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そして、あの日樹がしばらく会えないと言ったその言葉通り、樹と会えなくなる日がどんどん増えていった。
樹がプロジェクトから離れてからも、樹がいなくても当然プロジェクトはどんどん進んでいって。
樹がいない日々がまた当たり前のように過ぎていく。
プロジェクトでもプライベートの時間でも、会社でもマンションでも。
当たり前にいた樹が、今は隣にいない。
だけど、樹が残していったプロジェクトの企画や人との繋がりで、ふとしたタイミングで今まで形にしてくれていた樹の凄さや存在を、また再確認することが増える。
恋しくなることを避ける為に、必要以上に今は樹のことを考えないようにしても、こうやってその都度、樹はここにいなくてもその存在を伝えて来る。
そして、私はその都度そこにいない樹を想い出しては、嬉しくもなり切なくもなる。
そんな繰り返し。
だから、そんなことがある度に樹が恋しくなる。
そして忙しいとわかっているくせに、つい樹に連絡しそうになっては留まって控えてしまう。
その忙しさを表すかのように、樹からの連絡は早々に途絶えたまま。
約束をしたといえばしたし、してないといえばしていない。
だけど、きっと連絡出来ないほどの忙しさなんだとわかる。
最近会社の上層部が少し騒がしくしている気がする。
きっとその忙しさの先端に樹はいるのだろう。
だから、負担になるのが嫌で、忙しい中邪魔をしたくなくて、自分から連絡出来ずにいるくせに。
連絡が来ないとやっぱり少し寂しい。
結局私が、樹という人物がどんな人なのか確かめられたのは、ほんの数回で。
出会ってから今まで、二人で過ごす時間も樹を知る時間もあまりにも短すぎて。
樹がホントはどんな人なのかも、樹の気持ちも、まだまだわからないことが多いままで。
自分の樹への想いは強くなるだけなのに、自分への樹の気持ちにはまた自信を無くし始めてしまう。
樹と出会う前は、あんなにずっと一人でいることが平気だったのに。
全然誰も必要なんてなかったのに。
いつの間にか、樹がこんなにも大きな存在になってしまった。
離れてる会えないこの時間で、あんなにも私に気持ちを樹は伝えてくれたのに、今ではまたその言葉が欲しくなって、愛されてる自信もまた無くなりそうになる。
だけど。
樹を手放す勇気もなくて、ただこの問題は時間が解決してくれるのだと信じて待ち続けてしまう。
樹が言ったその言葉を信じて、私はただ待ち続けるしかない。
そんな無意味な日々がどれくらい続いただろう。
自分でもいつからかわからないくらい経った、ある日。
少し現状が変わり始めた。
「あっ!透子さん!お久しぶりです!」
会社の中で声をかけられた方へ振り向く。
すると前にうちの会社でプロデュースしたモデルの若宮麻弥ちゃんが笑顔で手を振っていた。
「あぁ~麻弥ちゃん!久しぶりだね~!」
「あの時はホントお世話になりました!透子さんのおかげで、あれからあの商品も人気出て素敵な夢が叶いました」
「ホントあれから麻弥ちゃん人気凄くて絶好調だもんね~。麻弥ちゃんの活躍陰ながら応援させてもらってるよ~」
麻弥ちゃんは私が前に一緒にこの会社で、麻弥ちゃんプロデュースのコスメ商品を手掛けさせてもらった仲。
その当時はまだそこまで知名度はなかったモノの、その商品がヒットしてからは人気モデルとして活躍している。
その時に麻弥ちゃんの恋バナとか密かに聞いたりして、連絡先を交換するくらいになって、それなりに仲良くさせてもらってた。
「ありがとうございます!透子さんにまた会えて嬉しいです~」
「あれ。またこの会社でプロデュース商品でも出すの?」
「あぁ・・まぁちょっと今回は他の用件で」
「ん?そうなんだ?」
麻弥ちゃんのこの反応、今回は仕事じゃない感じ?
「あの・・・透子さん。またちょっとお時間あればお話聞いてもらいたいんですけど・・」
「えっ!もしかして前に言ってた麻弥ちゃんずっと片想いしてた人との話発展あったとか!?」
「はい。実はそうなんです。透子さんにはあの時すごく相談乗って頂きましたし、ご報告したいなと思って」
麻弥ちゃんが嬉しそうに、でも少し恥ずかしそうに伝える。
「おぉ!そうなんだ!よかったね!ぜひぜひ話聞かせて!」
可愛いな~。
あの時、このプロデュース商品作る時、好きな人の為に綺麗になりたいって
始めた企画だったし、いつか振り向かせたいって頑張ってたもんな~。
ってことはいい結果になったってことかな~。
それは一緒に商品企画してきた自分としては嬉しい限り。
「透子さん。今日お仕事終わられてからお茶出来るお時間あったりとかしますか?」
「あっ、うん。大丈夫だよ」
「じゃあ、またあとで時間と場所はご連絡しますね」
「了解~。じゃあ、またあとでね~」
「はい!失礼します」
麻弥ちゃんは嬉しそうに笑顔でその場を後にした。
いいな~若いって。
その人の為に綺麗になって振り向かせたくて頑張るって、ホントにパワーになって自分もすごく成長出来るんだなぁって、あの時一緒に仕事してて感じたな~。
麻弥ちゃんあれからどんどん可愛くなっていったし、あの時言ってた相手と素敵な関係築けていけてるってことかな。