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「うわあ~!」
真っ逆さまから地面に叩きつけられるとは思わなかった。生きているのが不思議だ。
まあ、俺たちに命があるのかも謎だが…。
そしてめっちゃ疲れる。
ワームド出現を知らせる物語へ行くのも一苦労すぎる。
もう、ワームド退治やめようかなとすら思ってくる。
だってしょうがないじゃないか。
何百キロも泳いだんだぞ。
それもカエル泳ぎで…。
上等な貴族服でカエル泳ぎをする日が来るとは夢にも思わなかった。知り合いがいなくて本当に良かった。
だが、ついたらついたで空から文字通り落ちる事になるとは…。
高所恐怖症じゃなくたってトラウマになるレベルだろ。主人公やその周りを固める主要キャラ達ならそのあたり、へでもないんだろうが俺はモブだ。そんな屈強な作りはされていない。
「すっげえ~気持ち悪い。毎回、こうなのか?」
「慣れればそうでもなくなるよ」
隣で優雅に下り立つセイ。
「うわ~そのノリ嫌いだ」
「仕方ないだろ?ほかの物語に割り込むのはやっぱりある程度の拒否反応には目をつぶらなきゃ…」
「へえへえ~さようでございますか」
この調子だと先が思いやられる。貴族青年Dは激しく頭をかいた。折角つけたワックスももはや意味をなしていない。
「あの~あんたら誰?」
不審者見つけました感丸出しの青年と視線が合わさる。いかにも人相悪めだが、同じ匂いのするモブであることを直感した。
なんと説明したらいいのか試案を巡らせていた。
他の世界から来ました。
いや、なんか違うな…。
「正義の味方だよ」
当たり前とばかりに宣言するセイ。
この数秒の俺の練習も知らないでコイツはよくもまあ…。
ほら言わんこっちゃない。青年は目が点になってるじゃん。
「ああ、こいつの事はほっといて大丈夫だ」
思っている以上に雑な声が出た。
「いやいや、気になるだろ。主人公兄妹はあの変なモンスターに壊されるし…」
ギギャヤ!
「話は後だ。とにかくワームドを撃退するぞ」
貴族青年Dは目に力を込めた。そうすればイケメンになれる確率が上がるのかは謎だったが、イケメンは相手を見つめる事で相手を落とすのが手口と相場が決まっている。
ギャギャン!
ワームドは右に揺れ、左に揺れ、上下に飛び跳ねる。まるで巨大な兎だ。
動くたびに地面が振動する。
「ヤバい。こいつ早すぎて目が合わせられない」
「それは困ったね。目が合わせられなきゃイケメンも形無し」
自分で思っていることを口に出されるとなぜこんなにもイライラが募るのか謎だ。
「どっどうするんだ?」
やはり、モブには荷が重かったか。
所詮俺には主人公属性などとは無縁なのだ。
いや、待てよ。
ここにはまだモブがいるじゃないか。
救い主とばかりに貴族青年Dはさっき会ったばかりの人相悪めの青年を見た。
「なっなんだよ」
「そうか。その手があったね」
セイも貴族青年Dの意図することを理解したようにうなずいた。
「君の力を借りるよ。ファン!」
キュイン!
「なんか変なのが出た!」
初対面時の貴族青年Dとほぼ同じリアクションをした青年を後目にファンはかわいらしい声を上げて、その肩に乗る。
俺の時は頭だったのにこの差はなんなんだ。
そう思っていると青年の体はピンクの光に包まれる。
俺の時もこんな感じだったのだろうか。
キュイン!
どうやら、力の授与は終わったらしい。
「一体、俺に何したんだ!」
状況はつかめていない鋭い視線を持つ青年は怒りを露わにしている。
「その気持ちは俺もよくわかる」
「初対面で何がわかるんだよ。コスプレ男のくせに」
「コスプレ?なんだそれ?」
「お前、コスプレ知らねえの?」
「知らないな」
「ちょっと、今は盛り上がってる場合じゃないよ」
白熱する青年二人の間にセイが割り込む。
「そうだな。という事でここは頼んだ」
貴族青年Dは戦友のごとく人相の悪い青年の肩をたたいた。
「説明求む」
と呟く人相悪目のモブ青年にお前はロボットか!
とツッコミたくなる気持ちを抑えた。