「知りたいです!あなたのこと…」
明日になった。約束通り、あの男はあの場所にいた。
私達は近くの公園まで行き、ベンチに2人並んで腰をかけた。
「…じゃあ質問して?」
「質問…ですか?」
「できる限り答えるから。」
「あ、、あの1回聞きたいこと全てメモしてから聞いてもよろしいでしょうか…?」
「いいよ。」
「1つ目です!お名前はなんですか?」
「……」
「あの…お名前は…?」
「教えない。未来の君は俺に名前を教えなかった。」
「…どういうことでしょうか?」
「まぁ、そのうち分かるさ。」
「じゃあなんとお呼びすれば…」
「うーん…あ!そーだ…りゅうやって呼んで。」
「りゅうやさんですか…?」
「うん。りゅうやって呼んで。」
「分かりました…りゅうやさんですね!
じゃあ2つ目です!━━━━━━━━━━━━━━━!?」
「━━━━━━━…?」
「━━━━━━━━━━━!!」
あれから、愛香はりゅうやにたくさんの質問をした。だけど、
(あまり正体がパッとするようなものもなくて…あ、でも…)
「君と同じ学校にいます。」
(って言ってたな…)
愛香はりゅうやに対しての興味が一気に深まった。謎は増えるばかり。全部消える時はまだまだ先なのだと思う。
翌日。
私はお昼休み、真希の誘いを断り、りゅうやさんに似た人を学校で探した。
「いない…この学年にりゅうやさんらしき人は居ない…」
「じゃあ、他学年…?」
「だとすると、2年生、3年生…?…他学年まで探すのは気が引ける…」
「そういうば、私の運命の人はりゅうやさんって言ってたよね…?だから、私達はきっと巡り会う運命なんだ。こう探さなくても自然と会えるってことだよね…?」
愛香はそう思った。「もう探すのをやめよう」と誓った。決めた。
「…!りゅうやさん…?」
(やっぱりいた。りゅうやさんは私の帰路を把握しているのかな…?)
りゅうやは愛香の声に気付き愛香に手を振る。
「なんか不思議だね…過去に来ると目当ての人の近くにワープするんだ。」
「…そうなんですか?」
「そうみたいだ…俺も過去に来たのなんて初めてだから慣れないことばっかで…」
「そうなんですね…」
「あ!そういえば大事なことなんだけど、この姿の俺のこと。好きにならないでね。」
「え…?」
「えーっとね〜…未来の俺を追われても困る。現代の俺のことを好きになってもらわなきゃ困る。でも現代の俺も待てばこの姿になるから。安心して。」
「…分かりました。」
「…今日何かあった?凄い暗い顔してるけど」
「やっぱり…気付かれちゃいましたか…?」
「うん。バレバレ。そういうとこ全く変わってない。」
「…真希と喧嘩しちゃったんです。」
「どうして…?」
りゅうやは真剣な顔で愛香を見つめる。
「真希と他数人で遊びに行く約束してたんです。それで今日はその準備しようってなってて。でも私、それ忘れちゃってて…」
「君は忘れん坊なんだね…」
「真希に怒られちゃいました」
「怒られてどうした?」
「謝りました。でも謝ることは油を注ぐことだったみたいで…」
「そっか…そっか…」
「謝れば済む話じゃないって言われちゃいました。た。まぁどれもこれも私がちゃんとすれば怒らなかったことなんですけどね。」
「……」
「運命は変えられない。」
「…はい?」
「俺は君の過去が知りたくて来た。今は未来の君にとって過去だ。」
「…はい。」
「未来の君は俺の知らない過去に縛られているんだ。その知らない過去を知りに来た。知れたら、見れたら俺は帰らなくちゃいけない。その過去に辿り着いたら。
君をこれから縛る過去。これから起こる過去。相当酷いものなのだと思う。今を大事にして。でもどれだけ今を大切にしても運命は変えられないけど。変えられないけど…今を楽しんで。このままの状況で今が過ぎれば、とてつもなく君は後悔をするよ。
俺は君の過去を少しでも軽くしてあげたい。運命を変えることはできないけど軽くすることならできる。だから。今を大切にして。」
「りゅうやさん…?ハンカチ…いりますか?」
「…!」
りゅうやは涙を流していた。
愛香は困惑していた。
「りゅうやさん。私のことを一生懸命に考えてくれてありがとうございます。」
「当たり前だ。俺が愛した人の過去だ。」
「……」
りゅうやさんの正体とか、年齢とか、全く分からない。分からないけど、私はこの人のこと世界一、宇宙一分かる気がする。そんな気がするだけかもしれないけど。
そのまま真希と私は仲直りが出来なかった。遊びに行く約束はしていたので予定通り行った。だけど私と真希は気まずいままだった。他、数人が気を使ってくれていた。
「あ、信号、青だよー渡ろー」
真希は1番後ろでみんなを仕切っていた。
「本当だー渡ろー」
「そうだね。」
私は真希とは話さず他の子と喋っていた。
「真希歌うまそうー!」
「え?私?!」
真希がそんな話題を振られていた。
(真希はすごく音痴なのに…)
真希のことを知っている自分が少し悔しかった。憎かった。
「得意な歌はね〜!」
真希は明るく答える。
横断歩道を渡り始めて少し経って気付いた。
(おかしい…あの車。おかしい。)
気付いたのは真希だった。
横断歩道を目の前にして、ブレーキを踏む気配も無く、むしろスピードがどんどんあがってる車がもう近くまで来ていた。
(引かれちゃう。みんなが…愛香が!)
1番後ろにいた真希はみんなと愛香の背中を押す。
「愛香!危ない!」
「…真希?」
この時、愛香は全て状況を理解した。
手に持っていた荷物を投げ捨て真希に手を差し伸べた。真希の手を、腕を引っ張ろうとした。
「真希!」
でも、そんな行動は意味の無い無駄な抵抗だった。腕は疎か、指1本さえも掴めなかった。真希は車に撥ねられてしまった。
「真希…!」
車は1度止まった。運転手が車から降りて来て私達の方に寄ってくる。その運転手が放った言葉は
「あなた達が避けなかったから悪いのよ。あなた達が鈍いのよ。すぐに退かないからこうなるのよ。横断歩道だからって安心して渡ってるとこうなるのよ。」
「信号は青でした!あなたは交通ルールが分からないのですか?!」
愛香は必死に抵抗をする。
「知らないわよ。そんなの。」
運転手はもう一度車に戻った。
車に戻り、車を発進させてどこかに行ってしまったのだ。
「ちょっと!待ちなさいよ!」
「嘘…!引き逃げ?」
グループの女の子がそう呟く。
「…ごめん…ごめんね」
真希の意識は無い。
愛香は真希にただ謝ることしか出来なかった。
「事故よー!誰か救急車!」
目撃した通行人がそう叫ぶ。
「金髪の女の子がー!!」
色んな声が聞こえた。
色んな知らない人が周りに状況を伝えるために叫んでいた。
何も出来なかった。真希は凄い。私達全員を助けてくれた。それに比べて私は真希のことを助けられなかった。あの時、指一本も触れられなかった。
「ごめん…」
自分の不甲斐なさに泣いた。
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