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『……っ!?』
朱雀の黄金の瞳が驚愕に大きく見開かれる。掴んだ手首から、ジリジリと魂を直接焼かれるような拒絶の熱が伝わってきた。暴走する神力が、触れ合おうとする煌の魂を本能的に弾き出そうとしているのだ。
凄まじい激痛が、脳の奥まで一気に貫いて、意識が白く飛びそうになる。だが、煌は歯を食いしばり、もう片方の手で朱雀の華奢な肩を、その身体ごと闇の中から引き寄せるように強く、強く抱きしめた。
「がはっ、……あぁクソ、本当に熱ぃなっ……!」
『煌、放すのだ! わしの炎はお主の魂まで燃やし尽くしてしまう……っ!』
「放すわけねぇだろっ……! 嘘吐かれたのは今だってムカつくし、許してねぇよクソが!」
煌は朱雀の胸元から顔を上げ、涙の滲む目で、濁った黄金の瞳を正面から見据えた。
「自分でも、この気持ちが何なのかはまだ全然わかんねぇよ! 怒りなのか、情なのか、それ以外の何かなのか……そんなの、考えたってちっとも整理がつかねぇ!」
抱きしめる腕に、さらに全身の力を込める。離してたまるか。もう、この手を離したら二度と会えない。その恐怖だけが、煌の身体を突き動かしていた。
「――だけどな! お前を失いたくないって気持ちだけは、これっぽっちも嘘じゃねぇんだよ……っ!!」
叫ぶと同時に、煌は朱雀の顔を両手で引き寄せた。
戸惑いに揺れる黄金の瞳が、至近距離で見つめ合う。
煌は溢れ出る涙も、魂を焼き焦がす拒絶の熱もすべて無視して、その青ざめた唇に、自分の唇を強く押し当てた。
それは、自分でも名前のつかない感情の爆発だった。
荒々しくて、不器用で、だけど何よりも一途な――魂の口づけ。
センチネルの魂の真の結びつきとは、理屈ではなかった。世界の掟でも、巫女としての使命でもなかった。ただ、この手を離したくない。この男を失いたくない。それだけだった。その剥き出しの意志が、どんな神術よりも深く、朱雀の魂の核心へと届いた。
――その瞬間。
二人の唇の隙間から、眩いほどの純白の光が爆発的に溢れ出した。
純白の光は、朱雀の身体を縛っていた黒い穢れの枷を次々と粉々に打ち砕き、どす黒いヘドロの闇を瞬く間に白銀の世界へと塗り替えていく。
二人の魂が深く混ざり合い、熱く溶け合っていくのが分かった。魂の交わりによって、暴走していた朱雀の強大すぎる神力が、煌という本物の器へと優しく還流していく。
『……あぁ、本当に……お主は、わしの……』
朱雀の黄金の瞳に、本来の、あたたかくて気高い輝きが戻っていく。
彼は愛おしそうに目を細めると、捕らえられていた手首をそっと返し、煌の手を優しく握り返した。そして、お互いの涙を溶かすように、そっと自分の額を煌の額へと重ねる。
ゴォォォ……と、世界を狂わせていた炎の音が、嘘のように急速に静まっていった。
光がパッと弾け、次の瞬間――煌は、現実の枯山水の庭園に立っていた。
天を衝いていたあの狂暴な炎の渦は跡形もなく消え去り、夜空からは、澄んだ月光がしんと降り注いでいる。
腕の中には、暴走を終え、すっかり熱の引いた朱雀の身体があった。朱雀は白い単衣の胸元をわずかに乱したまま、規則正しい寝息を立てて、泥のように深く眠っていた。
「……終わった、のか……?」
煌が呆然と呟くと、静寂を取り戻した庭園に足音が近づいてきた。
「童殿……!」
「おい、本当にやってのけやがった……」
燕花が信じられないものを見るように目を細め、静かに目元を押さえる。白虎が感極まったように声を震わせる。白虎の太い腕の中で、神官長・静遠は「調律が……成功した……?」と、自分のすべてが否定されたように顔を白くし、がくりとへたり込んでいた。
煌は、静かに眠る朱雀の寝顔をそっと見つめる。
自分の唇に残る微かな熱と、さっきの口づけの感触に、今更ながら顔がカッと熱くなった。
全身の打撲も、精神の疲労も完全に限界だったが、その胸の奥には、魂の交わりが遺した確かな温もりが、灯火のように消えずに残っていた。
コメント
1件
みぅだよ🤍🥀読んだよ、第53話……。 もうね、冒頭の『魂ごと焼かれるような拒絶の熱』って表現からして、ヤバかった。煌が「失いたくないって気持ちだけは嘘じゃねぇ」って叫ぶとこ、胸がギュッてなったよ。あの口づけ、荒くて不器用だけど一途で、本当に綺麗なシーンだった……。 朱雀の黄金の瞳に本来の輝きが戻る瞬間、涙出そうになった。二人の魂がちゃんと繋がったんだね。お疲れ様、煌。