テラーノベル
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素晴らしい作品をありがとうございました‼︎ 感動と興奮で一杯です! 本当に世界観が美しくて素敵ですね…
コメント失礼します🙇♀ 純愛なデートアメ日が本当に尊くて口角喪失しました!! アメさん…やはりイギさんの息子さんだからかスパダリ紳士な一面も持ってて良きだなと思いました✨ 素敵な最推しカプノベルをありがとうございました!
最推しカプをありがとうございます! 日本さんの敬語無し姿はやはり新鮮ですね…映画が終わった後に感想が止まらない所、やはりオタクなのだなぁ…と思いました。 公園でアメリカさんに日本さんが言った「失礼だな。純愛だよ」の一言に日本さんも口にはあまり出さないけれどアメリカさんのことを愛しているんだな…と感じました。この2人の関係、大好きです 後おまけの日本さん…不意打ちでそれはちょっと卑怯ですよッッッ!?
親愛なる母君へ。
お誕生日おめでとうございます。
好みに合うか分かりませんがご査収くださいませ。
夕飯の片付けも終わり、二人でソファに沈み込む。
テレビはついているが、どちらもまともには見ていない。
僕はスマホ片手に、期間限定コラボガチャと睨めっこ中だ。
「……出ません……っ」
十連の結果を見て、思わず唸る。
「くそぉ〜!!」
レア演出からのすり抜け。これはめちゃくちゃ精神的ダメージが大きい。
横でアメリカさんが小さく笑った気がしたが、今はそれどころではない。
「もう一回……いや、でも……」
課金画面を開いては閉じる、理性と物欲の攻防戦。
その間、彼はずっとスマホを触っていた。
やけに真剣な横顔でスクロールさせる指。
でも口元は満足気に上がっている。
世情調査だろうか。
それともまた何か面白そうなことでも見つけたのか。
不意に、彼がスマホをしまった。
次の瞬間、肩に重みがかかる。
「なあ、Japan」
少し低い声。
視線を向けると、いつもの軽い笑み。
「なんですか?」
「Japanってさ〜ずっと敬語だよな」
「にゃぽんにはタメ口なのに」
「…そりゃ、兄弟ですから」
「俺にもタメでいいんだぞ?」
恋人なんだし、と僕の頬を軽くつつく。
言われ慣れてるはずなのに、触れる指が冷たい。
「癖なんですよ。会社でずっと敬語ですし……もう染み付いてしまって」
立派な社畜の証と言っても過言ではないこの癖。
今さら変えろと言われても、簡単な話ではない。
「ふーん」
彼は観察するような視線のまま、急にぱっと顔を上げた。
「よし決めた!お前明日一日敬語禁止な!」
両肩を掴んで不敵に笑う姿。
それは”国”として無茶なことを要求してくる時と全く同じ。
驚きはしたものの、すぐ平静を取り戻して、溜息を吐いた。
「そんな無茶な…」
だが、僕をよく知る彼は、当然反応を見越していて。
チェシャ猫のような笑みを浮かべて寸分まで顔を近づける。
「勿論、褒美がある」
「一回もルール破らなかったら、飯奢ってやる。好きなもん好きなだけ食べていいぞ」
……今だけはその笑顔が恨めしい。
「…回らないお寿司でもいいんですか?」
「Of course!」
自信満々な肯定。
美味しいご飯が食べられるなら…僕に拒否の選択肢は存在しない。
「分かりました。やります」
「Now you’re talking!」
ぱっと顔を輝かせる。
そんなに嬉しいことだろうか。
「そうと決まれば明日はデートだな。ラフな服で来いよ」
「デート、ですか?」
「ルールあるんだから、ちゃんと一日一緒にいないとだろ」
…会話しないってのはできないか。
デートは楽しみだけど、そこは見透かされててなんだか悔しい。
「……善処します」
「もう敬語使ってる」
「あ」
しまった、と口を押さえると、彼は声を上げて笑った。
「まだ今日だしノーカンだって」
既に楽しそうだ。からかってるだけかもしれないが。
「今のうち練習しとくか?」
「タメ口ついでに、”Darling”って呼んでくれていいんだぜ?」
「い、いえ遠慮しときます」
「ちぇ、つれねーなぁ」
そう言いながらも、彼はどこか満足げだった。
会話が止み、テレビの音だけが部屋に残る。
アメリカさんの重みは動くことなく、腕が熱い。
敬語を外す。
たったそれだけのことなのに、なぜか落ち着かない。
明日一日、無事に耐えられるだろうか。
そんなことを考えながら、僕はスマホの画面を閉じた。
同時に、アメリカさんが小さく息を吐く。
それがやけに深くて、真剣に聞こえたのは…きっと気のせいだ。
翌朝、言われた通りラフな格好で部屋を出る。
白のTシャツに黒のストレッチジーンズ。
動きやすさ優先だが、一応デートだ。
鏡の前で一度だけ全身を確認してから、玄関を開ける。
家の前には、既に彼の車が停まっていた。
高級感のある黒のアメリカ車。
ドアにもたれかかるアメリカさんが、こちらに気づいて軽く手を上げる。
彼もまた、Tシャツにジーンズ、ミニタリーコートとカジュアルな格好をしていた。
「おはよ、日本」
「おはようご…っ……おはよ」
詰まりかけて、なんとか修正する。
「ちゃんと言えたな」
「今日はルールがある…から」
「っはは、ぎこちないの可愛い」
「…うるさい」
尖らせた唇を、くくっと喉の奥で笑われた。むかつく。
助手席に乗り込むと、上質なシートが身体を包み込む。
車内にほのかに残る、僕と彼の同じ煙草の香り。
助手席には当たり前のように未開封のボックスが置かれている。
それに妙に落ち着く自分がいて、ちょっと悔しい。
エンジンが滑らかにかかり、車が走り出す。
流れてきたのは陽気な洋楽。
そのメロディに乗るよう、アメリカさんが自然に口ずさみ始める。
母国語になると、少し低くなるテノールボイス。
慣れた手つきで運転するキリッとした横顔も相まって、いつもよりずっと大人びて見えた。
……かっこいい、なんて絶対言ってやらない。
「ん、どうした?」
「なんでもない」
「今、なんか言いかけたよな」
「……気のせい」
不器用な短い言葉しかまだ言えないけど、少しずつ、詰まることがなくなっていく。
慣らされている。
そう実感した初めての瞬間だった。
しばらくして辿り着いたのは、大型ショッピングモール。
休日だからか、どこも活気に溢れている。
「ここ?」
「デートっぽいだろ」
「……まあ」
エスカレーターを上がり、映画館の前へ。
その時、スマホが震え、電子チケットが送られてくる。
表示されたタイトルを見て、思わず足を止めた。
「これ…っ!」
「こないだ日本が勧めてくれた原作、ちゃんと読んだぞ。めっちゃ良かったぜ」
「映画はまだ見てないって言ってたし、一緒に見てえなって思ってたんだ」
アレ、ちゃんと読んでくれたんだ。
そういえば、仕事が終わらないと愚痴った時にチラッと言ったような…
そんなたった一言をずっと覚えてたのか。
「よく覚えて……た、ね」
またもや出かけた語尾を飲み込む。
「当たり前だろ」
「日本のことは、何でも覚えてたいんだよ」
近づいてきた眩しい青がまた、僕を刻み込むよう見つめる。
口調は柔らかいのに、輝きは鋭い。
「……覚えなくていいことまで覚えてそう」
余裕の無くなっていく頭で、やっと絞り出したのは、そんな強がり。
「それも含めてな」
なのに余裕で受け止められては、もう大人しくなるしか無かった。
「ほら、ポップコーン買いに行こうぜ」
自然に指を絡められて、隣を歩く。
「……うん」
嬉しい、の言葉は出なかったけど。
今はなんとなく、言葉の滑りがいい気がした。
興奮冷めやらないまま、施設内でふらりと立ち寄ったカフェ。
窓際の席に向かい合って座る。
僕はサンドウィッチとポテト。
アメリカさんはバーガーとコーヒー。
「どうだった?」
肘をついて、彼が軽く首を傾けた。
「すっっごいよかった」
間髪入れず答えて、言葉が足りないと気づく。
「いや、あの……最後の改変、原作と違ったけど、あれはあれで解釈一致というか。ちゃんと原作リスペクトが感じられるキャラの扱いしてるのが嬉しくて」
堰を切ったように、言葉が溢れ出して止まらない。
にゃぽん相手に語る時の雰囲気と無意識に心が同調していく。
「ヒロインが一瞬笑うとこ、原作だともう少し分かりづらいんだけど、映画だと間を作ってわかるようになってたじゃん。あれは多分、監督が……」
はっとして口を閉じる。
僕が一方的に喋ってしまってる。
恐る恐る顔を上げると、アメリカさんは頬杖をついて、じっとこちらを見ていた。
ただ、楽しそうに。
「続けて」
「……え」
「何も気にしなくていい。もっと聞かせてくれ」
眩しいものを見るように、目を細める。
「お前がそんなに喋るの、珍しいんだからさ」
心臓が変な跳ね方をした。
「……別に、普通」
「目、めっちゃキラキラしてんのに?」
自覚はない。
けれど、熱くなっているのは否定できない。
「……だって、好きな作品だし」
「うん」
「語れる相手、あんまりいないし」
言ってから、少しだけ気まずくなる。
けど、彼はふっと笑った。
「俺が何時間でも聞くぞ」
「いや、そんなには…」
「今の日本ならいけるだろ」
「やめて…いける気がしてきちゃう」
さすがに何時間も居座れないので、程々にしつつ語りを再開する。
その間も、アメリカさんは相槌を打ちながら、時々「へえ」とか「なるほどな」とか、的確に返してくれる。
適当に流している感じはない。
ちゃんと理解しようとしている。
それが嬉しくて、さらに熱が入ってしまった。
「――だから、あのラストは絶対続編前提で」
勢いのあまり身を乗り出しそうになった時、ふとアメリカさんの指が僕の手元へ伸びる。
「おいおい、そろそろ飯も……」
しかし、それは宙でいきなり動きを止める。
「……No kidding…」
ゆっくり顔を上げると、アメリカさんがバーガーを持ったまま固まっていた。
「……いつの間に」
「普通に食べてたよ」
「嘘だろ!?」
未だ動かない指の先にある僕の皿は綺麗に空。
けど、彼の皿はまだ半分以上残っている。
「語りながら完食ってどういう構造してんだよ」
「だって、お腹減ってたし…」
「いやそうだけど」
吹き出すのを堪えるみたいに、肩が揺れる。
「お前、ほんとおもしれぇな」
「…そう?」
「そう」
湯気の立たなくなったコーヒーを一口。
同時に、僕もメニューに目を落とす。
「甘いの食べたいな…」
疲れた脳と口と相談しながら、真剣な顔でケーキを吟味する。
「……切り替え早すぎだろ」
「栄養補給大事でしょ」
大真面目に返すと、息を零すみたいにまた笑った。
「やっぱお前といると飽きねえわ」
大きな口を開けたままバーガーに齧り付く。
僕ばかり見て食事に手をつけないアメリカさんが遅いだけじゃ…
なんて指摘は無粋な気がして、言えなかった。
バーガーの減りは相変わらず遅い。
ショッピングモールを離れて、車を走らせること数十分。
着いたのは広い公園。目的は腹ごなしのためとのことらしい。
車を停めるなり、アメリカさんがトランクを開ける。
持ち上げたハッチの向こうで、僕は固まった。
「……ちょっと待って」
バスケ、サッカー、バドミントン、テニス、フリスビー、キャッチボール
それぞれの道具がぎっしりと詰まっている。
オリンピックでもやるのかと言いたくなる道具の多さだ。
「種類多くない?」
「日本とやりたいの詰め込んだらこうなった」
照れくさそうに、でもさらっと言う。
さらっと言うな。
「詰め込みすぎでしょ」
「選択肢多い方が楽しいだろ?」
「そうだけども」
「で、どれやる?」
トランクに寄りかかりながら、親指で中を示す。
「言っとくけど、全部は無理だから」
「時間あるしいけるって」
「無理でしょ運動不足の社畜舐めんな」
「そこ誇っていいとこじゃねえよ」
呆れを隠さない大きな溜息。
そして、腕を広げ、道具たちをがさっと収める。
「全部持ってくの!?」
「また取り来るの面倒だろ。向こうで決めようぜ」
ガシャガシャと危なっかしい音を立てて公園へ歩き出す彼。
腕の隙間から、テニスボールが滑り落ちる。
「もう…」
転がるそれをサッと拾って、ゆっくり遠ざかる背を追いかけた。
気づけば、雲が黄色に染まっていた。
バドミントンやフリスビーで突風に難易度をあげられ、
キャッチボールで仕事の愚痴をぶつけ合い、
テニスやサッカーでぶっ倒れそうなほど走って。
汗だくの僕らは芝生に寝転んで、同じ空を眺める。
火照りを冷ます風が心地いい。
運動不足の体には少し堪えたが、暫くしたら鼓動が落ち着いてきた。
その時、アメリカさんが風を切るよう起き上がり、僕を覗き込む。
「なあ、日本」
「次のGame、負けたら飲み物奢りな」
相変わらず突然な提案に、疲れの残る体を起こした。
「いいけど…急に言い出すの、好きだね」
「奢り勝負、何でやる?」
「……選ばせてくれるんだ」
「せっかくだ。フェアにいこうぜ」
そう言って笑う顔は、完全に“余裕”。
地面に視線を落として、転がっている道具を見渡す。
勝負ができそうなのは、バドミントン、テニス、サッカー、バスケットボール。
その中で僕が選んだのはーー
「……これで」
次の瞬間、彼は楽しそうに口角を吊り上げた。
「へえ」
「俺相手にバスケとは…Challengerだな」
軽い煽り。 でも、なんだか嬉しそう。
「どうせなら、あなたの”得意”で勝ちたい」
「言うねえ」
ボールを手に取って、慣れた手つきで弾く。
「そういうとこ、好きだぜ」
立ち上がって草を払い、僕に影を被せる。
「じゃあ行くか。…悪ぃけど手加減はしねえぞ」
見下ろす不敵な笑みは、本気の証。
紛れもなく、”恋人”ではない、“好敵手”への宣戦布告だ。
引き出された熱に喉が鳴る。
「……望むところ」
三点先取の1on1。先攻はアメリカさん。
やっぱり、壁は高かった。
低い姿勢からの鋭いドリブル。
軽いフェイント一つで重心をずらされ、その隙に一気に抜かれる。
「ほらどうした!」
振り返る間もなく、ゴールが揺れた。
速い。高い。強い。
真正面からでは止められない。
続く僕の攻撃も、間合いを詰められてボールを奪われる。
二点目。
「マッチポイントだ。このままだとストレートだぞ?」
煽って焦らせる余裕の笑み。
……でも、見えてきた。
アメリカさんは、強引な高速攻撃と、得意の近距離戦で決めに来る。
そして、間合いの外と、フェイントに弱い。
なら…正面からぶつからなければいい。
三本目。
距離を少し取る。彼の間合いに入れば勝ち目は無い。
踏み込んだ瞬間、右肩がわずかに落ちる。
フェイントで揺さぶられるが、追いすぎない。
狙うは減速した一瞬。
ボールに触れ、弾いた。
「っ、」
初めてアメリカさんの声が詰まる。
そのまま後攻。
小刻みに運び、確実にレイアップ。
一本返して、流れを断ち切る。
向かいの青い目が、わずか揺れた。
二度のブロックと一点を決めて、迎えた三回目の後攻。
大きく息を吐いたアメリカさんが、より低く構える。
……全力の警戒だ。
進む足に対して、ルートを遮る鋭い踏み込み。
けれど、焦ると右肩が下がるのは変わらない。
何より……この人の思考は、目に現れる。
右へのフェイントに、目が先に動く。
瞬間、逆へ切り返す。
そして、大きく空いた左へ駆け抜けた。
一、二で大きく跳躍。
指先から放たれたボールが、弧を描く。
ボールが、ネットから真っ直ぐ落ちた。
三点先取。
……勝った。あの、アメリカさんに…勝った。
「………っしゃあ!!」
大きなガッツポーズ。
喜びの余り、アメリカさんの元へ駆け寄って、勢いそのままハグをする。
「……マジか」
本気で悔しそうな顔。
でも同じだけ嬉しそうでもある。
その顔を見て正気に戻った僕は、静かに腕を離した。
「完っ全に読まれてた…エスパーかよ」
「僕だって、あなたのことよく見てんだから」
得意げに笑うと、彼が固まる。
「焦ると右肩下がるし、やけに距離を詰めようとしてくる。しかも視線が目的の方ばっかり向いてる。最後の以外は無意識だろうけど」
「マジで!?怖ぇ…」
「失礼だな。純愛だよ」
一瞬見開かれた綺麗な青が弧を描き、無邪気に笑った。
「ずりぃ。カッコよすぎて文句も言えねぇ」
「本気のあなたも、めっちゃかっこよかった」
「…はは。こりゃ色んな意味で完敗だな」
のしっ、と肩に乗る腕が、背を叩く。
「運動不足の社畜なのにすげえよ」
「余計すぎる褒め言葉だな」
そんな言葉を気にもせず、彼は滴る汗を拭って、僕の手を引っ張る。
「汗流しに温泉いこうぜ。そこで牛乳奢ってやる」
勢いの良さにふらつきながらも、先導する彼の隣に並んだ。
「やった!僕コーヒー牛乳にしようかな」
「カフェイン摂りすぎだ。フルーツ牛乳にしとけ」
沈みゆく夕陽を眺めて浸かった、二人きりの家族風呂。
脱衣所で体を拭いていると、ふと気づく。
「……あっ」
「どうした」
「替えの服、持ってきてない」
汗だくで遊んだままのTシャツとジーンズを見下ろす。
このまま帰るのかと思った瞬間、
「あるぞ」
当然の顔で、バッグから紙袋を取り出した。
「はい」
差し出されたその中を覗いて、固まる。
シャツとジャケット、細身のスラックス。
フォーマルめなそれらは、全て新品だ。
「……なにこれ」
「まあ…お色直し、ってとこだ」
袖を通すと、サイズはぴったり。
鏡で全体を確認すると、背後からアメリカさんに抱きしめられる。
彼が着ている、同柄の色違いジャケット。
…最初から、合わせるつもりだったんだ。
「うん…似合ってる」
背後から回された腕が、思ったより強くて。
でも、離してほしいとは、言えなかった。
約束の牛乳も飲んで、店を出る。
月明かりと街灯が照らす道を吹き抜ける涼風。
もうすっかり陽が裏側へ行ってしまっていた。
空を見る間に、ふと、アメリカさんがスマホを確認する。
そして、ニイっと口端を上げた。
「よし、ここまでだ。クリアおめでとう」
Congratulation!と拍手されたが、一瞬理解が追いつかなかった。
…あ、クリアって敬語禁止か。
ポカンと停止する間に、彼は僕の手を握って、引き寄せる。
「店予約してあるから行くぞ」
「クリアする前提だったん……」
「……ですね」
そうだ。もう敬語でいいんだ。
思い出して無理やり修正したせいで、逆にぎこちなくなってしまった。
「だって日本と美味い飯食いたかっただけだしな」
「でも、敬語外して欲しかったのは本当だぞ」
ふわりと笑う顔に、頬が熱くなる。
なんだそれ。ただ甘やかしただけじゃないか。
「もう…そういうとこ、ずるい」
スマートで、ずるい。
何も言わず、僕をエスコートする優しい引力。
僅かに離れた彼の指へ、そっと指先を重ねる。
いつの間にか、夜の肌寒さなんて分からなくなっていた。
【おまけ】
上質な寿司は、どうしてこんなにも心をほどくんだろう。
個室の柔らかな灯りの下で、僕はすっかり頬を緩めていた。
口に迎え入れたトロが静かに溶けていくたび、幸せが胃まで満ちる。
その様子を、アメリカさんがじっと見つめていた。
砂糖菓子みたいに甘い青眼に心臓が落ち着かない。
「日本、ほっぺ落ちそう」
「落ちません。ちゃんとくっついてるでしょ」
「落ちたら俺が食う」
「ばっちいからダメです」
いつも通りのくだらない会話。
なのに糖度がやけに高い。
多分、このデートのせいだ。
口だけでなく心まで軽くなっている。
そこでふと、いいことを思いついた。
「ところで……アメリカさんって敬語、使えるんですか?」
「急に失礼な角度で殴るな」
大袈裟に眉をひそめる顔が面白い。
今日は散々振り回されたんだ。
少しくらい仕返ししてもいいはず。
「これでも俺、言葉遣いは親父にみっちり教わったんだぜ?」
「…教わった意味あったのかな」
「俺何か悪いことした?泣くよ?」
しょげた様子のアメリカさんを見ぬふりしつつ、身を乗り出す。
「敬語のアメリカさん、見てみたいです!」
期待を隠さずに言うと、彼は露骨に苦い顔をした。
「堅っ苦しいから苦手なんだけどな……」
けれど、少しだけ視線を泳がせてから、観念したように肩をすくめる。
「日本の頼みなら仕方ねぇか」
サングラスを外し、咳払いをひとつ。
刹那、背後に幻の薔薇が咲き乱れた。
「日本。月の綺麗な夜に愛しい貴方と共に居られること、大変嬉しく思います」
……誰だこの王子様。
数秒の沈黙のあと、碧い目がいつもの温度に戻る。
彼を彩っていた花吹雪も静かに鳴りを潜めていた。
「…………こんな感じでよかったか?」
気まずそうにサングラスをかけ直す姿。
ギャップがすごすぎて、頭が狂いそう。
「なんか…凄い新鮮ですね…」
「一瞬あなたがイギリスさんに見えました」
「あんなのと一緒にしないでくれ吐き気がする」
「紳士で格好良かったってことですよ」
「なんか親父が褒められるみたいでムカつく」
他の男の名前出すなよとさらに沈む表情。
拗ねた横顔が、やけに子どもっぽい。
可愛い、なんて思ってしまった自分に慌てる。
「ああ…ほら機嫌直してくださいよ」
拗ねたアメリカさんはちょっと面倒くさい。
どうすりゃ機嫌を直せるかな…
必死に考えて、大きな決心をした。
チュッ。
頬に一瞬触れた唇。
「こ、これで許して…ダーリン…」
滅多にない僕からのキス。
尻すぼみの甘い言葉。
真っ赤になっているだろう顔を隠して、ちらっと彼を窺う。
しかし、そこに彼の姿はなく、気づけば隣に来て抱きついていた。
「なに今の!?めっちゃ可愛い!」
「ちょ、声が大きいですってば!」
ぎゅうぎゅう抱き締められて息が苦しい。
そうだ。この人、テンションが上がると加減を忘れるんだった。
「なあ日本!もう1回!」
「嫌です!」
「Please!Just one more kiss!」
「英語で言ってもダメです!」
顔をぐいっと覗き込まれて、思わず視線を逸らす。
「ほら、Sey “Darling”!」
「No!!今日はもう言わない!!」
抗議しながらも腕を振りほどけない。
悔しいけど、嫌じゃないのがもっと悔しい。
散々彼に甘やかされたけど、僕も大概だな。
漏れてしまった笑いは呆れか惚気か。
…まあ。たまになら、いいかな。