クリウス「それで…話したいってことって?」
ルスベスタン「まぁ多分同じことを考えてるでしょうけど、あの2人の件ですよ。騒ぎを起こした。」
クリウス「あぁ。」
アマラ「クリウスが城に戻ってる間に、聞き取りをしてたんだけど、黒髪の方はローズ殿下に脅されてたみたいなんだよ。」
クリウス「…俺達が見つけた時、あの2人で仲間割れしてたんだ。不思議だったんだけど…そういう事だったんだ。…最悪捨て駒って所かな。」
クリウス「…そりゃあかつての時の国最高戦力には敵わない…か。君達が俺に話すのは、黒髪のヒトの方に情状酌量の余地が欲しいからだよね?」
ルスベスタン「そうです。直球に聞きましたね。」
クリウス「あんなありえない状況みてりゃ、ね。それは元々するつもりだったし…ただ事情が分からなかったから、代わりに聞いてくれてありがとう。」
アマラ「すんなり信じたな…。」
クリウス「2人のことはそれなりに信用してるから。…でも。」
ルスベスタン「…でも?」
クリウス「黒髪の人…」
アマラ「ジハードだ。」
クリウス「あっそう、ジハード。…ジハードだけに情状酌量の余地を与える。それはごめん、出来ないんだ。」
ルスベスタン「だけというのは?」
クリウス「ルスベスタン。」
ルスベスタン「はあい?」
クリウス「…あのヒトは、君の父親なんだよね?」
ルスベスタン「…そうです。肉体は、ね。…タンザと言います。」
アマラ「…おい、それは聞いてないぞ…?」
ルスベスタン「言ってませんから。…こんなこと何回も言いたいはずないじゃないですか。」
アマラ「それは…悪かった。」
クリウス「タンザさんだって被害者だ。このまますんなり引き渡せば、必ず処罰を受ける。…極刑をね。でもそれじゃ正しい罪人を裁けない。」
アマラ「ローズにも情状酌量の余地を与えるってことか?」
クリウス「ううん。姉上に情状酌量の余地は一切ないよ。王族でありながら、国家の混乱を招いた。どんな理由であれ、それは許されない。」
アマラ「…それがお前のためだったとしても?」
クリウス「姉上がそう言ったのかな。…うん、俺のためでも。とにかく俺が言いたいのは、姉上に然るべき処罰は与える。でもこのままじゃ、タンザさんが処罰されてしまう。だから暫くは囚人として過ごしてもらうよ。処罰を先延ばしにしてね。そのために、ジハードにも経過観察という名の囚人になってもらう。話はそれからかな。俺が言わなくても悪魔が来ないのか、結果が伴えば自然と彼は解放されると思うよ。」
アマラ「…とりあえずジハードに危害が加えられないなら、それでいい。」
ルスベスタン「じゃあ約束守ってもらいますね。」
アマラ「へいへい。」
ルスベスタン「あ、でもそんな回りくどいことしなくていいですよ。」
クリウス「…え?」
ルスベスタン「さっさと処罰しちゃっていいですよ。無駄なので。」
クリウス「ルスベスタン。必ず、助けるから。信じて欲しい。俺も信じて欲しいけど…よく自慢してたでしょ?凄い強いんだって。タンザさんを信じて欲しい。」
クリウスは、ルスベスタンの名前を呼ぶとルスベスタンの肩を掴み真っ直ぐルスベスタンの瞳を見据える。
ルスベスタン「わ、分かりました…。」
クリウスの気迫に押されたルスベスタンにアマラはケタケタと笑う。
アマラ「まるでプロポーズだな!」
ルスベスタン「………。」
クリウス「何言ってんの…。あ、そうだ。あの2人なんだけどちょっと俺引き渡せそうになくって…アマラ達で引き渡して欲しいな。」
アマラ「そりゃまた…なん…!?」
アマラが言い終える前にクリウスの肩が、やけにがっしりした手に掴まれる。
ゲティア「探しましたよ殿下ァ…!」
クリウス「この通りでございます。」
ゲティア「私がどれだけ心配したかと…!もう気が気じゃなかったというのに、殿下というヒトは…!しれっと城内にいるし…とにかく、帰りますよ!!」
クリウスは「事情は説明しておくから〜!」とだけ言い、ゲティアに首根っこを掴まれ、引きずられていく。
アマラ「アレいいのか?」
ルスベスタン「あの人確か第1王子の護衛騎士の方だったと思うので、悪いようにはされないんじゃないですかね。それにどの道、戻らなきゃいけなかったのが早まっただけです。」
アマラ「…二つ返事で了承したがアイツはあれで本当に良かったのかね。」
ルスベスタン「いい訳ないと思いますよ。だって彼が家出した理由は…」
アマラ「…ローズ殿下が犠牲になることは目に見えてた、にも関わらず恒陽化計画を決行した。誰かを犠牲にする前提の政策に嫌気がさして逃げた。」
ルスベスタン「…知ってたんですね。」
アマラ「ああ。アタシとしてはお前が知ってる方が意外だ。アタシは、クリウスにローズを一目見る機会を与えることを報酬としてアタシの作戦に協力させた。あの子達には知らないってことで、シラを切ったがな。」
ルスベスタン「食えない方ですね。」
アマラ「そっくりそのままお返しするよ。」
ルスベスタン「…ほんと、可哀想なヒトですよ。確かな権限を持つのに、一切政策には関わらせて貰えない。きっと自分も同じ立場だったら…」
ローズ「父上は本来なら殺されて下克上されても、おかしくないでしょうね。」
ルスベスタン「…よく顔を出せましたね。というか、あの3人は…」
ローズ「やぁね。別に手を出してはないわよ。下みて。」
ローズは自身の下を指で指す。
アマラ「下?うおっ。」
アリィ「ちょ…無理…力強すぎぃ〜…!」
ノア「ぜんっぜん止まんないし…外でちゃった…。」
下を見ると、恐らく自分達の体重や力、全身全霊をかけて止めようとしたのだろう。ローズもといタンザの身体にしがみついている2人の姿があった。
ルスベスタン「あれ?」
ルスベスタンが違和感に気づいた直後、アリィは宿の入口に怒声を投げる。
アリィ「なんで休憩してるのジーク!!」
怒声を飛ばした方を見れば、そこには座って休んでいるジークの姿があった。
ジーク「無理、ギブ。というか多分もう大丈夫だ。そのヒト諦めてる。」
ローズ「体力は情けないけど、賢いのは嫌いじゃないわ。クリウスが居なくなっちゃったから、もう特に何かしないわ。本来の目的は達成出来てるし。ほら、ボケっとしてないで。連れていきなさい。」
ルスベスタン「時の国直属兵団前団長ローズに勝てる体力のあるヒトなんて、いませんよ。」
ローズ「よく知ってるじゃない。」
アマラ「ジハードも連れてこないと。」
ローズ「必要なの?」
アマラ「クリウスの指示だ。」
ローズ「なら連れてくるわね。」
ノア「前科あるんだから君はダメ!!」
ローズ「クリウスの言うことなら、素直に従うわよ。」
ノア「ボクが連れてくるから!アマラ、大人しくさせてて!」
アマラ「え?お、おう!」
ノアに流され、アマラは片手でローズもといタンザの肩を掴み、動かぬようにする。それから暫くして、ルスベスタンが口を開く。
ルスベスタン「…遅いですね。」
ローズ「だって彼まだ万全じゃないもの。」
アマラ「割と元気そうに見えたが。」
ローズ「はたから見たらね。精神を弄られた負担はかなり高いのよ。私は、相手と目をあわせることで、その者が私が出す指示全て従わせることができる。盲目的に愛するようになるが正しいかしら。ジハードにも計画実行に直前かけたわ。でも。」
そこでローズは一言区切る。
ローズ「ジハードは自身の魔法を使い、無理やり私の魔法から剥がれて、自身の精神を引き戻した。ジハードはね、1つを除いて全てを夢に嵌め込むと言っていたけれど、本当は違うの。ジハードの精神は、無かったことにはならない。魔法ってのはイメージよ。だから精神は自身の魔法では影響を受けにくくなってる。ようは今は正常に見えていても、脳には僅かにダメージが蓄積されてるってこと。魔法は解除されれても、ね。」
ノア「お待たせ!」
ジハード「うわ、そのまま引きずったのか…。」
ローズ「剥がしても剥がしても、キリがなかったのよ。さ、いきましょ。」
ルスベスタン「そっちは城とは別方向ですが?」
ローズ「このまま伸ばさせるのダメだし、ついでよついでよ。」
ローズは訳の分からないことを言い、別方向へスタスタ歩く。それを慌てて、アマラ達は追いかける。暫く追ってみると、そこには大雑把に寝かされたアロンとザックスの姿があった。
アマラ「あ!?忘れてた!!」
ローズ「まぁそんな所だろうとは思っていたけれども、相変わらず影が薄いのね。アロン。」
ローズはアロンに話しかけるが、アロンは眠り続ける。
ローズ「流石にあの砂漠に放っておくのはと思ってこの辺に置いといたのよ。」
ジハード「お前に弟以外に気にかける奴が居たんだな。」
ローズ「ザックスは教え子だし、アロンは私から言い渡された任務を無事にやり遂げた。だからその報酬よ。」
アリィ「任務?まさか裏で…」
ローズ「今回の件に関しては無関係よ。コフリーとして、生きること。それが私の言い渡した彼への任務よ。」
ジーク「え待ってくれ、コフリーって偽名なのか?」
アマラ「…そういや言ってなかったな。」
ローズ「情報共有くらいしっかりしなさいよ。私は自分の死期を悟ったぐらいに、任務を言い渡したの。クリウスを守り抜け、ってね。それは文字通り守る意味でもあれば、クリウスの考えを尊重し、それに全力で手助けする意味でもあった。でも、私のことがあったクリウスは、城を抜け出して行方不明になってしまった。だからアロンは身分を隠し、コフリーとして接近して協力していた。実際よくやってくれたと思うわ。探すのに時間がかかりすぎていること以外は。まぁでも仕方ないわね。本気で隠れたクリウスを見つけられるのなんて、ゲティアくらいだもの。…愚かなヒト。」
ノア「あれなんかいい話かと思ったら、評価急転してない?」
ジハード「奇遇だな。俺もそう思った。」
ローズ「アロンはね、隠していたみたいだけれど、本気で私に恋煩いをしていたのよ。だから、私がそれを利用して都合のいいように動かしてた。魔法を使ったりもした。…それに、利用されているのに気づいていたのに、何も言わず受け入れていたのよ。愚かだと思うわ。」
ルスベスタン「…恋は盲目らしいですから。」
ローズ「そうね。私には分からないけれど。」
(愛というものが、なにか私には分からないけれど…これだけは分かってることがある。私は貴方のこと、気に入っていた。多分だけどね。)
ローズは、アロンの髪を撫で、背中におぶろうとする。
ローズ「乗せて。」
ジハード「ん。こっちは?」
ローズ「流石に成人男性2人は無理。貴方がおぶって。」
アマラ「え、アタシ?」
ローズ「メシュエネでしょう。」
アマラ「あ、ああそうか。分かった。」
アマラは軽々とザックスを抱える。
ローズ「昔は力持ちのメシュエネに憧れたものだけど、この身体も悪くはないわね。」
歩き続けること30分、城が見えてくる。
ローズ「城門から堂々と行けばいいわ。拘束の一つくらい、しときなさい。不審に思われるわよ。私はクリウスのやることに従うけど、城内の兵士は、はいそうですかとはならないから。慣れてるでしょ?」
そういい、ローズはルスベスタンに両手を差し出す。
ローズ「貴方は別にいいわよ。」
ジハード「えっ」
ローズは隣で両手を差し出すジハードを宥める。
ローズ「…貴方って前から思ってたんだけど…ヒヨコみたいよね。」
ジハード「ひ、ひよこ…!?」
ローズ「終わったわね。」
ルスベスタン「ええ。」
ローズ「…貴方の探してるヒトは、私じゃないわ。きっかけは作ったのは私だと思うけれど…」
ルスベスタン「模倣犯。」
ローズ「分かってるなら別にいいわ。」
ルスベスタン「どういう風の吹き回しです?」
ローズ「勝者には報酬が与えられるものよ。役に立たない報酬だったみたいだけれど。」
ルスベスタン「…はぁ。その身体を返してもらえれば理想なんですがね。」
ローズ「私にもやり方が分からないもの。無茶なこと言うものじゃないわ。」
アリィ「な、なんの話か着いていけてないよ…。私達…。」
ローズ「人々が行方不明になっているのは知ってる?」
ジハード「そういや、橋でルスベスタンがそんなこと言ってたな…。待ってくれ、サボっていいのか?」
ルスベスタン「今でもお仕事に務めてますぅー。今回、自分もついでに報告しなきゃいけないことがあるので。」
アリィ「ならまずいんじゃないの?だってあれ恒陽国のヒトが…」
ルスベスタン「それはただの噂です。人々が次々行方不明になる現状を憂いているのは、何も平民だけじゃありません。トラブルになりかねないのでね。等しくクリフ陛下も憂いています。だから陛下に報告に。」
アマラ「お前の雇い主って…」
ルスベスタン「クリフ陛下です。人々が行方不明になる場所のほとんどはあの橋。もちろん、放っては置けない状況。しかし恒陽国と、永夜国の関係は既に険悪。そんな中、恒陽国の兵士を投入すれば、更に関係は悪化する。だから自分が雇われたんです。ノアさんの話を聞いて分かったことがありまして。」
アマラ「盗み聞きしてた時のか。」
ルスベスタン「失礼な。この行方不明騒ぎは、8年前から続いています。8年前、同時にタンザも行方不明になった。8年前の行方不明事件はローズ、全て貴方が起こしたものですよね。」
ローズ「ええ。作戦に適正な身体を見つけるのに、何人か。でもさっき、彼も言ったけどそれ以降はやってないわ。この身体の持ち主で満足したもの。」
ルスベスタン「だからその件と、明らかに模倣犯が居るのを伝えに行くんです。…ほんといつ終わりますかねこの仕事。」
アマラ「お、お疲れ…。」
ゲティア「クリウス殿下から、お話は伺っております。」
雑談をしていると、城の中からゲティアから出てきて、ローズ達に話しかける。
ローズ「…貴方が来るのは予想していなかったわね。」
ゲティア「2人きりで話したいこともあるかと思いまして、席を外させていただきました。まだこの2人は目覚めていないみたいですね。」
ゲティアはちらっと、アロンとザックスの2人を見る。
ゲティア「魔法なのは間違いないようですね。 」
ルスベスタン「これだけで分かるんですね。」
ゲティア「年の功ですよ。ではこちらへ。」
ゲティアはローズとの再会を喜ぶことなく、淡々と引き連れていく。ローズは1度足を止め、話す。
ローズ「…貴方に負けて悔しかった。今まで、誰にも負けたことなかったの。ほんとよ。…私、自分の目に頼りすぎてたみたい。他の人にとっては、当然かもしれないけど…私、これでも国を守る重要な立場だった。その私には許されていい事じゃなかった。それなのに、1つのことに頼りすぎたの。それに気づいたんじゃなくて、気付かされたの凄い悔しかったわ。」
それはローズなりの称賛だったのだろう。
ローズ「貴方のその才能が羨ましい。」
ルスベスタン「そんな事言ってないで、早く行ってくださいよ。」
ルスベスタンは、手を振り行けと訴える。
アマラ「じゃあアタシ達はもう行くぞ。今日は都合が良くないみたいだしな。」
ルスベスタン「そうして貰えると助かります。」
ルスベスタンは手を振り、今度はアマラ達を見送る。姿が見えなくなった後、ルスベスタンは1人、誰にも聞こえない声で呟く。
ルスベスタン「…こんな才能、いいものなんかじゃない。」
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