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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第87話 〚弱点だと思ったもの〛(恒一視点)
最近、
澪と海翔の距離が、妙だ。
恒一は、
それに気づいていた。
廊下ですれ違う時。
教室で目が合った時。
——近づかない。
触れない。
以前なら、
自然に並んでいたはずの二人が、
今は一歩分、間を空けている。
(……なるほど)
恒一は、
机に肘をつきながら、
口の端を上げた。
(亀裂だ)
喧嘩じゃない。
嫌い合ってもいない。
だからこそ。
(脆い)
一番壊しやすい距離だ、と
恒一は思った。
人は、
迷っている時が一番弱い。
近づきたいのに、
近づけない。
守りたいのに、
踏み込めない。
「——優等生の悪い癖だな」
誰にも聞こえない声で、
恒一は呟いた。
澪は、
以前より静かだ。
笑う回数は減っていないのに、
“体温”が遠い。
海翔は、
さらに分かりやすい。
視線は追っているのに、
距離を詰めない。
(……遠慮?)
恒一は、
それを“躊躇”だと解釈した。
(守る側が、
手を伸ばすのをやめた瞬間)
(それは、
守ってないのと同じだ)
自分の中で、
論理が綺麗に組み上がる。
——今なら、入れる。
——今なら、崩せる。
恒一は、
澪の横顔を見た。
伏し目がちで、
ノートを取る指先。
(……不安そうだ)
そう“見えた”。
だから、
確信してしまった。
(澪は、
迷ってる)
(海翔は、
踏み出せない)
(なら——)
(俺が行けばいい)
胸の奥で、
熱がじわりと広がる。
それは愛だと、
恒一は信じて疑わなかった。
(距離があるってことは)
(誰かが埋められる、
ってことだろ)
恒一は、
椅子から立ち上がる。
まだ、
何もしない。
——“何もしない”今だからこそ、
次の一手が効く。
(澪は、
守られてない)
(そう思わせればいい)
(海翔の沈黙は、
逃げに見える)
(澪が、
それに気づく前に)
恒一は、
静かに笑った。
だが。
彼は、
決定的に見誤っていた。
この距離は、
“壊れかけ”じゃない。
選ばれた距離だ。
踏み越えないことで、
守っている境界線。
それを、
弱点だと思った瞬間。
——恒一の計算は、
少しずつズレ始めていた。
(……近いうちに)
(動く)
そう決めた恒一の背中を、
誰も見ていなかった。
けれど。
この“勘違い”が、
次の波紋を生むことになる。
コメント
3件
結構いい👍