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第59話 〚間に合え〛(海翔&玲央視点・走る)
「……っ、澪!」
海翔は、
人の流れをかき分けて走っていた。
浴衣の袖が、
何度も誰かに引っかかる。
「すみません!」
「通ります!」
声が、
自分でも驚くほど荒れている。
――さっきまで、
確かに隣にいた。
手の温度も、
まだ残っている気がするのに。
「海翔、こっち!」
玲央が、
少し先で振り返った。
表情は真剣で、
冗談の欠片もない。
「右の通路、人が流れ込んでる」
「澪、あっちに押された可能性が高い」
「……わかった」
海翔は、
短く答えて、さらに速度を上げる。
胸の奥が、
嫌な予感で締めつけられる。
(お願いだ、無事でいてくれ)
――ドンッ。
花火が、
夜空で弾ける。
その光の中で、
一瞬だけ見えた。
白い浴衣の裾。
「……いた!」
海翔が叫ぶ。
でも次の瞬間、
人影に遮られて見失う。
「クソ……!」
玲央は、
すぐに別の方向を見る。
「違う」
「今のは違う人だ」
海翔は、
唇を噛みしめた。
「……恒一だ」
低く言う。
「絶対、あいつが絡んでる」
玲央は頷いた。
「俺もそう思う」
そして、
地面に落ちているものを見つける。
「海翔、これ」
拾い上げたのは――
澪が持っていた、
小さな巾着。
「……!」
海翔の顔から、
一気に血の気が引いた。
「ここにいたってことだ」
玲央が言う。
「遠くには行ってない」
海翔は、
巾着を強く握りしめる。
「……俺が守るって言ったのに」
「自分を責めるな」
玲央が、強く言った。
「今は、探す」
二人は、
目を合わせる。
言葉は、
それだけで十分だった。
次の瞬間、
二人同時に走り出す。
人混みの奥へ。
音と光の中心へ。
――間に合え。
その想いだけが、
夜の中を突き抜けていった。
そして、
少し離れた場所で。
澪の名前が、
誰かの口から、
呼ばれようとしていた。