コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
フリナが手を掲げると、真っ白で覆われた世界は、見たことがあるようでない、教会が映し出された。
「ここは……?」
「ここは、かつての魔王城にあった教会。私が最初に目覚めたのは、ここだったの……」
「え……。ってことは……?」
様々な人と出会った、様々な経験をした、そんなヒノトはその言葉だけで薄っすらと察した。
「転移魔法……」
「そう。倭国の人たちと故郷は違うんだけどね、私もこの世界の住人ではなかったの」
そして視界には、青褪めた顔をした黒髪の女性だった。
「彼女の名は、マリア=サトゥヌシア。ヒノトのお友達、リリムちゃんのお母さんに当たる人ね」
「マリア=サトゥヌシア…………。どうしてこの人は、こんなに悲しい顔を浮かべているんだ……?」
「見ていなさい」
すると、マリアは涙を流しながら自らの手を切り、陣の中に多量の血を落とした。
召喚陣が光ると、そこには二人の女性が姿を見せた。
「母さん……!?」
一人は、今と変わらぬ姿の、フリナ・グレイマン。
「母さんの星は、こことは全然違う星だった。一人ずつに神様のご加護が与えられ、それを力に、災いを退ける風習があったの」
「災いを退ける……」
そして、ヒノトは自らに感じていた、今までとは違う、魔力とも少し変わった力を身に染みていた。
「それが、『光魔法』よ」
「光魔法……!? 聞いたことないぞ……!?」
「そりゃそうよ! 転移者である私と、その息子である貴方しか扱えない力なんだから!」
そう言うと、フリナはアハハ、と笑っていた。
笑い事じゃないだろ……と、ヒノトは汗を滴らせる。
「そして、私の横にいるもう一人の転移者……。この子が『闇魔法』を使える子だったの……」
「闇魔法……って……魔族が使える魔法だろ……? なんで転移者が……」
すると、フリナは少し口を歪ませながら目を細め、苦渋な声でその続きを話し始めた。
「この世界には、元々自然から生まれる魔法しか存在していなかった。だから、魔族にも最初は、闇魔法なんてものは扱えなかったのよ……」
「そんなはず……だって魔族は……当たり前のように闇魔法を使ってて……それを駆使して……」
「そう。魔族と呼ばれる人たちは、闇魔法を駆使するしかなかった……。セノくんから粗方、真実の歴史は聞いたでしょうけど、今から、セノくんも知らない歴史の話をするわ。少し難しいでしょうけど、光魔法を受け継ぐ貴方は、それを真に理解しなければならない」
そう言うと、フリナは手をグルグルと回す。
すると、栄えていない小規模な村が映し出された。
「ここは……?」
「私も現物を見ているわけではないから、聞いた上での空想上の世界だけど、所謂、世界の始まり。この世界の創世記よ」
そこには、数人の人がおり、当たり前のように、黒髪の人たちも、混ざって生活をしていた。
黒髪の人たちは魔力が強く生まれたらしく、同じように生まれた外敵、魔物の討伐や、土地開発などに尽力し、それらを指導するのが、他の髪色の人間たちだった。
そして黒髪の人たちは、何か成果がある度に、敬われ、親しまれ、崇められた存在となっていた。
次の瞬間、目の前は吹雪に見舞われる。
「おわっ、寒っ……くないのか。見てるだけだった……」
ヒノトの目の前には、黒髪の人たちだけが、吹雪の中を凍えそうに生活している様子が映る。
「これ……は……」
セノから聞いた歴史が、否が応でも脳裏に甦る。
「これは、隔魔期。力のある者は、やがて恐れられる存在となった。黒髪の人たちはやがて、『悪魔のように恐ろしい存在』、人類の外敵、『魔物と変わらぬ民』として、『魔族』と呼ばれ、迫害を受けたの」
「セノの話してた……迫害の歴史か……。こんなに早くから……魔族は迫害を受けていたのか……。こんな劣悪な環境に追いやるなんて……」
「でもね」
そう言うと、再びガラリと世界は変わり、吹雪どころか住みやすそうな自然溢れる大地が広がった。
「自然豊か! そうか、元々魔族が中心に都市開発を行っていたから、劣悪な環境も直ぐに立て直せたんだ!」
「そうなの。むしろ、力のある少数の魔族だけになったことで、より団結力は増し、劣悪な環境に追いやられはしたけど、そこからの土地開発は容易かった」
「それで一件落着……じゃないんだよな……」
「そう……。今のヒノトなら分かるでしょうけど、地形を変えてしまうことで起こる変化は、この世界を大きく揺るがせてしまうの。当時はそれを知らなかった。世界はどれほど広いのか、とかね。だから、平然とやってしまった北国の開拓は、やがて先住民たちの食糧困難の問題にもぶつかり、やがては戦争になってしまったのよ……」
「授業でも習った……。『魔族戦争』ってやつだよな……」
「そう。最初の魔族戦争。当時は魔法も、武器も全然なくて、数と数の戦いだった。先住民は、魔族を根絶やしにしようとしていたけど、魔族はただ、自分たちの身を守ろうと戦っていた。それでも、ただただ無惨に落ちる命に、当時の統治者、魔族の王は心を痛め、降伏をした」
「降伏……。魔族を排そうとした戦争なのに、降伏で止まるもんなのか……?」
「魔王の力が強大だったのよ。魔族は土地開発の中で、『魔力を流し合う』術を身に付けていたの。そして、それを一番身に受けていたのが魔王。彼女が本気を出せばたったの一振りで、数百と命が落ちる。それを危惧した先住民たちは、素直に魔王と取り決めをした」
「取り決め……?」
「『私たちは遠く離れ、静かに暮らします。今後、他の生物への干渉はしません』と言う内容よ」
「そんな……。でも、静かな暮らしが出来るのなら、それでよかったのかな……。複雑だけど……」
しかし、場面は切り替わり、そこには煌々と建てられた見覚えのある王城が目に広がった。
「ここは……!」
「ここは、当時の魔王の城。しかし、魔王はそれぞれに芽生えた思想を排除しようとはしなかった。自分たちがやられたことをしたくない、と思っていたのでしょう。でも、それこそ、一番に止めるべきだったの……」
「いや、待ってくれよ……! その前にこの城……キルロンド城の中だろ……!?」
「そうね。今のキルロンド城と内装は変わらない。何故そんなことになっているかも、この説明で分かるわ」
そして、ヒノトの目には、魔王に跪いている三人の男が映し出される。
「この人たちが、初代の魔族 三王家。魔王とは別々の思想を持った、それぞれに力を与えられた存在よ」
「そ、そう言うことか……。魔族は、魔王が唯一の国王ではなく、それぞれの思想の下で豊かな生活ができるよう、国を分けようとした……」
「その通りよ。まあこのやり方は先住民たちの間でも、戦争の引き金にならないように起き、この世界に様々な王国が設立されたタイミングでもあった。そして、様々な多様性が広がり、時代を大きく変えて行く黎明期に入るの」
そこには、様々な服を着て、様々な狩りの方法、様々な魔法が生み出され、それぞれがそれぞれの生活を営んでいるように見えた。
「この景色……悪くないわよね」
「あ、あぁ……。誰かに虐げられるでもなく、それぞれがやりたいように生きる……。いい世界になってきた……ように思うけど……」
そう、ヒノトは引っ掛かっていた。
「まだ……母さんたちが転移させられてない……」
「ふふ、様々な敵と対峙して行く中で、勘も鋭くなっているようね。その通り。黎明期とは、時代が進むこと。でも時代が進むと言うことは、やはり、平和以上を望んでしまう人たちが現れるのよ」
そうして、フリナが再び手を回した瞬間、ヒノトは更に目を見開く光景が広がった。