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夜の路肩に停めたブルーバードの助手席やカーテンを閉め切った暗い研究室とは異なる開放感、天窓から差し込む光の筋の中で私は恍惚感に包まれた。


(ーーー惣一郎の目の色、綺麗だな)


 碧眼に薄茶を混ぜたような瞳、切れ長の二重のまつ毛は長く目尻に小さなホクロを見つけた。


(ーーーやっ、ちょっと)


 そこでようやく自分も同じように近距離で見られている事に気が付き身体を離そうとした。ところが背中に回された腕はびくともせず惣一郎は更に熱く舌を絡めて来た。息が苦しく顔を背けると、顎を掴まれて引き戻された。


(え、どうしたの)


 いつもならばここで身体が離れるのだがその気配はない。


(ーーとうとう、その時が来るの!?)


 特に期待した訳ではないが万が一の場合を考えパンティとブラジャーを新調した。白地に淡いブルーの花、マーガレットの刺繍が施された清楚なものだ。


(ーーーくうっ!)


 ところが私の緊張感が伝わったのか惣一郎は口元を手で隠して笑い出した。


「なんですか、その顔は」

「どんな顔ですか」

「地上50mから谷間に飛び込むような顔です」

「地上50mに行った事はありませんが緊張しました!」

「緊張したんですか」

「緊張しました」

「そうですか」


 そう答えた惣一郎は高さ50mの崖から飛び降りる私の緊張を呆気なく素通りし、気怠げな表情でイーゼルを広げると真っ白いキャンバスを立て掛けて左右のバランスを整え始めた。


「そのキャンバスに私を書くんですか」

「これは練習用だよ」

「練習用ですか」

「七瀬、モデルは初めてだよね」

「はい」

「同じポーズを取り続けられるように練習してみよう」

「分かりました」

 惣一郎は襟足を掻きながら隣の部屋の扉を開けた。


「ーーーキッチン、リビングですか」

「そう」


 施錠を解き窓を開け放つとカーテンがふわりと舞い上がった。惣一郎は水道のカランを最大に捻りその様子を腕組みをして見ている。


ゴウンゴフ ゴウン


 空気を含んだ水が水道管を駆け上がりシンクの中に一気に解き放たれた。


「あーー、やっぱり濁ってるなぁ」


 そして今年初めて訪れたというアトリエの中はかなり埃っぽかった。ふと見ると青いバケツ、ハンガーには雑巾がぶら下がっていた。


「拭き掃除しますか」

「お願いできますか」

「任せて下さい!」


 私は木製のテーブルやベンチを水拭きした。


「ねぇ、ここは惣一郎が作ったの」

「まさか!それは無理です。地元の大工にお願いしました」


 成る程、どうりで細かな部分までやすりが掛けられニスが塗られている。


「七瀬、こっちの部屋もお願い出来ますか」

「はい」


 コテージの中央にはアトリエ、向かって左側にはリビングとキッチン、向かって右側にはーーーー私は手に持ったバケツを落としそうになった。


「ーーーベッドルーム」

「はい、布団とマットレスは天日干ししておきますね」


 無表情の惣一郎は南向きのベランダに掛け布団を干すと手で埃を払っていた。その姿を横目に私の脳内は思考回路が絶縁不良を起こしていた。なぜなら私ははじめてなのだ。性行為は未経験、未知の領域、45歳手練手管の惣一郎にどう対処すれば良いのか分からなかった。


(三泊四日)


 母親にはデザインビジネスコースの夏期講習があると嘘を吐いた。少なくとも三回の夜が巡ってくる。


木陰からいつも奥さまがこちらを見ていました

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