テラーノベル
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◇◇◇
………ピッ……ピッ…ピッ
重い瞼を上げると、目に飛び込んできたのは見覚えのない白い天井、あとは一定のリズムを打つ電子音、そして鼻をつく消毒液の匂いだった。体は鉛のように重く、指一本動かすのにも酷く体力がいる。
(え……ここは……病院?)
そこまで思い至り、一気に記憶がフラッシュバックした。そうだ、俺は車のライトに照らされて……それで……。
え、でも、じゃあさっきの花畑の出来事は……?
そこまで考えて、不意に自分の左手が、驚くほど熱い何かに包まれていることに気が付いた。なんとか首を動かして視線を落とすと、そこには大きな体を小さく丸めて、震えながら俺の手を握りしめている男が一人。
「は……はや……」
ほぼ掠れて声にならなかった。けれど、その微かな振動が伝わったのか、勇斗がばっと顔を上げた。その顔は涙で激しく濡れ、なんなら鼻水まで出ていて、お世辞にもアイドルとは言えないほどぐしゃぐしゃな顔をしていた。
「仁人……? 仁人……仁人!!!」
勇斗は震える声で叫ぶと、弾かれたように病室を飛び出した。
「先生!!! 仁人が……!!!」
◇
それから医師がやってきて、あれこれと慌ただしく検査が行われた。
後から聞いた話では、俺は勇斗の目の前で自動車に跳ねられ、強かに頭を打ち付けたらしい。頭から血を流してぐったりと蒼白になった俺を見て、勇斗は絶叫。周囲の人が救急車を呼んで、ここまで運ばれてきたのだという。
勇斗はその間、ずっと俺から離れようとせず、半狂乱状態だったらしい。
症状は決して良くはなく、助かる確率は五分五分。なんなら、本当に危ない状態だったそうだ。
いくら峠を越えたとはいえ、まだ体はボロボロの満身創痍。しばらくの間、入院を余儀なくされることになった。
その入院期間中、勇斗は毎日毎日、仕事の合間を縫って面会にやってきた。そして、今にも泣き出しそうな悲痛な顔で、何度も何度も俺に謝り倒した。そんな健気でボロボロな勇斗の姿を見るたび、仁人は申し訳なさでいたたまれない気持ちになっていた。
時は流れ、大分体も回復してきた頃。
歩行訓練も順調に進み、ついに退院が間近に迫ったある日のこと。今日も当然のように、勇斗は面会にやってきていた。
「仁人、ごめん。俺が追いつめたから……」
「もう謝んな。俺も……ごめん」
「仁人は悪くない。もっと早く……覚悟決めたらよかったのに、俺がうじうじしてたから……」
そう言って、勇斗は悔しそうに拳を強く握りしめた。その姿を見て、俺はずっと胸に燻っていた疑問を、静かに口にした。
「勇斗は……俺に何か隠してたよな?」
「……!!」
勇斗の身体がびくりと強張る。
「俺は……」
そこまで言って、俺は言葉に詰まってしまった。このまま無理に問い詰めて、また勇斗を困らせてしまうのではないか。本当は、俺に隠しておきたい大切なことなんじゃないか。そんな不安が頭をよぎる。けれどその時、耳の奥であの優しく落ち着いた声がリフレインした。
目覚める前、あの芝生の上で、男性が語りかけてくれた言葉。
『気持ちをそのまま伝えたら良いよ』
あの温かい手のひらに背中を押されるように、仁人は心の奥底にあった本音を、ぽつりぽつりと紡ぎ出した。
「寂しかった。あんなにあからさまで分かりやすいのに……隠し事されたことが、本当に、悲しかったんだ……」
「っ!!!」
「だから……教えて欲しい。もしそれが、俺にとって辛いことだったとしても……ちゃんと受け入れるから」
「違っ!!……ちゃんと話すから。でも、今じゃなくて、仁人が退院してから。その時に、絶対に全部話すから」
「うん。分かった」
手を取り合う二人の間に、ようやく穏やかな信頼の灯火が戻った。
memi(めみ)
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碧
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コメント
1件
うわぁ…めっちゃ切ない回だった😢 勇斗がぐしゃぐしゃの顔で手握ってるシーン、想像しただけで胸がギュッてなったわ。あと「気持ちをそのまま伝えたら良いよ」って言葉が仁人の背中押すところ、じわじわ沁みた。隠し事の真相が気になるけど、退院まで待つしかないのか…次回が待ち遠しい🔥