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📘《秋霧の乱》
第六話 分裂前夜
民主党との協議室――
会議は長引き、部屋の空気はどこか湿っていた。
「我々が本当に“主導権”を持てるのか?」
山鳩がそう問う。
元も黙ったままだ。
私は頷いた。
だが、声が少し震えたことに、自分で気づいた。
会議後、一人で議員会館を歩く。
誰も声をかけてこない。
かつて「ポスト森谷の本命」と呼ばれたはずの私が、
今はただの交渉役に過ぎない。
「加山さん、“決める”時ですよ。」
若手の一人が、私に言った。
それは、倒すか、折れるかという意味だった。
だが私は、まだ信じていた。
信義が、この国を少しでも前に進めると。
午後の控室、空調が効きすぎて寒い。
「山谷には、あまり深入りさせるな。情が残る。」
私は部屋の外にいる秘書にそう伝える。
加山と山谷は、一度壊れた関係を戻しそうになっている。
だが、今は壊れていたほうが都合がいい。
泉は今日も一言だけメモを残して出ていった。
『突き抜ける。逆風で飛ぶ。』
あいつは、台風みたいな男だ。
理屈も筋もない。だが、“風”は巻き起こせる。
加山――
お前は真面目すぎるんだよ。
その夜、議員宿舎の小さな応接室で、古本と加山と向かい合った。
10年前なら、隣に座って笑っていた相手だ。
「古本くん、俺は間違ってたか?」
「正しすぎたんだよ、加藤さん。」
沈黙。
私は冷静に言った。
「この国は“理屈”じゃ動かん。“熱狂”でしか変わらんときがある。だから小泉を推す。」
加山は微笑んだ。だが、それはもう戦う笑みではなかった。
「君は正しい。でも、俺は君みたいにはなれない。」
加山が去った後、私は天井を見上げた。
「……誰も得しねぇ戦いだな。」
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