コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
失敗作の幼馴染み🍀
ー①ー
「ねぇ、やっぱりやめようよ」
「大丈夫だよ、これくらい。大したことねーって」
私達は、深夜の学校に忍び込んでいた。
理由は、今日の昼頃にあった。
私と一樹は、保育園からの幼馴染みで、同じ日に産まれた。
顔も似ていて、まるで双子のようだった。
「なぁなぁ、お前らって付き合ってんの?w」
昼休み、周りに、にやにやと頬を上げた男子達が寄ってきた。
私は、何故か赤まる顔で、はっきりと言った。
「はぁ?そんなわけないじゃん」
「そ、そうだよ、俺らは、《ただの》幼馴染みだし!」
私の言葉を聞いた一樹は、共感した様に頷いた。
私の心臓は、引っ切り無しに高まった。そこで、自分の気持ちに、改めて気づいた…。
「だったらさ、今日の深夜に、学校に忍び込んで、黒板に、2人で〔付き合ってない。嫌い〕って書いてきてよw」
一樹は顔をしかめた。
「何で深夜なんだよ、放課後でいいだろ。それに、嫌いとかじゃ……」
「いや、ぜっったいに《深夜に》学校で、書いてな!」
男子達は、なにかを悟ったかのように、真剣な眼差しで言った。
私は疑問をもった。
(なんでそんなに念を押して………)
「よし、着いた」
「教室…」
薄暗いいつもの教室が、目の前に広がった。
見慣れた風景の癖に、月明かりに照らされて、少し幻想的な世界を思わせざるを得なかった。
「黒板に~…えっと」
一樹が、白いチョークを持ち、黒板に文字を並べ始めた。
「〔付き合ってな……〕」
………
、一樹の、チョークを持つ手が、少し震えた気がした。
私は、黒板にチョークが走る音を聞きながら、自分の手を強く握りしめた。
本当に、これで良いのだろうか?
思いを伝えずに、このまま…
「一樹っ」
音が止まった。一瞬にして、沈黙が流れた。
私の心臓の鼓動が、聞こえてしまうかもしれないほどに。
「私、実は、一樹のことが………好き………っ……!」
………………………
「……………………俺も」
一樹の顔が、林檎のように赤く染まり始めた。
「実菜のこと、好きだよ」
私は、汗ばむ手を、少し袖で拭うと、一樹と同じように、顔を染めた。
しばらく沈黙は続き、風の音だけがあたりに響き渡った。
「でも……………駄目なんだ」
一樹の一言を境に、教室の温度は、一気に下がり始めた。
「え…………っ?」
「俺達は、付き合えない。………普通に、運命で、決まってる」
「《運命》…?」
一樹は、ゆっくりと頷いた。そして、声のトーンを下げ、悲しそうに言った。
「実は、俺、お前の……、失敗作のクローンなんだよ」
「くろーん…………?」
現実的に始めて聞いた単語に、戸惑いを隠せなかった。
クローンとは、自分の分身とか、そういう二次元の物語のことじゃあないのか。
「そ、そんな、クローンなんて、う、嘘でしょ…?それに、私は私で、一樹は一樹としての、特徴があるじゃん。見た目はまぁまぁ似てるけど、何でそれがクローンってことになるの?」
「それ…そうなんだよ…だから俺は、《失敗作のクローン》なんだ」
「《失敗作》……」
「あぁ………やっぱり、お前のクローンって言うのは、自分自身がもう一人いるみたいな感じだろ?でも、俺は違うんだ。作られたときから、ちょっと操作を間違えたからって、俺が生まれて、…」
一樹の今にも泣きそうな声に耐えかねて、今度は私が声を出した。
「で、でもさぁ!私のクローンって、何!?作られるとか、今まで一度も、聞いたことない!」
興奮と怒りと悲しみが混じった声を、大きく荒げた。
「…………それは……、話して良いのか、分からないけど…」
「人類は、少子高齢化が続いてて、絶滅してしまう可能性が出てきてる…だから、クローンを作ってでも、人口を増やす手段が、できてて……何て言ったら良いのかな」
「しょうしこうれいか…」
私には、理解がついていけなかった。
「要するに、皆いなくなっちゃう事を心配して、偉い人が、クローンと言う人工人間を造った訳だ。で、俺は、実菜…お前のクローンに、なるはずだった」
「、なるほど…?で、何らかの原因で、一樹が生まれたと」
「…そう、なんだ」
一樹は、切羽詰まったかのように、口をつぐんだ。
「………《クローンだから、付き合えない》の?」
「へ?」
「クローンも、結局、人工《人間》なんだからさ、別に人間として、生きて良いんじゃないの?」
「あ……」
「感情だって、性格だってあるんだしさ、大丈夫だと思うけど」
私は、上目遣いで、一樹を見た。その目には、希望が混ざっていた。
「確かに……、!でも!俺、施設から抜け出してきたから、追いかけられてるんだよ、実菜を巻き込む訳にはいかないし!」
一樹の勇敢な姿勢に、私は胸を突かれた。
「私は全然平気だよ。一樹といれば、何にでも立ち向かえる気がするの」
爽やかな笑顔を見せる実菜を横目に、一樹は不安そうに、しかし、頼もしそうに、口を緩めた。
チョークがぶつかる音が、教室に鳴る。
〔付き合っています!〕
続く