この作品はいかがでしたか?
22
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「そうだ、戦うんじゃない。ここから逃げる!」まんじゅうが声を上げる。
「は?どうやって…」
まんじゅうは徐ろに椅子を持ち上げ椅子の脚を窓に向けると、一気に力を込めて振り下ろした。
ガシャァァンッ!
鈍い音を立ててガラスが粉々に砕け散る。冷たい夜風が一気に流れ込み、カーテンがはためいた。
「嘘だろぉwww」
「よし、これで外に出られる!いぬいぬこ、あの子を頼む!」
窓をぶち破って外に出たまんじゅうは振り返ると、いぬいぬこに指示を飛ばした。
いぬいぬこは慌てて「Number 11」の少女を抱え上げ、割れた窓の方へと急ぐ。
少女を先に窓から外へ降ろす。そして自分も続いて外に出ようとしたその瞬間――
ドンッ!
扉が吹き飛び、異形の影がついに姿を現した。
いぬいぬこ達は何とか窓から脱出し、廃病院の外に飛び出した。
だが、一息つく間もなく、異形の影が壁を叩きつけ、建物を揺るがす音が響く。
「ヤバいぞ、これ…!」
何か、何か逃げ切れる手立てはないのか――
いぬいぬこはあたりを見渡す。病院前の大きな幹線道路だが、乗り捨てられた車両が無数に鎮座している。
その時彼の目に一台のバイク”CBR”が写る。
「まんじゅう!あれを使おう!」
まんじゅうはすぐに気づき、CBRにまたがった。いぬいぬこも続いて「number11」を担いで跨る。
「キーは刺さったままだ!」
「OK!」
キュrrrrrrr ヴォーン
けたたましいサウンドを奏で眠りから覚めたマシンは勢いよく走り出す。
ドゴォンッ!
ついに異形が壁を破り出てきたが、その姿はみるみる遠ざかっていく。
「うっひょー速えー!」
楽しそうにそう言ういぬいぬこだが、
ヴーンヴンヴンヴンヴン….
様子がおかしくなった。
「……これ、どうやってギアチェンジするの?」
「え。」
残念なことに、ふたりともアクセルとブレーキ以外バイクの運転方法を知らなかった。
後ろを振り返ってみたが、もう異形は追ってきていない。
キーッ
やがて開けた道路でバイクを止め、降りた。
「ここまでくればもう大丈夫だろう。」
まんじゅうは周囲を警戒しながら言った。
「ここから先は道路が開けてるから、車で行こうぜ!」
そう言っていぬいぬこは眼の前のハイエースのドアをあけキーを回すが、動かない。
「まぁ次!」と言ってすぐ近くの軽のキーも回すが、動かず。
そんな調子で片っ端から試していったが、結局動いたのはボロいジムニーだった。
ハンドルを握るいぬいぬこにまんじゅうが言う。
「お前…運転できるの?」
いぬいぬこは自信ありげに頷く。
このジムニーはマニュアル車だが、すんなりとギアチェンジし走らせている。
「バイクはできないけど、車なら任せろ!」
そうしてしばらく走り続け、日が沈みかけて来た頃だった。
灰色の街並みの中に突如、白く輝く百合の花畑が出現する。
いぬいぬことまんじゅうは、ジムニーを止めて外に降り立った。夕焼けに照らされた白い百合の花畑が、灰色の廃墟の中で異様なほどの美しさを放っている。
「……なんだこれ。こんなところに花畑があるなんて普通じゃねぇだろ。」
まんじゅうは花畑に目を奪われながら言った。いぬいぬこも言葉を失い、白い花々をじっと見つめる。
「多分学校のグラウンドだった場所だよな。……でも、なんでこんなに綺麗なんだ?」
風が吹き、花びらが舞う。心地よい花の香りが辺りを漂っている。
「っおい!いぬいぬこ!あれ!!」
まんじゅうが驚いた声で花畑の中心を指差す。
そこには、夕陽に照らされ、白い百合の中に一人佇む女性がいた。
この廃れた世界には不似合いなほど美しい存在だった。”ウルフカット”の髪が風に揺れ、その姿は透き通るような神秘的なオーラを纏っていた。
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