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世界最高峰のレース大会ということで、世界中の人が沿道におしかける。
「押さないで、ゆっくり進んでください。」
時折、片言英語も使いながら切島は誘導する。
「こりゃ、巡回しがいがあるなぁ。」
無線から上鳴の声が。
「そうだな。ヒーローも総動員だし。」
空を見上ると、上空班がビルの間を飛んでいく。カウントダウンが始まると観客のボルテージが上がる。各選手、ブーストをかけ、スタートの合図で一斉にスタート。
日本特有の道幅の狭さに各選手どう対応するか。どこで鋼選手が勝負にでるか、見物ですねぇ!!
「(選手同士、スレスレだなぁ。大丈夫か舞衣。)」
ちゃっかり、巨大ビジョンに映るレースを観戦する切島。舞衣は牽制し合う選手達をもろともしないで眈々と追い抜く機会を狙っているようだ。またそれを狙う不穏な影が。
「ほんとに翼が生えたように走るんだよな。」
橋の上を飛ぶ報道ヘリから、覗く銃口。
「橋の真ん中まで引き付けて、派手に撃ち抜いてやろうぜ。」
「ああ。イカロスの翼は太陽に近づき過ぎて溶けた。お前の翼は栄光に近づき過ぎて…。」
沿道から一段と大きい歓声が。舞衣が橋の手前で先頭に躍り出たのだ。
「溶ける。」
「折れるんじゃなく、て??」
引き金を引いた少年。弾丸は見事に舞衣のバイクのガソリンタンクを撃ち抜いた。
「…っ!?」
悲鳴が上がったので、巨大ビジョンに目を向けた切島は絶句する。炎上するバイクに、道路上で身動きしない舞衣の姿が。
「舞衣っ!!」
声にならない声で叫び、観客をかき分けて橋へ向かおうとする。
「ちょっ!!鋭ちゃんっ!!」
「おいおいおい!!」
無線越しで上鳴も爆豪も焦る。
「切島さん、落ち着いて!!」
たまたま近くにいた、八百万が静止する。
「舞衣が、舞衣がっ!!」
「舞衣さんを襲ったヴィランは、上空班と交戦中です!!今、舞衣さんはドクターヘリで移送中なので、この事態が収束したら私と一緒に病院へ!!」
「…っ!!わかった!!」
病院に着いたときには、すっかり夜になっていた。八百万の父が舞衣のスポンサーであることを伝え、八百万が看護師と話している間に1人で病室に入る。
「舞衣…。」
心電図の音と酸素吸入の音が虚しく響くなか、八百万が入ってきた。
「一命は取りとめましたが、脊髄損傷のためバイクにはもう乗れないそうです…。」
「そうか…。」
いろんな感情が渦巻きこぼれる涙。
「意識が戻りましたら、1番に連絡さしあげますわ。なので、今日は…。」
「ありがとう八百万。頼むわ。」
涙を拭い、息を深く吐いて気持ちを整える。家に着くと上鳴と爆豪からの連絡も返す気力もなく、倒れこむように眠りについた。
翌日、舞衣を襲ったのは“片目の双子”なる少年らで、個性は見える目で視覚を・見えない目で感覚を以心伝心するということが朝から大きく取り上げられた。
「鋭ちゃん…飯ちゃんと食ってんの??」
仕事終わり、上鳴は無理言って切島を食事に誘った。
「まぁ、な。」
「舞衣ちゃん、どう??」
「まだ、八百万から連絡がねぇ。それにもうバイクに…。」
「乗れない、のか…??」
その言葉に、整えた前髪をつかみ机に肘をつく。
「くそっ…!!」
この世の全てを破壊してしまいたい衝動を抑えるあまり、髪を掴む手に個性が発動する。
「落ち着けっ!!」
上鳴も思わず個性を発動して切島の手を払う。
「わりぃ、電気…。舞衣と一緒にいた時間のこと考えると、なんか…。」
「それくらい、舞衣ちゃんのこと愛してたんだ…??」
「あぁ。だからあのヴィラン。オレの手で捕まえて死ぬまでぶん殴ってやりたかったぜ…。」
「きっとワンパンでイチコロだよ。」
そういって、追加注文で届いた飲み物を切島に渡す。
「なんか、ありがとな。だいぶ楽になった。」
「どういたしまして。」
切島のスマホが机上で振動する。八百万からの着信に、思わず立ち上がる。
「もしもし…。すぐ行く!!」
周囲の客が驚くのも気に留めず、急いで店を出た。上鳴が変わりに頭を下げ。
「良かったな。鋭ちゃん」
と鼻をすすりながら、喜びの声をあげた。
八百万の言葉がリフレインされる。はやる気持ちを抑え、タクシーをおりる。病室前で呼吸も身だしなみも整えて、ノックして入ると。来るのが分かっていたかのように、舞衣は微笑んだ。