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こはるが転校してきて数日……
キーンコーンカーンコーン
授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。
「やっと終わった〜」
「ねーねー今日放課後どうする?」
ざわざわと賑やかになる教室。
こはるは広げていたノートの上に、頭を机突っ伏していた。
(所作で文字を書く練習はやったけど……
勉強がこんなに大変だとは思わなかった………)
授業中なんとなく分かることもあれば、わからないことも多い。
その度、根が真面目のこはるは慣れない板書をしながら、置いていかれないように必死についていこうとしていた。
こはるの頭は完全に燃え尽きていた。
隣の席から、ふと視線を感じた。
「大丈夫?」
雪斗だった。
「あっ、はい!たぶん大丈夫です!」
慌てて身体を起こし、ノートを閉じるこはる。
その勢いで、机の端に置いてあった自分の消しゴムが……
コトッ
机から落ちた。
「あ——」
その瞬間。
すっ
——気付いたときには
こはるの手の中には消しゴムがあった。
「……え?」
雪斗が目を瞬かせる。
「あぶなかったぁ……」
落ちる前に消しゴムをキャッチしたこはる。
「すごい反射神経だね……」
「え?そうですか??」
少しだけ不思議そうにしながらも、雪斗は教科書を片付け始めた。
⸻
「ねえねえ、月城さん!」
後ろから声をかけられる。
振り向くと、そこには2人の女の子。
転校してからの数日は、いろいろな人が………
「前の学校どんな感じだったの?」
「今までの転校、どんなところにいたの?」
「かわいいよねぇ!彼氏は?」
などなど……
「えっと……ですね………」
基本臆病で人見知りなこはるは、毎回質問の嵐に困っていたのだが………
そんな時に
「はいは〜い、そうやって一気に質問しない。月城さん困ってるよ〜解散解散!」
「っていうか、普通に邪魔だよ」
と言った感じで毎回助けてくれたのがこの2人。
水瀬渚と成瀬紅葉である。
2人が気にかけてくれたおかげで、今ではある程度落ち着いて学校生活を送れるようになっていた。
「これから暇?紅葉と商店街の喫茶店に行こうと思うんだけど、よかったらさ!一緒にいかない?」
「新商品のバスクチーズケーキ。これは一度食べておかないと。」
突然のお誘い。
人見知りのこはるでも、この2人にはもうそこまでの警戒心はなく、ある程度普通に接することができるようにはなっていたのだが……
「…え?」
学校に来て数日。
きっかけがなかなか掴めず、雪斗とですら学校で少し話をするくらい。
当然、他の誰かと出かけた経験なんて無いため、どうしたらいいのかがよくわからない。
こはるはフリーズしてしまった。
そんな時、今度は雪斗の隣から陽気な男の子の声が。
「なになにどーしたの?」
その声に気づいた渚はその相手を睨みつけた。
「あ?陽向には関係ないんだけど!」
男の子の名前は橘陽向。雪斗の幼馴染らしい。
雪斗と陽向と渚は幼馴染。
紅葉は高校に入ってから渚と仲良くなり、この4人でよく集まっている。
「ん、商店街の喫茶店に行こうって話してたの。」
紅葉がさらりと陽向に言うと
「え?!まじ!!あそこ新商品出たらしいじゃん?甘党としては是非とも行っておきたいところ。俺も行く!」
手を挙げながら笑顔で答えた。
「は?あんたは誘ってないんだよ!」
渚の言葉を、陽向はさらりと受け流した。
「まぁまぁ、雪斗もいこうぜ!昔はあそこのバニーケーキ好きだったじゃん(笑)」
【バニー】と言う言葉にぴくりと反応したこはるは、雪斗の方を見た。
雪斗もその視線に気付いたのか、恥ずかしそうに
「む、昔の話だろ!好きじゃないよ!!」
雪斗の顔は真っ赤だ。
「え?まじ?あのいちごでうさ耳みたいになってる可愛いケーキのやつでしょ(笑)ゆきとちゃんかわいぃ〜(笑)」
急に陽向の話題に乗っかる渚
「な?だから久々に食べに行こうぜ!行ってくれないと実はお前が………」
陽向のその言葉を聞いた瞬間、雪斗は言葉を遮り
「わかったわかった!行くよ……」
項垂れながら雪斗は答えた。
「ほぼ脅迫じゃん」
紅葉がぼそっと一言。2人は笑っていた。
(雪斗君もいくんだ……)
胸が、少しだけ高鳴るのがわかった。
こはるは勢いよく立ち上がり
「わ、私も行きます!」
渚にさっきの返事をした。
「そう来なくっちゃ♪」
「よかったよかった」
笑顔になる渚と紅葉。
「それじゃ行こっか♪」
渚を先頭に紅葉が続いて教室から出る。
続いて教室を出ようとしたこはる。
——ふと振り返る。
陽向に文句を言っている雪斗と目が合った。
言葉とは裏腹に、どことなく嬉しそうな表情の雪斗。
こはるは、小さく笑って前を向いた。
その軽い足取りには、
微かなビンキーが隠れていた。