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第3章世界は、融合を拒絶する
第11話:“それ”が来る音
最初に感じたのは――圧力だった。
音ではない。
気配でもない。
ただ、存在しているだけで、世界の方が軋む。
健は無意識に一歩下がる。
(……息が、重い)
森の闇が、割れた。
そこから現れたのは――
人の形をしているが、人ではない何か。
黒い外套。
仮面のように無表情な顔。
足元の草木が、触れただけで枯れていく。
「――確認する」
低く、冷たい声。
「融合反応を持つ個体……識別名は未定」
健の背筋が、凍りついた。
(やばい……今までの“強い”と、種類が違う)
小柄な魔族が、舌打ちする。
「最悪だよ。**世界監査官(ワールド・オーディター)**か」
「……何それ」
健が絞り出す。
「簡単に言うとね」
魔族は肩をすくめた。
「世界のバグを消しに来る存在」
リュシアが息を呑む。
「……健が、バグだと言うのか」
魔族は即答した。
「うん」
「即答!?」
健のツッコミは、誰にも拾われなかった。
第12話:世界級存在――監査官《ノクス》
「対象、確認」
監査官――《ノクス》が、健を見る。
その視線だけで、
《調合融合(ブレンド)》が拒絶反応を起こした。
《警告:融合不可》
(は……?)
健は初めて、
能力に拒否された。
「な、何だよそれ……」
ノクスが一歩、前に出る。
それだけで、
地面がひび割れた。
「対象は、規定外。存在確率、過剰」
リュシアが叫ぶ。
「健、下がれ!」
健は歯を食いしばる。
「……いや」
(逃げたら――)
(この人たちが、死ぬ)
健は前に出た。
「俺が、相手だ!」
ノクスは、無感情に手を上げる。
「処理開始」
――世界が殴られた。
健は何が起きたのか、理解できなかった。
次の瞬間、
自分が数十メートル吹き飛んでいることだけが分かった。
「がっ――!」
木に叩きつけられ、視界が白くなる。
(……くそ)
《調合融合(ブレンド)》を起動しようとする。
だが――
《エラー:融合対象が世界法則により遮断》
「……っ」
初めてだ。
何もできない。
第13話:敗北――そして、限界
ノクスが歩み寄る。
一歩ごとに、
健の意識が削られていく。
(このままじゃ……死ぬ)
その時。
「――どけ」
低い声。
レオンが、前に出た。
「俺がやる」
「レオン!? 無茶だ!」
「分かってる」
レオンは、剣を抜く。
「だが――こいつは、俺の獲物だ」
「意味分からん!?」
健のツッコミに、
レオンは一瞬だけ、笑った。
「生きろ。死ぬな」
次の瞬間――
レオンは、ノクスに斬りかかった。
剣閃が、世界を裂く。
だが。
ノクスは、素手で受け止めた。
金属音。
衝撃波。
レオンが、吹き飛ぶ。
「レオン!!」
健は叫ぶ。
その瞬間、
胸の奥が、焼けるように痛んだ。
(……あ)
《調合融合(ブレンド)》が、
暴走しかけている。
――恐怖 × 絶望 × 自己否定。
健の視界が、赤く染まる。
《警告:精神崩壊リスク》
(うるさい……)
(助けたい……!)
健は、自分自身を融合対象にした。
第14話:“止める者”
「――そこまで」
澄んだ声が、空気を切る。
次の瞬間。
健の暴走が、強制的に停止した。
「……な?」
健の前に立っていたのは――
銀髪の少女。
ローブ姿。
眼鏡。
冷静沈着な瞳。
「間に合った……」
少女は息を吐く。
「あなた、死ぬ気?」
「いや、まあ、できれば生きたいです」
健は正直に答えた。
少女はノクスを見る。
「監査官《ノクス》。あなたの処理は、過剰です」
ノクスが、初めて反応を示した。
「……観測者?」
「ええ」
少女は名乗る。
「私は――エリナ・クロイツ」
「世界干渉を“止める側”の人間よ」
(またヤバい人増えた!?)
健の頭が追いつかない。
エリナは健を見る。
「野山 健。あなたの能力――」
一拍置いて、言った。
「使い続ければ、あなたはいずれ“あなたでなくなる”」
健の心臓が、跳ねた。
第15話:撤退――そして誓い
エリナが魔法陣を展開する。
「今は退くわ。勝てない」
ノクスは、健を見つめたまま、呟く。
「対象……保留」
「次は、消去する」
そう言い残し、
ノクスは闇に溶けた。
静寂。
健は、地面に座り込む。
「……負けた」
初めての、
完全な敗北。
レオンが、立ち上がる。
「生きてるなら、上出来だ」
リュシアが、健の肩を掴む。
「無茶をするな……!」
健は、笑った。
「ごめん。でも――」
拳を、握る。
「次は、勝つ」
エリナが、静かに言う。
「そのために、あなたは学ばないといけない」
「融合のやり方を?」
「――融合しない方法を」
健は、息を呑んだ。
(……なるほど)
ここから先は、
ただ強くなる話じゃない。
壊れないための物語だ。
第3章・了
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