この作品はいかがでしたか?
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しばらく試験の様子を眺めていると、遂に菜乃葉の番がやって来た。案内に来た試験官が彼女の名前を呼ぶ。
「次、菜乃葉。こちらについて来て下さい」
菜乃葉
「うん」
美音
「菜乃葉ちゃん、がんばって!」
菜乃葉
「うん」
緊張した顔でも楽しそうな顔でもない菜乃葉だったが、美音が声をかけると、少し笑みを取り戻したようだ。試験官の案内に従って的の前に立ち、手を前方に突き出して構える。
「準備が出来たら、自分のタイミングで魔法を放って下さい。では、試験始め!」
菜乃葉
「はぁー……」
深呼吸して息を整えた後、菜乃葉はよく通る声で詠唱を始める。
「星の息・目覚めの蕾・届け、【光針ラディクラ】」
突き出した手の前方に生成された、細長い光の針。詠唱が完了すると、それは前方に勢いよく飛び出し、見事的の中心に向かう。しかし、先端が命中する直前に形を保てなくなり、的に到達することなく雲散霧消してしまった。
菜乃葉
(まぁ…杖がない割には良い結果)
「はい、そこまで。お疲れ様でした」
少し考えている菜乃葉には構わず、試験官は無慈悲に試験の終わりを伝える。菜乃葉は悲しんでいるわけでもないが、無意識にトボトボと美音の近くに戻って来た。
菜乃葉
(杖がない時のためにも練習しなくちゃいけないなぁ…めんど)
美音
「めっちゃいい魔法発動だったね菜乃葉ちゃん!魔力制御は丁寧だったし、術式構築も正確だった!魔法力は少し込め足りなかったけど、そこはこれから慣れていけば良い話だし!!」
菜乃葉
「…そうかな」
美音は落ち込む菜乃葉を慰め、和やかに会話を交わす。
と、その時突然、会場内に怒声が響いた。
「おいっ、いつまで待たせるつもりだ!」
声の出処に目を向けると、試験官に詰め寄る新入生の姿が見えた。赤い髪、いかにも高級そうな身なり、溢れ出る傲慢な態度。有力な貴族の子息だ、と菜乃葉は思い当たる。直接会った事はないが、彼の情報は見たことがあった。
「いえあの、試験は順番に行いますので……」
「我がクラウド家がこの学校にいくら寄付していると思ってる! 順番なんて関係あるか! 今すぐ俺の試験を始めろ!」
「クラウド家の……! は、はいわかりましたぁっ!」
返事も待たずに、貴族の少年は的の前に進んでいく。家名を聞いた途端に試験官も態度を変え、それに続く。どうやら、そのまま試験を始めるようだ。
美音
「貴族家の方かな? みんなだって順番待ってるのに……」
小声で眉をひそめる美音に、菜乃葉も苦笑いを返す。
菜乃葉
「モブクズ・クラウド。火系統魔法の大家、名門貴族クラウド家の三男。当主は立派なのに、息子はダメだな」
とは言え、と菜乃葉は思う。傲慢な態度を取る貴族なんて、別に珍しくもない。どちらかと言うと、身分に拘らず真摯な態度を取る貴族の方が珍しいくらいだ。それはこのハリコルオン魔法学校においても変わらない。
この学校は名目上、「学校内に身分の上下は存在しない」と言うことになっている。しかし実際のところ、多額の寄付をしている貴族家の学生は、あらゆる面で優遇されている。
ヒソヒソと他の新入生たちも非難の目を向けるが、モブクズはまるで気にしていない。それどころか、彼は周囲を更に煽るような事を言い出した。
「大体なんだ、この試験のレベルの低さは。まともに魔法を扱えている奴がまるでいない。ましてや、的にすら当てられないぃ!? 論外にも程がある! 伝統あるハリコルオン魔法学校の入学者がこの程度とは、恥ずかしくないのか!?」
自分にも当てはまる言葉に、思わず菜乃葉が目を伏せる。他にも多くの新入生が、ハッと顔を伏せていく。彼が指摘するまでもなく、多くの生徒が自身の実力不足を痛感していた。
しかし、と菜乃葉は思う。入学前の時点では、魔法の練度が足りなくても当然だ。モブクズのような貴族は家庭教師をつけられ、入学前から十分な魔法訓練を受けている。しかし、多くの新入生はそうではない。独学に近い環境で、日々の生活の合間に何とか魔法を習得した者がほとんどだ。現時点での練度の低さを恥じる必要はないし、入学してから勉学と訓練に励めば良い。モブクズの主張は、一方的で的外れなものだ。
そもそも、とっても優秀で凄腕の人が二人、さっきいただろ。
「優れた魔法は優れた詠唱から生まれる。よく見ておけよ、愚民ども。お手本を見せてやる!」
ひと通り演説をぶって満足したのだろう。モブクズは意気揚々と的に向き合うと、朗々と詠唱を始める。
「猛き炎輪・狂える獅子・燃やし・貫け、【火弩矢フレイボル】」
モブクズの手元に生じる、丸太のように太い火の矢。詠唱の完了と共に放たれたそれが、激しく的にぶち当たる。一瞬の爆炎と大きな衝突音。魔法が消えた後、的には大きなクレーターが刻まれていた。
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思ったより長かった…続きます
コメント
7件
僕はいつ出るのか楽しみだッ☆ (っ ॑꒳ ॑c)ワクワク