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承③初甘
「月城さん何食べる?」
振り返った渚が、メニューが載っているタブレットを見せてきた。
人と並んで歩くのって、
こんなに賑やかなんだ。
こはるは少しだけ目を細めながら、差し出されたタブレットを受け取った。
「えっと……」
色とりどりのケーキに、視線が泳ぐ。
(すごい……)
「迷ってるなら……これは?新商品のやつ!」
「バスクチーズケーキ」
横から紅葉が指差す。
「あ、それそれ!絶対うまいやつ!」
陽向が身を乗り出した。
「じゃあ俺、そのチーズケーキで!」
「俺もそれでいいかな」
雪斗が短く答える。
「はーい、了解〜」
渚がタブレットを操作する。
「ちょっとトイレ行ってくるから注文お願いね!」
「あ、俺も行く」
陽向と雪斗が席を立った。
⸻
「……さてと」
二人の姿が見えなくなった瞬間、渚がにやっと笑い、タブレットを忙しなく操作しだした。
「いやでもさ〜」
表示されているのは別のケーキ。
「絶対こっちでしょ(笑)」
いちごで、うさぎの耳を形どったケーキ。
「……あぁ、学校で言ってたバニーのやつ」
紅葉が呟く。
「……あとで文句言われるよ」
「いいのいいの!絶対こっちの方が面白いって!」
くすくす笑いながら、渚はそのまま注文を書き換えた。
⸻
こはるは、もう一度タブレットに目を落とす。
そこにあるのは、同じケーキ。
(これ……)
ふわっと、胸の奥がくすぐったくなる。
(雪斗くんが好きって言ってたやつ……)
少し迷ってから、顔を上げる。
「あ、あの……」
「私も、これにしていいですか?」
指差したのは、バニーケーキ。
「おっ、了解!」
「これ、可愛いから結構人気商品なんだよ(笑)」
渚が嬉しそうに笑った。
⸻
しばらくして、二人が戻ってくる。
「いやー出たでた」
「よくそんな事言えるな……」
席に着いた雪斗が、テーブルに運ばれてきた皿を見て固まる。
「……ん?」
雪斗の席に置いてあるのは………バニーケーキ。
「……え?」
「いや、本当はこっちが食べたかっただろうなって(笑)」
渚がニヤニヤしながら言う。
陽向も肩が震えていた。
雪斗は、呆れたようにため息をついた。
「何やってんだよ…….」
「ごめんね……間違えて頼んじゃった……店員さんに言ってこようか?」
「……もういいよ……このケーキで……」
視線を逸らしながら、小さく答える雪斗。
渚と陽向はニヤリと目を合わせた。
「ほらやっぱり〜(笑)」
「ゆきとちゃんかわい〜」
「なっ!これは仕方ないから食べるだけで、別に俺が頼んだんじゃないだろ……」
「ってこはるも紅葉も笑うな」
頬を赤くしながら抗議する雪斗に、周りはくすくすと笑っていた。
⸻
「……ていうかさ」
ふと、渚が口を開く。
「もうすぐバレンタインじゃん?」
「私は今年も友チョコだけかな」
紅葉がケーキを一口食べながら言う。
「別に、渡したくなるほど好きな人もいないし」
「渚は?」
そう振られて、渚は少しだけ視線を逸らした。
「わ、私も……友チョコだけかなぁ〜」
「あ、俺は貰う専門なので!今年もよろしくね!」
「気にしたことないけど、くれるならもらうよ」
にっこり笑う陽向と、興味がなさそうにケーキを食べている雪斗。
「べ、別に、毎年の恒例行事みたいになってるからあげてるだけだし!そこに特別な感情とか無いから!勘違いはしないでよね!」
急に饒舌になる渚を見て、紅葉はクスリと笑っていた。
⸻
「……チョコを渡す日、ですよね?」
こはるが、少し考えながら言う。
「そうそう」
「まぁもうちょい先の話だけどね〜」
(好きな人に、かぁ……)
ふと、視線が動いた。
⸻
「……ていうかさ」
渚がこはると雪斗を見比べる。
「なんで二人は名前呼びなの?」
「え?」
こはるがきょとんとする。
「いや、雪斗さ、月城さんのこと“こはる”って呼んでるじゃん?」
ピクっ
一瞬だけ、身体が固まる雪斗
「あ、その……私がお願いしたんです!」
少し慌てながら続ける。
「昔から名前で呼ばれることが多くて……名前で呼んでもらった方が……その、落ち着くというか……」
「だから、よかったら、みなさんも……」
少しだけ俯いてから、顔を上げる。
「——こはる、って呼んでください」
⸻
「なにこの、かわいい生き物!」
渚がすぐに笑う。
「じゃあこはるね!」
「……こはる……了解」
紅葉も静かに続く。
「お、距離一気に縮まった感じ?」
陽向が笑う。
「見ての通り、変な奴らだけど、よろしくな!」
「1番変なのはアンタだけどね」
渚が突っ込む。
「まぁ……とりあえず改めてよろしく」
少しだけ間をおいて、
「…こはる」
最後の一口を平らげた雪斗が、こはるを見て笑いながら言った。
こはるは少しだけ驚いたように目を瞬かせてから、
「……はい!」
小さく頷く。
ケーキを一口食べる。
甘い。
ふわっと広がる味に、思わず目を細めた。
——こはる。
さっき呼ばれた名前を、
ふと思い出す。
胸の奥が、
少しだけあたたかかった。
#ブルーロック
#どなたでもOK!ウェルカム!