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#さのじん
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ため息とともに出た白い息は、イルミネーションの光を背景に空虚に消えた。透き通るような冬の匂いは好きだ。だから、人の温かさによってその匂いが半減されるこの時期は嫌いだ。もうすぐ年末だから活気がある?いや、違う。道端にほんの少し積もっている雪、歩道をジャックする青と白の光、あらゆる店に現れる
「𝑴𝒆𝒓𝒓𝒚 𝑪𝒉𝒓𝒊𝒔𝒕𝒎𝒂𝒔」という言葉
そして、俺の目前に置かれた、1個だけ売れ残っているケーキ
茶色の手袋をしているのに、意味がないくらい手が悴んでいる。こんなトナカイのコスチューム恥ずかしいという気持ちは消え、今は早く暖かい家に帰りたい、という気持ちしかない。何時間外にいるんだろう。単発で少し時給が良いバイトだったから選んだのに、まさかクリスマスに路上でケーキ販売させるなんて。全部売ったら帰ってもいいという約束も鬼畜過ぎる。くそ、あと1個なのに、その1個を買ってくれる人が中々いない。最後の1個を譲り合う的なこと?皆さん、日本人でちゃってるって!
吉田:クリスマスにピッタリのケーキいかがですか?あと残り1個ですよ!
えっと、俺、みんなに見えてるよね?たまにこっちを見てくる人は大体カップルで、俺を横目で見ると目配せをしてクスクス笑い合ってる、ようにしか見えない。ケーキの酸味の効いた香り、冬のツンとする匂い、そして、甘ったるいカップル達の臭い
吉田:う”っ、、、
気持ち悪い。今にも酔いそう、てか酔ってる。匂いに敏感な体質のくせに、なんでこの単発バイト応募しちゃったんだろ。しかも、久々の外でのバイトに緊張しすぎて替えのマスク忘れたし。最悪だ
通行人A:お兄さん、トナカイの角なんかつけちゃって可愛い!
吉田:え、ありがとうございます笑
大学生…いや、高校生?香水きっついな。でもお酒の匂いもするから、流石に未成年では無いと信じたい
吉田:あそこの店舗のケーキなんですけど、ここにあるのはクリスマス限定の飾り付きなんですよ!良かったらどうですか?
通行人A:え〜どうする?
通行人B:ケーキ買ってないしちょうどいいよね
あー早く買ってくれ
吉田:もしかしてお買い上げですか?
通行人A:うん!でもぉ
吉田:?
通行人A:私達ぃ、今、一緒に飲んでくれる男の人探しててぇ
通行人B:お兄さん、一緒に来てくれるなら買ってもいいよ?
うわ、だっる
吉田:それはちょっと困ります
通行人A:彼女さんいるの?
吉田:いやそういう人はいないですけど
通行人B:じゃあ別によくない?笑、お兄さんかっこいいし
吉田:いやぁ、でも
通行人A:せっかくのクリスマスじゃん!ね?お兄さんも一緒に楽しもうよ!
…はぁ、吐き気が止まらん。息を吸うのもやっとなのに、なんでこんな理がない会話をしなきゃいけないんだ
吉田:…すみません、この後用事あるので
通行人A:どうせ嘘でしょ?ねぇ、一緒に行こうよぉ
通行人B:お兄さん何歳なの?もう、飲めるでしょ?ちょっとだけだし、いいでしょ?
吉田:いやぁ、、
そんなやり取りを何ラリー繰り返したのかも分からない。いつの間にか片方が泣き始め、もう片方が俺を責めるという構図が完成していた。もちろん周りには野次馬だらけ。そりゃそうだ。未成年らしき女の子2人VSトナカイのコスチューム男子なんて、世にも稀だもんな。まぁ、注目を浴びるのは普通に恥ずい。でもそれ以上に
吉田:……っ、
机を掴んでなんとか体を支えているがもう限界が来そう。全ての匂いがキツすぎる。目の焦点が合わなくなってきた。流石に目を瞑りたい。五感の刺激になるものを一切遮断したい
通行人A:グスン、、 もぉ、なんでそんなに来てくれないのぉ?嫌いなのぉ、?
通行人B:あーあ、泣かせちゃった。しかもこんなに野次馬もいて、何してくれんの?
吉田:っ、、ケーキ無料であげるんで、、帰ってください
通行人B:だから、そーいう問題じゃないの!てか、ずっと俯いててさ?何様なん?
やばい、吐きそう、でもこんなところで吐いたらデジタルタトゥーが残る、、でも、もう、、頭回らない…
?:うわ、お客さんの言ってた通りほんとに野次馬だらけじゃん!帰った帰った!お店の邪魔だわ
…だれ?
通行人A:え!サンタさんじゃん!お兄さんの服も可愛い〜
通行人B:ね、この人かっこよくない?
店の人なのか、?その人はしゃがんで俺の顔を覗き込む
?:…君、単発で来てくれた子だよね?大丈夫、?顔色めっちゃ悪いよ
吉田:、、っ、、大丈夫っす、あと1個売れば終わるんで、、
野次馬が減ったのだろう。突き刺さる視線が減っていくのを感じる。でも、俺はとにかく吐かないことに集中するのに精一杯で、前が見れない
?:もぉ、バカ真面目だな。ごめんね、店舗の方が忙しくて外見れてなかった、、この1個俺買うから、店舗のスタッフルーム行こ
吉田:……ありがとうございます
…は?こんな頑張って売ったのに何この呆気ない終わり方。でも、正直有難い。もう、ここにいるのが辛い
通行人A:ねぇ、サンタのお兄さん一緒に飲み行こうよぉ
通行人B:このトナカイさん、めっちゃノリ悪くて笑、何か言ってやってよ!
はぁ、怒られんのかな。でも、そりゃそうだよな。仕事放棄して言い争って、お店に迷惑かけて……
?:……ごめんね〜この後、この子と『デート』するから無理なんだよね
は?
今、なんて言った?
俺と同様、女の子二人組も呆気にとられているのか返事がない
?:大丈夫?歩ける?
吉田:、、は、い、
?:いや絶対無理じゃん笑、フラフラし過ぎ!乗って!
俺は言われるがままにしゃがんで後ろをむく男の背中に乗った。女の子達がなんか言ってるけど、この人は無視してるし、俺はそもそも言い返す気力もなかった。肩に手をかけると男は立ち上がり、俺をおんぶした状態で店舗に向かっているのが分かった。ゆらゆらと揺れる視界には、ボヤけた光がチラつく。なんで、クリスマスにこんなことしてんだろ
う”、、揺れるのもキツい。俺は心の中で謝罪をして肩に頭をあずけた。するとダイレクトに、この男の匂いが鼻をぬけて頭の中に広がる。その瞬間、俺は 直感的に感じてしまった
あ、この人の匂い、好きだ
サンタコスチュームのもふもふした襟の隙間から垣間見える首筋、つまり、肌が露出している部分からくどくない、爽やかな匂いがする。やばい、、ごめんなさい!!俺が今吐かないためにはこれしかないんです……
目を瞑り、首筋に鼻を当てると徐々に心拍数が落ち着いてきた
?:……くすぐったいなぁ笑、着いたよ
吉田:、、!すみません
気がつくとスタッフルームにいて、その人はゆっくりと椅子に下ろしてくれた。なんて優しい人なんだ、、
?:顔色は、さっきよりはマシだね
吉田:単発の身分で…すみません
?:大丈夫だよ、ちゃんと仕事やってくれたし。ここの店長マジで人使い荒いんだよな…まぁ、体調崩してたけど全部売ってたので帰させたって伝えとくわ
吉田:…えっと、佐野さん、ありがとうございます、デートとか言って誤魔化して下さって
佐野:……名前、あそっか、氏名プレートで分かったのか笑、じゃ、お疲れ
吉田:あ、待って、下さい
正直このまま外に出るのが不安だった。人混みの匂いが1番キツい。いつもの替えのマスクを忘れたせいで、匂いを防御するものが無い。このまま外に出ればぶっ倒れる未来が容易に想像できる。もう、この人に一生会うことは無いだろうから、キモイと思われてもいいや。だから、最後に
吉田:ちょっと、屈んでもらえますか
佐野:ん?こう?
佐野さんは中腰になってくれた。ちょうど俺の目線の先には佐野さんの首が見える
吉田:…すみません、失礼します
佐野:え、ちょ!!
俺は佐野さんの肩に手をのせて、首を0距離で嗅ぐ。鼻先が首に当たるとビクリと佐野さんの体が反応する振動が伝わる。あぁ、やっぱこの匂い落ち着くんだよな。なんでだろ、安心する。佐野さんは最初こそ焦ってたけど、俺が匂いを嗅いでいるだけだと分かったのか固まってる
佐野:…え、これは、何?
吉田:すみません、俺匂い酔いが激しくて、人混みとか無理なんです。今日に限ってマスクとか忘れちゃったし。でも、佐野さんの匂い、すごく安心するんです、なので最後に補充させて下さい……
佐野:…そんなに、安心するの?
吉田:はい……
佐野:……俺、もうすぐバイトあがるからさ
佐野:『デート』行く?
吉田:え、?
『売れ残りケーキ』から発想して作ったお話です。多分6話完結です
♥100こえ次第次いきます
コメント
3件
あの💛ちゃんが🩷さんを自ら匂いを嗅ぎにいく構図が堪らないです🫠ありがとうございます。続きが楽しみです。
🩷さんの首筋に顔を埋める💛さん…絵面最高です しっかりデートしていただきたいです! 続き、楽しみにしております
ありさん、第1話読みました! もう冒頭から引き込まれました…。トナカイのコスチュームでケーキを売る主人公、それに絡む酔った女の子たち、全ての匂いに酔いそうになる描写が生々しくて、一緒に息苦しくなりました。 そこに現れたサンタの佐野さん。まさかおんぶされて「デート行く?」って…! 最後の「匂い、好き」のところ、どきっとしました。続きが気になります!