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第60話 呼ばれた声(澪視点・振り向く瞬間)
――人が、多い。
さっきまで隣にあったはずの、
海翔の気配が、ない。
(……え?)
澪は、
足を止めた。
花火の音が、
胸の奥に響く。
周りは笑っていて、
浴衣の袖が触れて、
世界は賑やかなはずなのに。
自分だけが、
取り残されたみたいだった。
「……海翔?」
声に出してみても、
返事はない。
心臓が、
少しだけ速くなる。
そのとき。
「――澪」
呼ばれた。
低くて、
はっきりした声。
一瞬、
体が強張る。
(……今の、誰?)
振り向く前に、
胸の奥がざわついた。
嫌な感じじゃない。
でも、
“知っている”感覚。
――呼ばれる前から、
分かっていたみたいな。
澪は、
ゆっくりと振り向く。
光の中に、
人影があった。
花火が、
夜空を照らす。
その光の端で、
影が笑った気がした。
(……違う)
咄嗟に、
一歩、後ろに下がる。
理由は、
分からない。
でも、
足が勝手に動いた。
(……海翔)
その名前を思い浮かべた瞬間。
胸が、
ぎゅっと締めつけられた。
「……澪?」
もう一度、
名前を呼ばれる。
さっきより、
少し近い。
澪は、
唇を噛んで、
顔を上げた。
逃げる?
それとも――
その判断を、
迫られる距離。
遠くで、
花火が弾ける。
音に紛れて、
誰かが、
こちらへ走ってくる気配がした。
(……間に合って)
そう願った瞬間。
澪は、
ついに、
相手の顔を――
見てしまった。
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