テラーノベル
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ー床の扉ー ①
帰省シーズン。
僕達家族は、夏の暑い中、山奥にある父方の祖父母の家へ向かっていた。
道路は毎年のように混雑し、移動が難しい時期だ。
「これは結構かかりそうね…。少し休憩しましょうか」
母親の言葉で、サービスエリアに車を走らせる。
ここら辺は森林が多く、山道が続く。稀に見るサービスエリアも、山小屋のようなものであって、あるのは自動販売機ぐらいだった。
しばらくして、道が空いてきた。だいぶ山奥だからだろうか。
「やっぱり、このまま向かっちゃいましょうか」
母親の答えに、僕と父親はこくりと頷いた。
(あー……酔った)
僕は車のドアを閉め、山奥の空気を存分に吸った。
木造の匂いが広がり、用意してくれた紅茶の香りが、鼻につんとひびいた。
「ごめんねェ、こんなものしかなくて…。おじいちゃんはちょっと町へ出掛けてて…」
うちは帰省したら一年間の出来事を話す行事のようなものがある。最初に話すのは僕の父親からだ。
「会社で新しく…」
(今年も長話になりそうだなぁ…)
僕は椅子に腰掛けながら、暇そうに足を揺らした。
(そうだっ!)
「ちょっと探検してきても良い?」
「いいけど、あんまり遠くまでは…」
言い終わる前に、僕は一目散に部屋を飛び出した。
(まずはおばあちゃん家から…)
といっても。
家の中に階段らしきものは見当たらず、外見からして、二階はないようだった…。
ドンッ
「ん…?誰かいるの?」
急に荒々しく扉を叩くような音が聞こえた。
音がした方向へ近づいてみると、トイレがある廊下の突き当たりの床に、何かペンキを塗り直したような跡が残っていた。
しゃがんで、少しつついてみると、ぼろぼろと簡単に剥がれた。
…現れたのは、小さなドアだった。
ドアノブは見当たらない。鍵をさして、上に引っ張る感じだ。
その途端、僕は子供心をくすぐられ、好奇心がふつふつと沸き上がってきた。
(鍵を探さなきゃっ!!)
好奇心で満たされた僕の思考が、僕の足を四方八方に走らせた………。
第2話へ続く
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