テラーノベル
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今回は少し長めのボリュームになっています😌
◇◇◇
気が付いたら、俺は花畑の真ん中にいた。
「……あれ? さっきまで、夜の道にいなかったっけ?」
思い出そうとすると、頭の奥がズキリと痛む。
まるで俺の防衛本能が、それ以上思い出すのを拒否しているようだった。
考えても何も変わらないか。
そう思って、とりあえず周りを見渡した。
目の前に広がるのは、ただただどこまでも広がる花畑。
白、赤、青、黄、ピンク。
不思議と、大切な仲間たちの顔が自然に浮かんでくる。
白は、どこか気品のある百合。
クールに見えて、実はグループ想いで繊細な柔太朗。
赤は、不器用なほど真っ直ぐで豪華な牡丹。
その熱さと明るさでみんなを引っ張ってくれる舜太。
青は、すっと上を向いて佇むデルフィニウム。
いつも底なしの元気で、みんなを笑顔にしてくれる太智。
黄は、繊細でどこか頼りないミモザ。
まるで今の俺みたいだ…
ピンクは、圧倒的な存在感を放つ大輪の薔薇 。
みんなの視線を集める主人公気質な勇斗。
出自も開花期も異なる花々が、お互いを侵すことなく咲き乱れている。
バラバラなはずの五色が織りなす圧倒的な調和の前に、不思議と理屈よりも先に魂が納得させられていた。
ここがどこなのかは全く分からないけれど、みんなの顔を思い浮かべたら、胸の奥が温かくなる。
……みんなのところへ、早く帰らなきゃ。
そう思い足を動かそうとする。
――だけど。
視線の先、鮮やかなピンク色を見つめた瞬間、頭の奥のモヤが、一気に晴れていった。
(あぁ、そうだ……俺、勇斗と……)
記憶の濁流が押し寄せる。
きっかけはそう……
分かりやすく挙動不審だった勇斗。
何かを頑なに隠そうとしていた、その態度。
『なんで何も言ってくれないんだよ!』
怒りに任せてひどい言葉を投げつけた、自分の声が蘇る。
それに対する、勇斗の焦り狂った顔。悲しそうな目。
(どうしてあんなこと言っちゃったんだ。俺、あいつにいつだって笑顔でいてほしかったはずなのに。世界で誰よりも幸せでいてほしいのに……!)
隠し事をされていたショックと、それ以上に、大好きな人を傷つけてしまった後悔が胸に突き刺さる。
胸がちぎれそうなくらい激しく締め付けられ、俺はその場から一歩も動けずにいた。
しばらく思考の海に沈んでいたが、ここにいつまでも留まっていても何かが変わるわけでもない。
俺はゆっくりと立ち上がり、重い足取りで歩き出した。
◇
しばらく進むと、今まで五色の花が咲き乱れていた鮮やかな世界が、ぽっかりと途切れている場所があった。
そこだけが綺麗な緑の芝生になっている。
空間にぽつんと空いたその場所には、一人の男性が、静かに佇んでいた。
年齢は30代半ばだろうか。
俺の足音に気づいたのか、その人はゆっくりと振り返った。
しっかりとした顔立ちで、肌は白い。
センター分けにした黒髪。
身長は俺と同じくらいだろうか。
初めて会ったはずなのに、どこか懐かしいというか、安心するというか……そんな不思議な雰囲気を持っていた。
「やぁ、こんにちは」
男性は柔らかな笑顔を向けて話しかけてきた。
声もなんか落ち着くなぁ……まるでいつも聞いているような……。
黙ったままの俺を気にすることなく、男性は
「こっちにおいでよ。俺の話し相手になって」
と、隣のスペースを促してきた。
俺は吸い寄せられるように男性の隣に行き、腰を下ろした。
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りゅず
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そよぐ風が気持ちよかった。
その風に乗って花の香りがした。
あんなにいろんな花が咲き乱れていたのに、なぜか感じたのは濃密な薔薇の香りだけだった。
「そんな顔してどうした? 」
「え……」
男性が、俺の頬にそっと触れる。
不意に感じる、温かい水気。
「え、そんな、まさか」
俺は、自分でも気づかないうちに泣いていたみたいだった。
「何か……悲しいことでもあった? ここには誰もいない。弱音吐いても、誰も咎めないよ」
その優しい言葉と雰囲気に、せき止めていた感情のダムが、一瞬で弾けてしまった。
「俺は……信頼されてなかったのかなぁ……」
「誰に?」
「大切な人……勇斗に……」
「なんでそう思ったの?」
「分かりやすく挙動不審なのに、何も言ってくれなかった。何も、相談してくれなかった…… あんなにあからさまで分かりやすいのに、問い詰めても絶対に言おうとしない。その態度に、どうしようもなくイライラしてしまった。男同士で付き合っていて、言えないことのひとつやふたつ、俺にだってあるのに……」
「隠されるなら…言えないなら、ちゃんと見えないようにして欲しかったって事?」
俺は深く頷いた。
そうだ。
もし本当に言えないことなら、綺麗に隠し通して欲しかった。
そうじゃないなら、ちゃんと話して欲しかった。
「あぁ、もう泣かないで」
「泣いてない……!」
「そんな顔してよく言う。……頑固だなぁ」
男性は困ったように笑うと、俺の頭をポンポンと優しく叩いた。
いつもなら他人にそんなことをされるのは嫌なのに、なぜか心から安心して身を委ねてしまう。
「あなたこそ、なんでここに?」
ふと気になって、俺はその男性に尋ねてみた。
すると彼は、困ったように眉を下げて、だけどどこか愛おしそうに笑った。
「俺? んー……散歩、かな。誰かがここに、来て欲しいって呼んだからかもね」
「誰かって……誰だよ」
「ふふ、さぁね。でもね、大丈夫だよ。勇斗は恥ずかしくて言い出せないだけだから」
「……は? なんでそんなこと分かるんだよ。会ったこともないのに」
「分かるよ。俺の大切な人に似てるから」
「大切な人?」
「そ、大切な人」
男性は愛おしさに満ちた優しい目で前を向いた。
「勇斗はただ、恥ずかしくて言い出せないだけ。でも本当は話したくて、挙動不審になっちゃってるだけだから。ゆっくり待っててあげな」
「でも俺……」
ひどい言葉を投げかけて、怒りに任せて飛び出して、あいつを深く傷つけてしまった。
今更、どの面下げて……。
そんな俺の後悔なんてすべてお見通しだというように、男性はふっと笑った。
「大丈夫。今頃めちゃくちゃ焦ってると思うよ。勇斗も喧嘩したくてしたわけじゃない。だから……次、目があったとき、気持ちをそのまま伝えたら良いよ」
「……貴方は、ホントに一体……」
その時だった。
『仁人……っ!!』
遠くから、俺を呼ぶ声が響いた。
「あ、呼んでるよ? 勇斗だよね? この声は」
「え、あ……そうだけど……なんで知って……」
「ふふ、内緒。さぁ、あっちから声がするよ。いっておいで」
男性は俺の背中を、ぽんと優しく押した。
突き動かされるように、俺は一歩踏み出した。
その瞬間、さぁっとひと際大きな風が吹き抜けて、世界の景色が一変した。
さっきまで白や赤、青の五色の花が咲き乱れていたはずの世界。
それが、俺が踏み出した瞬間、波が伝わるようにすべて鮮やかな「ピンクの薔薇」へと変わっていった。
視界のすべてを埋め尽くす、圧倒的なピンクの絨毯。
甘く濃密な薔薇の香りが、俺の身体を包み込むように激しく薫り立つ。
――あぁ、そうか。
薔薇の海を全力で駆け抜けながら、涙が視界を滲ませる。
不安になって、喧嘩して、落ち込んで…あげく逃げたのに。
それでも俺の心が、魂が、他でもない勇斗の隣を望んでいた。
振り返ると、芝生の上に佇んだ男性が、ピンクの薔薇の海に包まれながら、俺に向かって優しく手を振っていた。
その左手の薬指に、きらりと光るシルバーの指輪が見えた。
なぜだろう。
その歪な光を放つ指輪の残像が、胸の奥にとても深く、強く印象に残った。
俺はもう一度前を向き、愛しい恋人の声がする方へと、ピンクの薔薇が咲く場所をひたすら走った。
コメント
1件
わああ!! ここで花の色がみんな勇斗のピンク一色になるの、エモすぎるでしょ😭💕💕 主人公が泣いてるところも、謎のお兄さんの優しさも、胸に刺さったよ〜! ほんとにアニメのワンシーン見てる感覚になった…次どうなるの!? じゅんじゅんさん天才すぎる!⋆♡