テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「ねぇねぇ、月城さん何食べる?」
振り返った渚が、メニューが載っているタブレットを見せてきた。
人と並んで歩くのって、
こんなに賑やかなんだ。
こはるは少しだけ目を細めながら、差し出されたタブレットを受け取った。
「えっと……」
色とりどりのケーキに、視線が泳ぐ。
(すごい……)
「迷ってるなら新商品でいいんじゃない?」
「これ、バスクチーズケーキ」
横から紅葉が指差す。
「あ、それそれ!絶対うまいやつ!」
陽向が身を乗り出した。
「じゃあ俺、そのチーズケーキで」
「……俺もそれで」
雪斗が短く答える。
「はーい了解〜」
渚がタブレットを操作する。
「じゃ、俺ちょっとトイレ」
「俺も」
陽向と雪斗が席を立った。
⸻
「……さてと」
二人の姿が見えなくなった瞬間、渚がにやっと笑い、タブレットを操作した。
「いやでもさ〜」
表示されているのは別のケーキ。
「絶対こっちでしょ(笑)」
いちごで、うさぎの耳を形どったケーキ。
「……さっき言ってたバニーのやつ」
紅葉がぽつりと呟く。
「あとで文句言うよ」
「いいのいいの!絶対こっちの方が面白いって!」
くすくす笑いながら、渚はそのまま注文を書き換えた。
⸻
こはるは、もう一度タブレットに目を落とす。
そこにあるのは、同じケーキ。
(これ……)
ふわっと、胸の奥がくすぐったくなる。
(雪斗くんが好きって言ってたやつ……)
少し迷ってから、顔を上げる。
「あ、あの……」
「私も、これにします」
指差したのは、バニーケーキ。
「おっ、いいじゃん!」
「やっぱこれだよね〜」
渚が嬉しそうに笑った。
⸻
しばらくして、二人が戻ってくる。
「いやー混んでたわ」
「ほんとそれ」
席に着いた雪斗が、テーブルに運ばれてきた皿を見て固まった。
「……は?」
目の前には、バニーケーキ。
「……なんでこれ?」
「いや、本当はこっちが食べたかっただろうなって(笑)」
渚がニヤニヤしながら言う。
陽向も肩が震えていた。
雪斗は、呆れたようにため息をついた。
「ごめ〜ん!間違えて頼んじゃいましたぁって店員さんに言ってこようか?」
「……別にいいよ……このケーキで……」
視線を逸らしながら、小さく答える雪斗。
渚と陽向はニヤリと目を合わせた。
「ほらやっぱり〜(笑)」
「ゆきとちゃんかわい〜」
「だからその呼び方やめろって!」
「こはるも紅葉も笑うなよ!」
頬を赤くしながら抗議する雪斗に、周りはくすくすと笑っていた。
⸻
「……ていうかさ」
ふと、渚が口を開く。
「もうすぐバレンタインじゃん?」
「私は今年も友チョコだけかな」
紅葉がケーキを一口食べながら言う。
「別に、渡したくなるほど好きな人もいないし」
「渚は?」
そう振られて、渚は少しだけ視線を逸らした。
「わ、私も……友チョコだけかなぁ〜」
「あ、俺は貰う専門なので!今年もよろしくね!」
「俺は別にバレンタインとか気にしたことないし。」
にっこり笑う陽向と、興味がなさそうにケーキを食べている雪斗。
「べ、別にいつも余ってるからあげてるだけだし!仕方がないから可哀想な雪斗と陽向にもあげてるだけだから!!」
急に饒舌になる渚を見て、紅葉はクスリと笑っていた。
⸻
「……チョコを渡す日、ですよね?」
こはるが、少し考えながら言う。
「そうそう」
「まぁもうちょい先の話だけどね〜」
(好きな人に、かぁ……)
ふと、視線が動く。
——雪斗の方を見た。
すぐに、目を逸らす。
(……?)
⸻
「……ていうかさ」
渚がこはると雪斗を見比べる。
「なんで二人は名前呼びなの?」
「え?」
こはるがきょとんとする。
「いや、“こはる”って呼んでるじゃん?さっきも」
「あ……」
一瞬だけ、言葉に詰まる。
「あ、その……私がお願いしたんです!」
少し慌てながら続ける。
「名前で呼んでもらった方が……その、落ち着くというか……」
「だから、その……よかったら、みなさんも……」
少しだけ俯いてから、顔を上げる。
「——こはる、って呼んでほしいです」
⸻
「なにそれ〜、かわいいじゃん!」
渚がすぐに笑う。
「じゃあこはるね!」
「……こはる」
紅葉も静かに続く。
「お、距離一気に縮まったな〜」
陽向が笑う。
「見ての通り、変な奴らだけど、よろしくね。」
少しだけ間をおいて、
「…こはる」
最後の一口を平らげた雪斗が、こはるの目を見て笑った。
こはるは少しだけ驚いたように目を瞬かせてから、
「……はい!」
小さく頷く。
ケーキを一口食べる。
甘い。
ふわっと広がる味に、思わず目を細めた。
——こはる。
さっき呼ばれた名前を、
ふと思い出す。
胸の奥が、
少しだけあたたかかった。
——なんでだろう。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!