「大丈夫?」
「もっ、もちろん大丈夫だ」
「マナに直接会って、聞いてみた方がいいと思うの」
「わかってる。今度会った時にでも聞いてみるよ」
「今度じゃなくて、今直ぐにでも会って聞かなきゃダメでしょ」
「わかってる」
「わかってない! 早く聞いて手を打たなきゃ取り返しのつかないことになりかねないじゃない。あの飯塚先輩だよ。マナがいいように使われて、要らなくなったら捨てられるなんて、考えただけでも頭にくるよ!」
ゆずきがマナのことを、こんなにも思っているなんて意外だった。
「落ち着けって!」
「落ち着ける訳ないでしょ! 心配なんだよ、マナが――」
「わかった。直ぐにマナに電話してみる」
「それと私のことはマナに言わないでよ」
「心配してたってことか?」
「そっ、そうだよ」
ゆずきは頬を赤らめて恥ずかしそうな顔をしていた。
「本当に心配してるんだから言ったっていいんじゃないか?」
「いいの、言わないで! 私のキャラじゃないって言うか、マナとは今の距離感でいたいから」
「よくわかんないけど、取りあえず言わないでおくよ」
「うん――」
それから駅でゆずきと別れてから直ぐにマナに電話をした。
プルルルル――プルルルル―――
10回以上コールしたけど、電話には出なかった。家に帰ってからも何度か電話したけど1度も出なかった。折り返しの電話がかかってくることもなかった。結局その日は、マナと話をすることはなかった。
翌日、朝のホームルームが終わると、廊下にマナを呼び出した。
「圭ちゃん、何?」
「あのさ――」
本人を目の前にして聞くのは、なかなか難しかった。
「何?」
「お前、ここ数日俺のところに来なかったけど、宿題とかどうしてるんだ?」
「やってるよ」
「お前が自分で?」
「自分でじゃないけど――ちゃんとやってる」
「誰にやってもらってるんだよ?」
「誰だっていいじゃん! 話ってそれだけ?」
「マナ――誰かと付き合ってるのか?」
「えっ!?」
「付き合ってるんだな?」
「そっ、そうだけど――悪い?」
「悪くはない。もしかして3年の飯塚先輩か?」
「どっ、どうしてそのことを――」
「マナが飯塚先輩と歩いていたのを見たって聞いたんだ」
「そっ、そうだよ。付き合ってるよ。飯塚先輩と――」
「飯塚先輩はやめた方がいいんじゃないか?」
「どうして?」
「良くない噂を聞いてる」
「何、良くない噂って?」
「そっ、それは――」
「何? 言えないの?」
「――――」
「言えないなら、首を突っ込まないでよ! ホントにウザい!」
「あの男は、他におんなっ――」
キーンコーンカーンコーン―――
授業の開始のチャイムが鳴ってしまった。