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《秋霧の乱》
第五話 静かなる反撃
風が吹いていた。
国会議事堂の裏手、桜田門から続く並木道を、私はゆっくりと歩いていた。
秋の葉が舞い、空気が冷たく澄んでいる。
――だが、加山の中に“芯の熱”は感じない。
誰もいない議員会館の屋上で、そう思ったのは昨日のことだ。
「あいつは、善人だ。でも、総理の器じゃない。」
◆ 自由民主党・共和会控室(旧森谷)
「このままじゃ、政権が流れるぞ。」
そう言ったのは、古本誠だった。
平池会出身、加山と同じ流れをくむ男――だが、彼は「現実」をよく知っている。
「泉君。今は“反加山”が票を集める。君が立つなら、俺は動く。」
私は机の端に手をかけ、黙っていた。
反加山連合。それは明確に一つの意思を持って動いていた。
加山のナイーブな理想主義。
官僚の反発。
派閥の崩壊。
メディアの冷笑。
「いま、手を挙げれば総裁になれる。」
古本はそう言った。
だが私は、焦ってなどいなかった。
加山紘一――
あいつは、政局を「きれいごと」で押し切ろうとしている。
それは悪くない。
だが、“日本を変える覚悟”という意味での狂気が足りない。
政治とは、時に理性の顔をした暴力だ。
霞が関を、永田町を、本気で揺るがせるのは――
愛されるやつじゃない。怖がられるやつだ。
「俺が立てば、党内は割れる。」
そう言うと、古本は笑った。
「割ってしまえばいい。どうせ今の自民党は、表面張力で持ってるだけだ。」
私はタバコに火をつけ、言った。
「俺がやるなら、“変人”で行くぞ。本気でぶっ壊す。」
古本は頷いた。
「なら、俺は参謀になる。」
その瞬間、反加山連合は正式に結成された。
◆ 同時刻・議員会館・加山私邸
報道番組が、また彼のことを笑っていた。
「“覚悟なき改革者”――加藤氏の求心力に陰り」
だが私は知っていた。
あいつは、今でも信じているんだろう。
「話せば分かる」「志は伝わる」って。
私には、そんな信仰はない。
伝わらない前提で、伝える努力をする。
それが、政治というものだ。
さて、行くか。
風が、俺の背中を押している。
次の主役は――もう決まっている。