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砂原 紗藍
#再会
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「一矢くんは悪くないんです」
俺が自宅謹慎中に、女子が先生に言っていたらしい。
真琴が教えてくれたが、はっきり言って俺には馬鹿らしくて、どうでもいいことだった。
なぜ彼女を陥れることはして、俺にはしないのか。
彼女があんなにも傷ついているのに、どうしてそれに胸を痛めず俺のことを庇おうとするのか。滑稽だった。
彼女ならまず、同じクラスの女子の悪口さえ言わないだろう。
あんな馬鹿げた嫌がらせもしないだろう。
俺のことより、髪を切られた彼女のことを心配するべきではないのかな。
「あの子、おまえのこと小学校の時から好きだったらしいよ。学校違うけど、たまたま見かけたって」
「それで?」
俺が尋ねると、真琴は驚いていた。
「俺を好きだから彼女の嫌がらせしていいわけではない。免罪符にするな」
結局、俺は彼女が転校するまで毎日家を訪ねたが最後まで顔を合わせてもらえなかった。
一人目のウソつきは美里さん。
彼女が嘘をつかなかったら、俺と彼女は早くに再会できていたかもしれない。
「彼女の連絡先とかわからない? 家に行っても門前払いで接触禁止って言われちゃったんだ。でもメールや電話なら接触してないだろ」
「……屁理屈だわ」
美里さんは呆れた顔をして演技して見せた。
「彼女は、戒律の厳しいカトリック系の学校へ異例の転校をしたのよ。学校に連絡したり学校の前に押しかけたら、さらに彼女の立場が悪くなるって理解してほしい」
「それは分かってる。俺だってそこまで馬鹿な行動をしたくないから、親友だった君に聞いている」
「残念ながら、携帯ももっていないしパソコンのアドレスさえ知らない。貴方のちからになってあげられないわ」
連絡をとりたくて学校内の教会のミサに毎日通っていたのに。
逆を言えば俺には彼女のように、粘り強く機会を待たなかった。
今すぐに、という衝動だけで付き動いていたにすぎない。
「悪かった」
「いえ。私もあなたと一緒。衝動的に謝って許されたいだけ。彼女の気持ちを一番に考えられていない今、誰も会わない方がいい」
俺が会いに行ったり、美里さんが真実を謝罪したら、現在髪を切られた現実から逃げている華怜さんはまた悲しみや苦しみを直視しないといけない。
自分の気持ちを晴らすために会うのは適切じゃない。
今の華怜さんには時間が必要だと。
でももし連絡先が分かっていたら、もっと早く再会できて、誤解を解けたのかもしれない。
――
二人目の嘘つきは、華怜さんの母親の美怜さんだ。
再会したのは、俺が大学時代。華怜さんの祖父の退職祝賀会で深紅の薔薇のような座やかなカクテルドレスで優雅に微笑んでいるのを見たときだ。
俺は彼女が血走った目で発狂するように怒鳴り散らしていた記憶しかないので驚いた。
それほど彼女を大切にしていたんだろう。
「お久しぶりです」
祝賀会でヒステリックに叫んだりしないだろうと高を括って話しかけた。
自分の父親の祝いの席で、取り乱したりしないと。
「あら、お久しぶりですね。その顔を二度と見るつもりはなかったのに」
ふん、と鼻であしらわれ目もそらされた。
「彼女は元気でしょうか」
「貴方に聞く権利があるの?」
薔薇のようなドレス。それと同様に彼女の言葉は棘がある。
微笑みながら、俺が傷つくことを眺めているように思えた。
「嘘よ。美里さんから、あの時の経緯を聞いている。あの子に、それでも華怜と友達でいてもいいかと直訴されちゃったわ。意外と度胸あるのねえ」
しみじみというと、ウエイターが持っていたシャンパンを一つ手に取り、グラスを揺らした。
「華怜は今、ようやくお洒落を楽しみだしたの。指先だけど、私も驚くぐらい丁寧に装飾して自分の美を育て始めた。あんなにきれいに生まれて、誰からも愛されないのは悲しいけど、それでも自分と向き合い始めた。誰が反対しても、私は娘が学力や地位に縛られるより、一歩歩き出したことを評価するし受け止める」
だから貴方にはもう関係ないのよと、罪を軽くしてくれようとした。
「娘を詮索するのはやめなさい。忘れて、可愛いお嫁さんでももらったらいい」
何も教えないわよと玲華さんはさっさと人ごみに紛れてしまった。
追いかけて話そうとしたら、父が慌てて俺を捕まえておとなしくしていろとくぎを刺した。
ようやく華怜さんは歩き出している。
そういえば玲華さんの指先も真っ赤に染められ美しかった。
そうか。また。
またいつか、街中ですれ違った時、あの美しい髪が見られる日が来るのかもしれない。
だったら俺が気にしていたら、気持ちが悪いかもしれない。忘れよう。忘れて俺もいい加減歩き出そう。
彼女を陥れた陰湿な女性の嫉妬を思い出し、また俺の前で性格をかえるような女性を多々見てきたせいでどうしても信用できないし、恋愛に積極的にできなかったんだよな。
それは数年経っても変わらなかった。
親友の真琴が結婚すると言い出しても、俺には真剣に将来を考える相手は現れなかった。