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第4章
壊さないための融合
第16話:使わない、という選択肢
撤退から三日。
王都郊外の小さな修道院で、健は天井を見つめていた。
「……融合、使わない練習って、地味すぎない?」
「命が地味に守られるなら、安いものよ」
エリナは淡々と答え、分厚い魔導書を閉じる。
健の前に描かれた魔法陣は、起動していない。
――いや、起動させないための陣だ。
「あなたの能力は、“足し算”が得意すぎる」
「だから今日は引き算」
「引き算……」
健は拳を握り、開いた。
《調合融合(ブレンド)》は沈黙している。
胸の奥が、むず痒い。
(……使わないって、こんなに落ち着かないのか)
「戦闘で最初に死ぬのは、力に酔った人間よ」
エリナの言葉は厳しい。
だが、嘘はなかった。
第17話:剣だけで戦う日
訓練相手は、リュシアだった。
「本気で来い。今日は――能力禁止だ」
「はいはい、縛りプレイね」
健は木剣を構える。
振りは軽い。軽すぎる。
――一合。
「甘い!」
リュシアの剣が、健の木剣を弾き飛ばす。
「うわっ!?」
転がる健。
地面の冷たさが、やけに現実的だった。
「分かったか?」
「お前は、基礎が無い」
「……ぐぅ」
言い返せない。
(今まで、力で誤魔化してたんだ)
その日の夕方まで、
健は一度もリュシアに勝てなかった。
第18話:レオンの忠告
夜。
修道院の屋根の上。
レオンが、月を見ていた。
「……お前、弱くなったな」
「ひどいな! 今ちょうど成長期だから!」
「違う」
レオンは、視線を逸らさない。
「人間に戻ってる」
健は、言葉を失った。
「力を使うときのお前は、獣だ」
「今は……ただの馬鹿だ」
「褒めてる?」
「半分な」
レオンは立ち上がる。
「覚えとけ。化け物は孤独だ」
「人間でいるなら――弱さを抱えろ」
その背中は、どこか寂しそうだった。
第19話:新しい敵は、内部から
王都に不穏な噂が流れ始めた。
――融合災害。
魔物でも、人為的でもない。
場所そのものが、狂う。
「健の能力と、似ている……?」
リュシアの言葉に、
健は否定できなかった。
エリナが告げる。
「模倣者がいる」
「あなたの力を、観測して――再現した存在」
「え、俺、世界に悪影響与えすぎ?」
「自覚があって何より」
笑えない冗談だった。
第20話:模倣融合《ミラーブレンド》
現場は、廃工房。
中に踏み込んだ瞬間――
空間が、歪んだ。
「来たか、本家」
現れたのは、仮面の男。
「俺は《ミラーブレンド》」
「君の“可能性”を、最適化した存在だ」
健の背筋が凍る。
(こいつ……俺より、迷いがない)
男は笑う。
「壊れる覚悟が無いなら――」
「最初から、力なんて持つな」
健は、一歩前に出た。
能力は、使わない。
それでも――
「それでも、俺は進む」
拳を構える。
――融合しない戦いが、始まる。
第4章・了