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それからも随分美咲と話し込んだ上、自分の家に帰るまでそんな風に樹のことをずっと考えていたからだろうか。
自分の部屋の前に樹の幻覚が見える。
やば。樹の事考えすぎて、こんな所でこんな幻覚まで・・重症だ。
ずっと会えないからいてほしい妄想しすぎて、こんなリアルに出て来てしまった。
いかん。ゆっくりお風呂でも入って落ち着こう。
「おかえり」
・・・今度は幻聴まで聞こえて来た。
樹がこんなところにこんな風にいるなんてありえない。
気を落ち着かせて自分の部屋の前に立つ。
「オイ。なんで無視すんの?」
すると鍵を開けようとしてる、私の腕を掴まれる感触が。
驚いて、掴まれた方向の幻覚が見えてる方へと顔を向ける。
「え・・・本物・・?」
すると目の前に幻覚じゃない本物の樹が立っていた。
「は? 何意味わかんないこと言ってんの? 当たり前じゃん」
「ホントに・・樹・・なんだ」
「だから、そう言ってんじゃん」
「だって・・あまりにも樹のこと考えすぎてたから幻覚見たのかと・・」
「えっ? マジで言ってんの? だからオレ無視したの?」
「無視というか、そこにいると思わなかったから、幻覚だと思って」
「ははっ。何それ!」
私が真面目に話してるそれが面白いらしく樹が笑う。
「そんなにオレのこと考えて恋しくなってたんだ」
「・・・うん」
「ちょ・・何。随分素直でビビるんだけど」
すると、なぜか素直に答える私に戸惑っているらしい樹。
「だってずっと会えなかったから恋しかったんだもん」
ここまで会えないともう意地を張ること自体勿体ない。
そんな時間があれば一秒でも樹と一緒にいたい。
「やばっ。透子からそんな素直に言われたの初めてかも」
「・・初めて言ったもん」
「いや、調子狂う・・」
「何それ・・。人が素直に伝えてるのに・・。わっ!」
樹の反応に少しへこみそうになった瞬間と同時に腕を引っ張られて、樹の胸に引き寄せられた。
「透子が可愛すぎて調子狂う。でも・・嬉しい。マジで」
樹は優しく抱き締めながら囁く。
やっぱりこんな風に樹に抱き締められるのは、何度経験してもドキドキが止まらない。
そしてそのドキドキの分、今は幸せも溢れる。
「樹。仕事は・・?もう終わったの?」
「あぁ。うん。透子とあの人があれからどうしたか気になって仕事にならなかったから、今日はもう適当に切り上げた」
「えっ! あの時そんな素振り全然してなかったじゃん」
思ってもいない言葉を言われて驚いて樹の顔を見る。
「そりゃ。男のプライドとして、あの人にそんな動揺した姿見せたくなかったし・・・。てか、今まであの人と一緒だったの?」
少し照れたかと思えば急に真剣な表情になって聞いて来る。
「二人であの後どこ行ってたの・・・?」
「樹・・なんでもない素振りしてたくせに、気にしてくれてたんだ・・・。ちょっと嬉しい」
「は? 当たり前じゃん。ホントはあのまま行かせたくなかったけど、オレが止められる権利ないし・・。でもまさか、オレの代わりにあの人がプロジェクト来たのは驚いたけど」
「私も、ビックリした」
「・・・平気?」
「ん? 何が?」
「あの人戻って来て、透子昔の気持ち戻ったんじゃないかって正直気が気じゃなくて・・・」
今度はまたあまり見たことない樹の姿。
「戻ってないよ。でも今また会えてよかったって思ってる」
「え・・?」
その私の言葉に勘違いをしたのかまた一気に不安そうな表情をする樹。
「改めてあの人と今また会っていろいろ話して。もう昔の気持ちは一切ないってわかったから。それだけじゃなく、私は樹じゃなきゃダメなんだって気付けた」
「ホント・・?」
「ホント。あの人と行ったのは美咲のお店だし、今まで一緒にいたワケじゃなく美咲としばらく話してただけだから、心配しないで」
「そっか・・・。ならちょっと安心した」
「ていうか樹。ずっとここで待ってたの?」
「あ・・あぁ・・。部屋で待ってようかと思ったんだけど、全然落ち着かなかったからここで待ってた」
「もう・・連絡くれればよかったのに」
「あ・・あぁ。そっか。でも・・なんかどういう状況かわからなかったからなんか出来なくて・・」
「私もあの時の樹、素っ気なかったから、もう私のことどうでもよくなったのかなと思って連絡出来なかった」
「は?そんなの今までもこれからも絶対ありえないから」
「絶対?」
「絶対」
「言い切るね」
「もちろん。オレの透子への気持ちは絶対何あってもこの先変わらないから」
「私も、同じ。樹への気持ちは変わらない」
「うん・・・」
お互いの気持ちを確認し合って微笑み合う。
「でも、透子にオレの気持ちがまだまだ伝わってなくて、透子不安にさせたのは反省しなきゃなって」
「いや・・それは私が勝手に不安になっちゃったたけで・・」
「なのにさ・・これからしばらく会えなくなるから、また透子不安にさせるかも・・」
「あっ・・そっか。まだまだ大変だもんね」
そっか。
そうだよね・・。
今は樹がわざわざ時間作ってくれただけで、ホントは会えてなかった時間のはずだもんね。
「うん。多分ここにもしばらく帰ってこれないと思う」
「そんなに・・?」
せっかくこんなに近くに住んでるのに、いつでも会える距離にいるのに、やっぱりまだそれも許されないんだ。
「でも・・また透子と一緒にいられるように、絶対なんとかするから」
「あっ、うん・・。私のことは気にしないでいいから」
「だから、これからもしまた何かあっても絶対オレだけを信じて待ってて」
「あっ・・うん。わかった・・・」
樹以外誰に何か言われるとも思えないけど・・・。
でも、多分また何か樹の周りで起きていそうな気がして、私はただ樹を信じると頷くことしか出来なかった。
「透子。ギュッてさ、してくんない?」
「いいよ・・」
さっきは力強く抱き寄せた樹が、今度はそんなお願いをしてくる。
きっと、樹の中でまだ何か不安や荷物を抱えていて。
多分それは私がどうにか出来ることじゃなくて、でも樹は一人でそれをどうにかしようとしている。
必要以上なことを言わないのは、きっと樹の考えと立場、何かあるのだと察して、ただ私は今、こうやって樹が望むことをしてあげることしか出来ない。
そして樹が安心するように、背中に手を回してギュッと力強く抱き締めた。
「大丈夫。私がいるから」
「うん・・」
そしてそう囁いた私の言葉に静かに頷いて、樹もそれを確かめるかのように抱き締め返した。
「よし。パワー注入出来た」
しばらくして落ち着いた樹が、いつもの言葉を言って、抱き締め合っていた身体を離して、優しく私の目を見て微笑んだ。
「じゃあ・・・オレまだちょっとやることあるから部屋戻るわ」
だけど、やっぱりずっと一緒にはいられなくて。
「あっ、うん。ムリしないでね」
「ありがと」
「連絡出来る時は連絡してね」
「わかった。また連絡する」
「うん。じゃあね」
「また」
ほんの数分で、あっという間に愛しい人との時間が終わってしまった。
例えこの数分でも、今は会えるだけでも充分だ。
これからまだ何があるのか、どうなっていくのかはわからないけど。
でも、ただ私はこうやって、樹と次会える時間がまた来れば、それでいい。
樹が変わらずこうやって自分を必要としてくれるのなら。
ずっとこうやって想い続けてくれるのなら。
私にはどうやったって、どうなったって、きっと、ずっと。
樹じゃないとダメだから。
樹がいないとダメだから。
例え一緒にいられなくても、離れていても。
私にはきっとずっと樹が必要だから。
ただ私は樹をずっと想い続けていくだけ。