔力を無理やり吹き込んだ物です。普通の人間の魔力の5倍以上は余裕であると思われます。」
「それを魔物に使う事で、魔物の力を増幅させてたってこと?」
「あ、あの。それ、一つの魔物の中に沢山あったんですけど…関係ありますか?」
居心地が悪そうに、緊張しながら少女は喋る。
そりゃそうだ。リトナは少し申し訳なく思った。だって慣れない人と密室に入れられているんだし、これが普通だろう。
少し心を落ち着かせてあげよう。リトナはとある人を連れてこようと部屋を出た。
「はい!ロタネ君とファイアール!」
「「なんで?」」
二人を連れて部屋に戻る。部屋に入った彼らは同時に同じ言葉を口にした。
マリトーナはわかっていたかのように声一つあげない。
「急に連れてきたと思ったら…今回俺はその現場に居なかったからなんもわかんねぇぞ?」
「んー?何となく?」
「せめてちゃんとした理由ぐらい考えろや。」
リトナはファイアールを相手にしながらチラッと少女の方を見る。
ルドベキアは双子の兄であるロタネの側に座っている。
「…ルドベキア様、これを取った時の状況を教えていただけませんか?」
「あ…えっと、魔物の体に沢山ありました。種類は多分一緒です。」
「それが入ってる魔物は30体近くいました。殺した瞬間、体が膨れてそこから魔石が大量に…」
マリトーナは魔石を見つめながら二人の話を聞き、席を立つ。
「リトナ様、ロタネ様。少し着いて来ては頂けませんか?」
「「了解。」」
部屋にいるファイアール達に電気は消しといてと言い残して、リトナとロタネはマリトーナの背を追う。
しばらく歩み、B級幹部が仕事をする部屋の廊下に出た。
枯れた声や叫び声が篭って聞こえてくる。
「…あまり耳をすまさないでください。お二人なら平気でしょうけど。」
振り向かずにそう言って、マリトーナはしばらく無言で廊下を進み、とある扉の前で止まった。
ドアノブを回した先にあったのは沢山の紙にノート、何かがぎっしりと書かれたホワイトボードなどの情報に関するものが置いてあった。
「こちらはB級幹部様達が今まで集めて来た魔物や魔石、黒薔薇等の情報があります。今回に関してはこちらですね。」
マリトーナがそう言って手に取ったのは比較的新めのノートだった。
とあるページで手を止め、リトナにノートを渡す。
そこには人の名前がすらすらと並んでいた。
「これは?」
「魔物に襲われて行方不明となった者達の名前です。死体として見つかった者も助かった者も居ますがそれには線を引いております。」
そう言ったとしても馬鹿げた量だ。
次のページにも、その次のページにも同じぐらいの人の名前が書かれている。
ざっと500人は居た。線を引かれていたのはたったの23人。
それを見ていると、今度はロタネにも一つの本を渡していた。
こちらと比べると明らかに古く、酷使されたような見た目だ。
「そちらは魔物の本です。今渡したページが今回の要件です。」
「…クラーケン?」
ロタネが口にしたのは海の怪物クラーケン。
流石に有名な怪物だ。リトナも知っている。
イカ、またはタコの姿をしている神話生物。
船を沈めるほど大きく危険な魔物だとこちらでは伝えられている。
「そちらの被害者、何十名かは海で消えております。一番新しい情報です。」
「クラーケンを私達に倒して欲しい…って事?」
「はい。ですが今回はメンバーを考えられておりません。お二人がいいのなら他に何名か入れて向かっていただきますが、不都合があるのなら仰ってください。私がお二人を呼んだ理由はデメリットが少ないからです。」
「…デメリットって何?」
ロタネが語るマリトーナにそう聞くと、彼女は彼を見て頷いた。
「ファイアール様は炎魔法の使い手であり、今回の任務では難しいと判断致しました。ルドベキア様は本日少し体調が優れなさそうなので、水中でも動けるリトナ様、陸から攻撃できるロタネ様を選ばせて頂きました。」
「…ごめん。今回は別の人に頼ませてほしい。」
マリトーナの話を聞いた後、小さな紳士はそう言った。
少し申し訳なさそうな、心配そうな表情をしていた。
「今回、僕が行くメリットが少ないと思う。遠距離ならそれこそヴィーナスさんやジュピターさんで充分だし、今はルドベキアが心配だから。」
「了解致しました。ではリトナ様、人を集めた後、任務の説明を改めてさせていただきます。」
「うん、お願い。」
なんとなく、『草タイプなのになぁ。』とか思った考えを取っ払う。
ロタネがそっと部屋を出ていくのを確認した後、マリトーナは顔を背けて表情を隠す布を取る。
伝達魔法を使う際には布を取った方が確実らしい。
すぐに足音が聞こえて来た。二人分、静かで華麗な音がする。
扉が開くとそこにはヴィーナスとリュートルが立っていた。
二人がリトナの隣に立つとマリトーナは布を再び付けて礼をした。
「では任務の説明を改めて。今回は海に潜む魔物、クラーケンの討伐を頼みます。行方不明者約30名を食らった者だと考えております。巨大なイカ、またはタコの姿をしており、ランクはS以上行っているでしょう。伝説級です。お気をつけてください。」
「「「了解。」」」
「では十分後、そちらまで飛ばしますので用意を頼みます。」
マリトーナはそう言って私たちに背を向けた。
多分、もっと資料を探すんだろうなと思いながら部屋を出た。
自分の部屋に置いてある、魔力を消し去りただの双剣と化した己の武器を腰の鞘にしまう。
流し込む魔力の量で鎖の長さが変わる、リトナ専用の武器。魔力を一定時間流さない、または魔力を吸い込むと鎖は消え、持ちやすい武器となる。
軽く体を伸ばし、自身の部屋を出た。