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「キャー!キャー!リムジンの中ってこんなに広いのね!」




真由美が大声ではしゃいでいる



「やぁ!素敵なお嬢さんがた、シャンパンはいかが? 」



拓哉のマネージャーの幸次が、リムジンに備え付けてる小型の冷蔵庫からグラスとシャンパンを取り出した





その晩は弘美と真由美、聡子にとって紛れもなく忘れられない夜になった



なんと拓哉はローリングストーンにその場で電話し、人数分のディナーの予約をあっさり入れ、数時間後に幸次とリムジンで弘美達を迎えに来ると言って一旦帰った



彼のエスコートがあんまりにもスマートだったので、弘美は何も言えなかった



それから拓哉が約束の時間に迎えに来るまでに、3人の身支度大戦争が始まった



弘美もヘアアイロンで髪を巻いている間に、かいつまんで拓哉との出会いを二人に話して聞かせた




この時真由美の持ってきた、10着の服と9足の靴も大いに役に立った



二人は拓哉と弘美の間に起こっていること、ありとあらゆることを知りたがった



初めて会った時、彼がどれほど無礼で我慢ならなかった彼との仕事を降ろしてもらおうと、さんざん頑張ったけど事務所に言う事を聞いてもらえなかったこと




弘美が話している間も、3人は忙しく洗面所とドレッサーを行ったり来たりしながらおしゃべりを続けた




「ねぇ本当に私はこの服で行かなきゃいけないの?」




真由美が弘美に選んだ服は、自分が持ってきた中で一番良い服だと豪語した


ヴィヴィアンウエストウッドのロゴが付いた赤のモヘアニットは、襟ぐりが大きく広がっていて、どうやっても鎖骨が丸見えだ、そして中に着ているキャミソールワンピースは、紫のレースでミニ丈になっている




「今夜ぐらい弁護士の仮面ははずしたらどう?彼がせっかくセレブが集まる、クラブを予約してくれたのよ! 」




真由美が怖い顔で弘美を睨んだ




「そうそう!それに彼があなたを見る目つきったら 」




聡子もグフフフといやらしく笑った二人は言った




「彼はあなたに恋をしてるわ!」


「まさか!それはないわ!」




弘美はすかさず否定したすると二人は顔を合わせて言った



「それもそうね!」


「彼の周りにはあなたより、ものすごい美女がわんさかいるものね」



「そうよ!弘美なんか足元にもおよばないわよ!」





あっさりひいた二人に、弘美はもう少し躊躇してくれてもいいのに、と思ったが口には出さなかった






・:.。.・:.。.





一行を乗せたリムジンは、クラブローリングストーンの裏口と思われし所で停車した、とても大きな店だとしか弘美にはわからなかった



二人の真っ黒なスーツに、サングラスのガードマンに付き添われて、複雑な迷路のような廊下や、通路をいくつも通り、とうとうクラブの入り口にたどり着いた




入り口には支配人自らが拓哉達一行を迎え、拓哉に深々と挨拶した




「いらっしゃいませ!櫻崎様」




支配人は穏やかな口調で、拓哉達を歓迎した




「突然で申し訳ありませんでした、こちらにいるお嬢さん方をおもてなしするのは、ここ以外に思いつきませんでね 」




拓哉は穏やかに答えた、彼の後ろで真由美と聡子が顔を見合わせて嬉しそうにクスクス笑ってる




「数あるクラブの中で、今宵は我ローリングストーンにお越し下さいまして、大変光栄に存じます」





支配人は拓哉一行全員に微笑み、歓迎した




そして人目につかないように有名人がお忍びでそうするように、裏口から最上階にあるマスタースイートVIPルームに通された




そこからは踊り狂っている下のフロア全体が見渡せた、拓哉は弘美達が興奮して目を輝かせている所を見て満足した





フカフカの真っ白なソファーに腰かけ、女性陣は、はしゃいでメニューを見ていた



ここではすべての注文が半透明のキラキラしたタッチパネルで操作し、その注文はWi-Fiでカウンターのドリンクマシンに連結され、全自動マシンが注文されたカクテルやビールを作っていた




聡子が自動でグレープフルーツをマシンの手が絞っているのを見て、歓声をあげていた




「ねぇ!あちこちに芸能人がいるわ!」


「あっ!あの人見たことある!有名なYouTuberよ!」




はしゃぐ二人を後にして、凝った装飾が施された内装を見て幸次が言った




「ここの目新しさが薄れるまで、あと一年はかかるなま!俺たちはもう来飽きてるがな!




思わずそのジョークに拓哉も笑った




拓哉はクラブソーダを飲みながら弘美から目が離せなかった、もう一度弘美を盗み見る



赤のふわふわのモヘアニットドレスが肩からずり落ちて、また鎖骨が見えている




リムジンの中でコートを脱いだ彼女を初めて見た時から、あのニットはその後もずり落ち続け、拓哉をじらすように柔らかそうなクリーム色の肌が少しずつあらわになっていく



紫色のキャミソールドレスのストラップもだ、あのストラップなら歯で引きちぎれるだろう



そこでふと我に返る、いったいどうしたんだ?僕は?彼女といるとどうして思春期の小僧になったような気分になるんだろう



それでも拓哉は彼女のあの肩からどうしても目が離せず、どうにかなりそうだった、一方弘美の方も今夜は本調子ではなかった




「彼がこっちへ来るわよ」




ひそっと聡子が弘美に耳打ちした、カウンターに幸次と何やら話してた拓哉が、食べ物がのった大皿を持ってこちらにゆっくりやってくる





全身から腹立たしいほどの魅力を発しながら近づいて来る拓哉を、思わずうっとり見つめてしまう




実際今夜の彼はとても素敵だった、真っ白のTシャツにネイビーブルーのジャケットを着こみ、彼の素晴らしいヒップのラインが強調されるピッタリとした黒のジーンズを履いていた


そして意外だったのは、弘美の親友達をひたすら礼儀正しく、もてなしてくれる拓哉の態度だった



彼は驚くほど魅力的で、親しみやすく、真由美も聡子も平等に紳士的に優しく扱ってくれた



マネージャーの幸次も食べきれないほど美味しい料理をテーブルいっぱいに注文し、芸能界の突拍子もないエピソードをいくつも披露してくれ、彼女達をとても楽しませた



聡子と真由美にとっておそらく人生で最高の夜になったに違いないと、弘美は満足な気分でカクテルを飲んだ




・・たぶん今夜は酔っているせいよ・・・




弘美は酔っぱらっているのなら、まるでアイドルに浮かれている十代の少女のように熱っぽく彼を見つめてもいいんじゃない?と自分に言い聞かせた



実際彼はとてもおいしそうだった


彼はトロリとしたフォンダンショコラだ・・・・女性なら誰もが舌なめずりをして、最後のひとかけらまで味わわずにいわれない



・・・とても罪深くて、甘美で、内側にとろける熱さを秘めたデザート・・・



それが櫻崎拓哉という男だ・・・・



しかしここへきて弘美は現実に意識を戻した、たしかに彼は外見は素晴らしいけど、中身は少々問題を抱えている


自分はぶしつけな彼にも免疫があると言い聞かせた、彼の官能的な魅力にだって負けない、明日になれば弁護士とクライアントの関係に戻るだけだ




真由美は幸次とフロアにある、このクラブの名物の滑り台を滑りに行った


聡子は仲良くなったクラブのマネージャーと、最新のDJブースに入って楽しんでいる



弘美は少し酔いを冷まそうとトイレに立ち上がった




トイレの鏡を見ると、ニットから肩が丸見えになっている、ため息をつきながらずり上げたが、結局襟ぐりがブカブカなこのニットは鎖骨を見せるためにデザインされたものらしい





・・・でもここは法廷じゃなくてクラブなんだから、少しぐらい大胆になってもいいわよね・・・





そう弘美は思い、念入りに化粧直しをし、トイレから出た、するとトイレから出た所すぐになんと拓哉が立っていた




「ずいぶん遅いから心配したぞ」


「・・・待っててくれとは頼んでないんだけど・・」




拓哉は大きくため息をついた




「少しはその減らず口をなんとかしたらどうだ」


「無理よ、私は弁護士なのよ、減らず口で食べていってるのよ」


「それもそうだな・・・」





プッと二人は噴き出した、そして同時に声をあげて笑った




どうしよう・・・今日の彼はとても好感が持てる、それに近くに来るとなんて彼はいい匂いがするのだろう・・・



弘美は今日の友人、二人に対しての彼の親切にお礼を言おうとした


そしてせめてドリンク代ぐらいはこちらが持ちたかった、いくら拓哉が超裕福でも、弘美もみんなの飲み物代ぐらいは出せる




その時急に照明が落ち、クラブ全体が深い暗闇に包まれた、一階のフロアには悲鳴とどよめきが起こった




「なんだ?どうした? 」




弘美はどうにか暗闇に目を慣らそうとしたが、突然の真っ暗闇に体が硬直した



VIPルームから甲高い笑い声や、騒ぎ声が聞こえているが、今は真っ暗で目の前の拓哉も見えない



拓哉がスマホを取り出し、幸次に電話した、真っ暗闇にスマホのライトに照らされた拓哉の顔が浮かんだ、しばらく幸次と話して安心したのか、拓哉は弘美の方を向いて言った




「3階のVIPルームが一時的な停電になったそうだ、2階と1階は大丈夫だ、幸次は君の友達を2階に移動させるみたいだから僕達も行こう 」





と拓哉が弘美の方を向いた時、彼女の異変に気付いた




今や弘美は自分の体をきつく抱きしめて、がたがた震えていた


拓哉は怪訝な表情で弘美を見つめた、スマホの明かりがうっすらと彼女を映し出す、いつもの冷静で落ち着いた彼女らしい態度ではなかった、あきらかに彼女は問題を抱えていた




「おい?大丈夫か?」


「大丈夫じゃないのよ・・・わ・・・私は暗所恐怖症なの・・・ 」


「暗い所が苦手なのにクラブに行こうとしてたのか?」




拓哉は信じられない気持ちで聞いた




「ま・・・真由美達が来たがってたから・・・・」




弘美が心なしか青ざめているような気がした




「まったく・・・・こっちへ来るんだ 」



「無理よ!歩けないわ!」





暗闇の中拓哉は弘美の肩を抱き、半ば引きずるような感じで、弘美をその場から移動させた




彼らとは違い、3階の真っ暗なフロアにいる他の人々はクラブの突然の停電を楽しんでいた、音楽は鳴っていなかったがみんなそれぞれに口ずさんでいた




拓哉は裏階段の非常電灯の下に弘美を連れて行った、もちろん非常電灯は停電でついていないが、小さな小窓から月明かりが漏れている、真っ暗よりかは幾分ましだろう


月明かりでなんとか弘美の表情がうかがえた




弘美がずっと押し黙って震えていることに危機感を感じながら、拓哉が非常口の横のソファーに腰かけ、自分の膝の上に弘美を乗せた


以外にも弘美は怯える小さな子供のように、拓哉の首筋にしがみついてきた。か弱く・・・健気な様子に、拓哉はどうしようもない保護欲にかられた、そしてまたニットが彼女の肩からずり落ちる




「もし君の気分がよくなるなら言っておこう、たとえ地震がおこっても僕がここから君を連れ出すよ、でも・・・しばらくこうしていれば、すぐに電気は普及されるだろう」




弘美の体から小刻みに震えが拓哉に伝わってくる、同時に彼女の甘い香りや温かい体温も




弘美は酷く混乱していた、何もかもがあっという間に変わってしまった、冷静で落ち着いた態度を保とうと自分を戒めても無理だった、拓哉が優しく髪をなでながら聞いた




「小さいころからなのか?君の・・・その・・・・暗所恐怖症って・・・ 」




拓哉の首にしがみつきながら弘美は奥歯をかみしめた、こうしないと体がガタガタ震える、みっともないがどうしようもない





「ち・・・小さいころ・・・」


「うん 」




拓哉は弘美に話させた、何かしゃべらせておけば、気がまぎれるかもしれないと思ったからだ




「わ・・・私には二人の兄がいるの・・その兄が・・・小さい頃、ふざけて私を物置き小屋に閉じ込めたのよ、私はとても生意気だったから・・・」



「想像できるな 」





弘美は小さく笑った、しかしまだ彼女は小刻みに震えていた





「物置小屋は真っ暗だったの・・・そして隅の方でカサカサいう音が終始していて・・・たぶん・・・ネズミがいたんだろうけど、その頃の私には、その音がまるで地中から這い上がってくるモンスターの音に聞こえて・・・」



「なるほど・・・想像力が豊だったんだな 」



「もちろんその後兄達に出してもらったんだけどそこから私は暗闇に酷く敏感になってしまって母はそれを見て兄達をひどく怒ったわ」




月明かりを受けた弘美が心細そうに唇をかむのが見えた




「もし今地の底からモンスターが這い上がってきても約束しよう、そいつに君をどうこうさせるつもりはないよ」




弘美はまた小さく笑った




「いやぁね・・・小さい頃の話よ・・・ 」


「目をつぶっていたら、気にならないんじゃないかな・・・・」


「そうね・・・明るくなったら教えてね・・・」




弘美は今はすっかり拓哉を信頼しきって体を預けていた小さな震えはおさまりつつあった




「あの・・・ありがとう二人をここへ連れて来てくれて彼女達とっても喜んでくれているわ」


「それはよかった 」




拓哉の声が暗闇の中優しく響く




「どうしてこんなに彼女達に良くしてくるの?」


「それは君の友達だからさって、おい・・・・何をしている? 」




弘美は拓哉の額と自分の額を交互に触って顔をしかめた




「・・・熱は・・・ないようね?」


「・・・ケッサクだ 」


「さっきウィスキーのロック飲んでたでしょ、冷たい飲み物はおなかがまたゆるくなるわ、ひかえないと」


「いつから君は僕の母親になったんだ?そしてちょっと元気になってきたじゃないか」




おかしくて弘美はクスクス笑った、どうしよう・・・・彼との掛け合い漫才みたいな会話が楽しい・・・・弘美はもう少しこのままでもいいかなとさえ思っていた





「撮影は順調に進んでる?」




小さな心細い声だった健気な姿に思わず拓哉はどうしようもなく彼女に惹かれた




「ああ・・・そのうち撮影所を見学にくるといいよ 」



拓哉は考えるまでもなく自分の口からそんなセリフが出た事に驚いた、なぜなら今まで自分の仕事現場に女性を誘ったことなど一度もなかったからだ




「そうね・・・・でも裁判で忙しくて、そんな暇はないわ」




拓哉はいつでもこの女性に驚かされた、女性なら誰でも映画の撮影現場に誘われたら、断るなんて愚か者はいないと思っていた




「まったく君は完璧なモデルだな・・・」


「・・・・?どいうこと? 」




弘美が困惑しているのが伝わってきた




「・・・今回の僕の演じる弁護士役は、仕事真面目一本で、裁判では一度も負け知らずの最強人間なんだ・・・」




拓哉は月明かりに映る、いまいましい弘美の紫のキャミソールのストラップを見つめて、一瞬考えた、シルクのキャミソールと彼女の素肌・・・どっちがやわらかいのだろう?拓哉は今すぐ確かめたい気持ちを懸命におさえた、しかし無駄だった




「僕はその弁護士を演じる時・・・・君を思い浮かべるんだ 」


「私を?」


「ああ・・・・」




彼女のニットに手をかけるとそっと引き上げ、キャミソールのストラップまで引っ張り上げたところで手を止めた




「強くて美しい・・・弁護士さん・・・」





弘美がハッと目を開けた二人は見つめあった




「わ・・・私達はみんなの所へ戻るべきだわ・・・」


「もちろんそうだ・・・ 」




それでも尚、二人とも動こうとしなかった、こうするべきではないことは百も承知だ




弘美が震える息を吸う音が聞こえた瞬間、拓哉は衝動的に彼女の肩から髪を払いのけ、華奢な鎖骨に唇を押し当てた




先ほどの疑問の答えがわかった、弘美の素肌はシルクのキャミソールなどとは比較にならないほど柔らかだった


小さく吐息を漏らしながら弘美は拓哉の豊かな髪の中に手を入れそっと抱きしめた



拓哉が優しく自分の鎖骨にキスをしている・・・自分が何をしているのか、どうしてこんなことになっているのかと一瞬不思議に思ったが、拓哉から首筋にキスの雨を降らされ、今の質問の答えを考えるのは先延ばしにすることに決めた




目を熱っぽく輝かせた拓哉に、そっと顔を近づけた、拓哉は弘美の後頭部を手で押さえ自分の顔に引き寄せた




二人の唇が重なり合った瞬間、弘美の全身に小さな喜びのさざ波が立った




拓哉は、荒々しい傲慢なキスをするであろうと以前から想像していたのに、予想に反して彼のキスは優しくて最高だった、拓哉はゆっくりと時間をかけ、舌と唇で酷使しながら弘美を味わった




ブカブカのニットの中に手を入れられ、子猫を撫でるように背中を撫でられた時は、心地よすぎて鳥肌が立った




その時一斉にフロアの明かりがついた。停電が普及したのだ、弘美は夢から覚めたように拓哉の膝から飛びおりた




「うっそーーーーーー!!あれ櫻崎拓哉じゃない? 」


「え??嘘?嘘?キャー――――――!たくやーーーーーー 」





フロアの方から女性の金切り声が響いた、途端に何人もの悲鳴が飛び交った、なにかに追いかけられるように、弘美は非常出口の隅に逃げて顔を覆った




しまった―――停電で油断していた



拓哉がフロアを見ると、彼を指さし、彼の名前を大声で叫びながら、狂ったように悲鳴をあげている女性もいた




そして大勢の人がスマートフォンを掲げ、彼と弘美を撮ろうとしている。そこへ報道陣なのか、一眼カメラを持った人達も駆け付け、カメラのフラッシュをたき始めた




あたりは騒然とした雰囲気になった、弘美は今度は暗闇の恐怖とは別の震えが来ているのを感じた



「おい!ここからでるぞ!タイムアウトだ!」



どこからともなく幸次が二人の間に割って入ってきた




幸次の後ろにはかなりの人だかりができていた、そこへ聡子と真由美もやってきた




「何がどうなってるの?」


「さぁ君たちは裏口に急げ!奴らは興奮しだしている」




幸次がそう言って後ろの群衆を指さした、今はクラブのガードマン3人が男女入り混じった群衆が押し寄せているのを必死で止めている




拓哉は、いつもなら公の場にいる時はVIPルームから離れずに、とても慎重に行動するのに、今夜は弘美と一緒にいた数分間すっかり我を忘れていた



拓哉が振り返り、入り口を見渡すと店の外の歩道に次々に報道陣達が集まってきているのが見えた



おびただしい数のスマホからフラッシュを浴びせられ、恐怖にかられながら一行は出口に急いだ、その時20代前半らしき女性がガードマンの静止を振り切った




「たくやぁーーーーーーー愛してるわ!愛してわ!愛してるわ!キャーーーーーーーー 」




泣きながらその女性が弘美を突き飛ばして、拓哉に抱き着こうとした、その勢いで弘美が地面に尻もちをついた



「誰よその女ぁぁぁぁぁ――」




間一髪でガードマンがその女性をつかんで引き離し、羽交い締めにした、女は狂ったように暴れて泣き叫んでいる



「お願いよ!お願いよ!彼と少しだけ話をさせて!デビューした時からファンなのよ!!拓哉!たくやぁーーーーー 」



「弘美?大丈夫?起きて!早くっ」




聡子が弘美の腕をつかんで引き起こした、あっけにとられてる、足元がおぼつかない真由美が、どうにか腰を抜かしかけている弘美を引っ張って行く



次に別の黒髪の女性がガードマンの静止をすり抜け、拓哉の腕をつかんだ



「ここはいいから早く行け!! 」



拓哉が弘美達に向かって叫んだ




「捕まえたわーー!死んでも離さないわよ!たくやぁーーーーー」




ファンに捕まった拓哉が必死の形相で何やら群衆に叫んでいる、ガードマンももう抑えきれない、一斉にスマートフォンを持った群衆が、ドミノ倒しのようにどっと拓哉達に迫ってきた、このままではケガ人が出る




「いいか!裏口から駐車場まで一気に走れ!振り向くなよ!」




幸次が叫ぶ、弘美は混乱で唖然としていた、熱狂した人々がこれほど恐ろしいものだとは思いもよらなかった、走ろうとしても足がおぼつかない




「走れ! 走れ!」




聡子、弘美、真由美、は一斉に走り出した




・:.。.・:.。.








悪魔の儀式のようなローリングストーンの裏口から必死で逃げ出してきた真由美達は、運転手がスタンバイしているリムジンに転がり込むように飛び乗った




そして今やローリングストーンの玄関口に、ハイエナのように集まっている報道陣の横をすり抜けるように、リムジンは走り出した




一瞬数人の報道陣がリムジンを追いかけてきたが、途中であきらめた、もう安全だと一息ついた一行はリムジンの中で大きく深呼吸をした




「はぁ・・・はぁ・・・・ 」



真由美は激しい息継ぎをし、呼吸を整えた




「・・・あ~・・・こんなに走ったのは・・・・久しぶり・・・ 」




真由美の隣で聡子もシートにもたれてぐったりしてる




「あ~・・・・ものすごい夜ね・・・拓哉は大丈夫かしら・・・・ねぇ・・・弘美・・・ 」



「弘美?・・・ 」




返事がないので聡子がガバッと起き上がって、リムジンの中を見回し、そして叫んだ



「弘美がいないわ!」


「え?乗ってないのか?」





幸次も信じられないとばかりに叫ぶ




「さっきまであたしの後ろを走ってたわよ!」




真由美も何度もリムジンの中を見回す3人が顔を突き合わせて言っ




「大変!弘美を置いてきちゃった!!」







・:.。.

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「みんなどこ行っちゃったのぉ〜?」




弘美は裏口から急いで出たものの、ローリングストーンの敷地を囲んでいる高さが2メートルもある、生垣の迷路に迷い込んでいた



必死で走ってきたので、ここら辺まで来ると人通りはまったくないものの、玉石を敷いた私道の外れのほうまで駐車場を何往復もウロウロしても、乗ってきたリムジンは見当たらなかった



もしかしたらあの時、自分だけみんなが行く方向と逆に来てしまったのかも・・・



弘美は来た道を戻ろうかと思った、しかしあのおびただしい報道陣がまだそこらをウロウロしていたらと思うと、どうしても戻る気になれなかった



そして拓哉は大丈夫なのだろうか・・・・



もしかしたら大勢の人に自分の写真を撮られたかもしれない・・・それにこともあろうことか拓哉とキスをしてしまった・・・




弘美は先ほどのガードマンともみ合って熱狂していたファンも思い出していた、ものすごい勢いで突き飛ばされた、そして今にも殺されかねない彼女達の目つき・・・・



あれほど人間に敵意を向けられたのは初めてだった、思わずぞっとして弘美は自分を抱きしめた


今夜は正直言って、生きている日本人の俳優の中、で最も拓哉は有名なのだと思い知らされた、今まで彼と自分が対等ではないかのように初めて感じた



ひどい悩みの種の、どうしようもない傲慢な男性にすぎない彼と思っている方が、遥かに接しやすかった




彼は終始あんな人種に囲まれている・・・やはり有名人とはまともな神経でやれるもんじゃない、自分とはかけ離れている




それなのに・・・弘美はまた拓哉とキスしたことを思い出していた




あの時、怯えている自分を優しく慰めて耳元で囁く彼の深い声・・・心の底から安心した自分を見る彼の表情は月明かりの中で弘美の胸を打つ何かがあった



・・・彼は・・・私を強くて美しいと言ったわ・・・




もしかしたら・・・彼は・・・私の事・・・・





その時弘美の頭の中にフラッシュバックが起こった、ワンワンスタイルで弘美に気づかず知らない女とSEXをしている元婚約者の健樹の姿を



自分がまったくもって大馬鹿者だということを思い知らされた




相手は現代の光源氏と言われるほどの女たらしなのだ!日本一のプレイボーイに失望させられる立場に自ら追い込むほどの馬鹿はいない



弘美は彼のコレクションの「タクヤガール」の一人に危うくなりかけた





「まったく!最低!!」




あまりにも動揺して、その場で弘美は大声で叫んでしまった





「そうかな?そんなことないと思うけど」




その時、突然弘美の後ろの方から男性の声が聞こえた



弘美がくるりと振り向くと、誰もいない駐車場の明かりに足元が照らされて暗闇から男性が現れた





「・・・うそでしょ?・・・」






弘美は思わずつぶやいた





なんとほんの数メートル先に下沢亮が立っていた








・:.。.・:.。.







「こんなところに一人でどうしたの?」



下沢亮が自分に微笑みかけている



弘美はあっけにとられて何も言えなくなっていた、ローリングストーンのクラブでは大勢の有名人を見たが、まさかここで下沢亮と出会うとは夢にも思わなかった





そして―――




何という事だ真由美の言うとおりだ



生で見る下沢亮は、パーマがかかったマッシュヘアで、真由美の見せてくれた雑誌では彼の髪の色は栗色だったが。今は彼の髪の色は銀に近い金髪で、シンプルだが大ぶりのシルバーチェーンピアスがキラキラ揺れている




まるでどこかの星から来た王子様のようだ、そういえば真由美が言っていたが、彼は髪の色をコロコロよく変えるそうだ




子犬のような大きな瞳、そしてリップを塗っているのかどうかわからないが、おいしそうな彼の赤い唇・・・そして引き締まった体は、拓哉に負けず劣らず長身で、センスの良い白のジャケットを着ている




彼は人間と言うより、2次元のキャラクターの様だ、それがまさに今弘美の前で動いてしゃべっている




「え?・・・あ・・・ 」




弘美はなんとか自分を取り戻した



「そうなの・・・ちょっと一緒に来てた連れと、はぐれちゃったみたい・・・ 」




その時弘美はブルッと悪寒が走った、コートを店に忘れてきてしまっていた、いくらニットを着ているとはいえ12月ともなれば外はかなり冷える




「あと・・・上着とバックも店に忘れてきちゃったみたい」




ハハハ・・・・と弱く弘美は笑った、この無様な現状をなんとか笑いに変えたかった





「そうなんだ・・・・それは大変だね・・・・・でも今は店に戻ると、ちょっとやっかいかもね、僕もパパラッチを避けて出てきたんだ 」




なぜか弘美は亮に対して心が温かくなった、たぶん薄茶色の大きな瞳に浮かんだ心配そうな表情のせいだろうか



特に、さきほどの突き飛ばされて熱狂した異常な拓哉のファンの殺人的な視線を浴びた後では・・・・




「私もあの店には二度と入りたくないわ」




考え込むように弘美が言った




「気を悪くしたらごめんね、さきほど櫻崎拓哉さんと一緒にいた人?」




亮が自分の顔を見てピンと来たのを弘美は感じた、ここで嘘をついてもバレバレだろう




「ええ・・・まぁね・・・」




亮が少し距離を詰めてきて、信じられないことに自分のジャケットを脱いで弘美に着せた



亮のジャケットはとても良い匂いがした、拓哉といい、芸能人は匂いにこだわるようだ





「まぁ・・・・ありがとう・・・」


「もしかして櫻崎さんの彼女さん?」




ハッとして弘美が言った





「ええ?違うわ!彼とは単なる仕事上の関係よ 」


「そんなに美人なのに?だとしたら櫻崎さんはとっても間抜けだな」




こんなきれいな子に美人だなんて言われれるなんて、いったい自分は過去世でどんな良い行いをしてきたのだろう




そして拓哉を間抜け呼ばわりする彼を今ではとても好感が持てるようになっていた




「ありがとう・・・でもお世辞なんか言ってくれなくていいのよ 」




弘美は控えめに微笑んだ




「お世辞は僕は言わないよ!」




亮は感じよく言った弘美は好奇心をそそられて彼を眺めた



なんてこと・・・彼が・・・下沢亮が自分に言い寄ってきているなんて・・・




「・・・できれば・・・・今日この店であったことを、人にはあまり言わないでほしいんだけど・・・私は弁護士をしてて・・・こーゆー場に出入りしてる事を公にされると都合が悪いの、もちろんここへ来たのも今日が初めてよ」




「わお!弁護士さんなの?どうりで頭が良さそうだと思ったなんか・・・お姉さんって・・・・芸能界のチャラい女の子達と違うなって思ってたんだ」



彼は称賛するように弘美を見た




クスッ「・・・あなたも芸能人じゃない」




弘美は思わず笑った




「エヘン!僕は芸能人でも硬派なんだよ」




女の子より可愛らしい顔をした男の子が、自分は硬派だと一生懸命虚勢をはってる所がなんとも可愛らしい




耳にぶら下がって揺れている彼のシルバーのピアスがキラキラ光っている、弘美はさきほどのみじめな思いをこの突然現れた王子様の様な可愛らしい彼のおかげで心が和んだ



それを見た亮が少年っぽい悩殺笑顔でこう言った





「ねぇお姉さんの家まで僕の車で送らせてよ」






・:.。.・:.。.





稲垣幸次は、彼の会社のスターライト芸能事務所の最上階にある自分のオフィスの奥にあるテーブルで、パソコンの前に座り「週刊芸能」と「デスパッチ」と「女性自身」の公式ツイッターを面白くない気持ちで眺めていた




先日のローリングストーンで、あの女弁護士と拓哉が二人でいる所の画像が、いくつものSNSで拡散されていたからだ




幸いどの写真も、彼女は顔を伏せていたので、ハッキリとした人物特定はこの写真では無理そうだった



そしてあの時、は誰かがマスコミにたれこんで、自分たちが帰る時にはパパラッチが店にわんさと押し寄せていた



誰もが拓哉が泥酔していたり、ご乱心の場面を期待してカメラを向けていたが



あとで付き人に聞いたが、あの時の拓哉はスターらしく、とても冷静に、狂っているファンに機転を利かせてあの場の騒ぎを収めた、彼はクラブのDJブースに入って行って、アイドル時代にヒットしたラブソングを数曲披露した




役者をしていると言っても、拓哉は所詮歌手上がりで、その頃のアイドル拓哉を知っている人も、あの場には何人もいただろう、観客はうっとりと聞きいって酔いしれているうちに、上手いこと逃げ出せたようだった



もしかしたら拓哉はまだ歌を歌うことを諦めていないのかもしれない




今や彼は歌よりも芝居をさせた方がはるかに儲かる、再三歌手に移行したいという拓哉の願いは、何度も説得して却下してきた




まだまだ拓哉には第一線で稼いでもらわないといけない、そして最大のプロモーションは彼の恋愛の報道だ、総収益の5パーセントという、わずかな自分の取り分のために、拓哉の構成からプロデュースまで、すべての事を自分は取り仕切っている




それゆえに櫻崎拓哉の広報マネージャーの稲垣幸次は、業界でも最も影響力のある男で通っていた



故に拓哉のスキャンダルは報道する価値があるものにしなければいけない、拓哉と寝る女とニュースのネタになる女ではいけない、それが幸次のモットーだった



それから30分、幸次は赤坂弘美は拓哉にとって、どれぐらい大きな問題になりそうかと考えていた




櫻崎拓哉はこの日本で最高の俳優なのだ、拓哉が長い事手放さないステータスでもある幸次にとって最高のクラアントなのは事実だ



しかし、まさにその点を幸次は案じていた、彼は誰も心配しないようなことを心配することで報酬を得ているのだ



トップの座に到達するのは並大抵のことではない、そしてその座に君臨し続ける事の方がもっと難しい、拓哉はそうしたことを兼ね備えている時代を象徴するスターだ




日本の女性は彼を愛し、男達は彼のようになりたがる、残念ながら芸能界は飽きっぽい、この世界が何よりも好むのは「新人」や「将来有望株」・・・・




そう新しい「顔」と誰もが認める次のスターだ




16年もこの業界にいる櫻崎拓哉は、残念ながら目新しい存在ではない



だからまるで玉ねぎの皮をむくように、次々と企画を打って彼の新しい魅力を引き出さないといけない、世間は「刺激」を待っている




幸運にも拓哉の限界はどこにも見えなかった、前回の彼のアカデミー賞主役作「ボディガード」が今週の金曜ロードショーで地上波で一斉に放送される



それが今撮影中の「法廷ミステリー」のクランクアップも、新年春先早々に行われる最大のプロデュースになる




しかしもう一つプロデュースの後押しが欲しい・・・



だから拓哉にとって必要なことは――今までやってきた事と同じ事、つまり宣伝という観点から、拓哉が交際する相手は今話題の女優か旬のスーパーモデルでないといけない



赤坂弘美はハッキリ言ってふさわしくない、それどころか、拓哉にとって何の特も得られない、むしろマイナス要因は取るに足らない女と付き合うことだ




今撮影中の「法廷ミステリー」の公開と共に、人々は拓哉の新しい本格的なロマンスを待ち構えている




そんな中、幸次はパラパラと芸能雑誌「週刊盆春」を眺めていた、そこに下沢亮が写っていた、こいつは今後使える・・・・・




先日一緒に食事をした、良いヤツだったが、いかにも頭は空っぽそうだった




しかし今は拓哉の相手だ、そう思いながら最後の写真まで来ると手が止まった



拓哉と法廷ミステリー映画でヒロインではなくて、準ヒロインに抜擢されたハーフタレントの【ノエミ・クリスタル】だった




「ふむ・・・・・」




幸次は髭を剃ったばかりの顎をさすりながら考えた、彼女は演技こそはダイコンだが、ハーフという力強い魅力で、日本人が好きそうな顔立ちに、それは長い見事な脚を武器に持っている。彼女の純情そうな見た目(実はまったく違うが)もマスコミ受けがいい



そして実際は違うが、ハーフという事だけあって、彼女を使う事によって外国の国際映画賞も取れやすくなる




幸次は秘書にノエミの広報担当にアポイントを取るように指示した、10分後にはノエミのマネージャーに電話口でまくし立てていた




「まずはノエミに、ローリングストーンに行かせて、写真をとらせろ!ああ・・違う!白のソファーに座れ、先日拓哉が撮られた所だ 」




秘書が置いて行ったぬるいコーヒーをすする




「ああ!匂わせだよ!に・お・わ・せ!それをお宅のノエミのインスタに載せろ!コメントは・・・そうだな「あの時は楽しかった」ではどうだ?あの時ローリングストーンで拓哉と一緒にいたと思わせるんだ!」




さらに幸次は言う




「あと、拓哉とおそろいのシャネルの南京錠のネックレスもノエミに付けさせろ!二人は「おそろい」をつけるほどの仲だと匂わせろ!あとはファンが勝手に拡散してくれる 」





忙しくなってきた、幸次は大きくため息をついた



稲垣幸次・・・櫻崎拓哉の広報担当兼マネージャー、芸能界で最も力のある男・・・・・



ニヤリと笑った、俺は大衆の期待に応えることを常に最善としている






・:.。.・:.。.








「赤坂弁護士!見ましたか?これ! 」



美香が雑誌「週刊盆春」のトップ記事を広げ、弘美のデスクにバンと広げた



そして弘美の位置から、自分のオフィスの半開きになったドアの外に、数人の秘書達が群れてこちらに聞き耳を立てているのが見えた



今や美香は、あの拓哉ファンの秘書軍団達の、親分的な存在になっているようだ




弘美は広げられている雑誌の一面を困惑した思いで見つめた



そこにはビシッと決めた拓哉と、横のページにはハーフっぽい美人が載っていた、センセーショナルな見出しが目に飛び込んできた




―「新たな(タクヤガール出現日本一ハンサムな俳優の次の恋のお相手は?――





「でもこれ変だと思いません?こっちを見てください 」




美香が興奮して弘美に自分のスマホの画面を見せた、美香のスマホには拓哉の顔写真入りのストラップが揺れていた




「今、新しいタクヤガールって言われてるノエミ・クリスタルのインスタの投稿なんですけど 」



「あら・・・まぁ・・・」




弘美は思わず言葉を失った、美香の見せてくれたノエミのSNSの投稿記事は、週末に拓哉と行ったクラブ「ローリングストーン」のVIP席の、あの真っ白なソファーで真っ赤なニットを着てノエミがこちらをみて微笑んでいた




そしてコメントには


「楽しかった」


と一言・・・・





「そしてこっちのTwitterの投稿を見てください!これは先週ローリングストーンで、拓哉のファンが彼らと遭遇してVIP席にいたのを撮って投稿した写真です」




弘美は思わずハッとした、その拓哉のファンが撮ったリアルな写真はブレてるし、下を向いているので顔は判断できないものの、白いソファーに拓哉と一緒に写っているのは、まさしく自分だと気づいて声をあげそうになった




知らないうちにあの場をファンに撮られていた、弘美は困惑してただスマホをじっと見つめた




「でも、これおかしいと思いませんか?新たなタクヤガールが楽しかったと拓哉が行っていた同じクラブで、赤いニットを着て自撮りしてるんですよ?」



美香は息を弾ませながら訪ねた



「おそらく拓哉と一緒にクラブにいるこの赤いニットの女性は、ノエミだったと(匂わせ)してるんだと思いますけど、私達の目はごまかせません!実証!いち! 」



「ハイッ!」



美香が叫ぶと、後ろの秘書軍団から小さなスカイブルーのカーディガンを着た可愛い秘書が前に出た



「拓哉親衛隊(紅)!会員ナンバー3!総務課の増田です!こちらのTwitterの投稿をご覧ください!」



「紅?」




弘美は訳が分からず少し混乱した、彼女の見せるスマホにも、もちろん拓哉のストラップがぶら下がっていた




「私達は、櫻崎拓哉の幸せを心から願いひたすら彼を愛でる会(紅)を結成しました。この画像はSNSで拓哉パトロールをしている時に、彼女が見つけたものです!」




拓哉を愛でる会?SNSパトロール?



会員ナンバー3とやらの、総務課の彼女がテキパキ弘美に説明する




「こちらのインスタの動画投稿では、先週末、クラブローリングストーンに数人の男女を引き連れて現れてる拓哉をファンが録画しているものです」




動画まで・・・



弘美は今は背中に冷汗が流れていたが、よくよく動画を見てみると、いずれも画像は暗闇にぼやけて顔ははっきりしない・・・これでは自分だと識別もつかないだろう、弘美は少し安堵した、さらに美香がまくし立てる




「いいですか?この拓哉が座っている白のソファーとノエミが投稿しているソファーは同じ白でも材質が違うんです!ノエミは皮!拓哉はファー素材です」




また別の秘書が後ろから言った




「調査した結果、クラブローリングストーンのVIP室は2部屋あってノエミは拓哉がいた部屋と違う部屋で自撮りをしている模様です!申し遅れました!会員ナンバー5です!」





「・・・あなた達・・・探偵になれるわよ・・・ 」





弘美は呆れて言った



「拓哉のためならこんなことお安い御用です! 」



また違う秘書の誰かが言った、弘美はもう会員ナンバー何番か聞きたくなかった



「・・・さぁ・・・でもこのノエミなんとかさんがそうだと言ってるんじゃ、そうじゃないの? 」




チッチッチッと美香が弘美の前で指を振った



「そうだと言ってるんじゃないからタチが悪いんですよ!そういう風に思わせようとしてるんです。それが私達ファンは気に入らないんです!」



「そうよ!そうよ! 」



「匂わせなんて女の一番嫌な所だわ!」




美香の後ろの秘書軍団が言う、そして美香は意外な態度を取った、彼女はガシッと両手で弘美の手を強く握った




「赤坂弁護士!私たちはあなたの味方です!」




「・・・・一体何の事を言ってるのかさっぱりわからないのだけど・・・」




「何もおっしゃらなくて結構です!この「櫻崎拓哉の匂わせプロジェクト」はあくまでビジネスです!私達は最高のプロ意識で取り組まなくてはいけません、しかし・・・ただ・・・これだけはわかっておいてください、私達はいつでも、お二人のお力になります!」


「あんなメギツネに拓哉を取られないで!赤坂弁護士! 」




また別の秘書がたまらずといった感じで、後ろから声を震わせて言った



くっと美香が涙ぐむ、同時に後ろにいる秘書軍団も目をハンカチで覆っている、あきらかに以前より増えている、弘美が呆然と立ち尽くして眺めていると、納得したのか、美香が他の秘書達を仕事へと追い払って出て行った




「え~っと・・・」




弘美は声を失った





・:.。.・:.。.








思いがけなく午後は裁判がなかったおかげで、弘美は真由美にオープンカフェから電話をかけれる時間ができた



なぜなら、今朝から何度も真由美から着信が来ていた、弘美は大きくため息をついた



健樹と別れてから男の下心を僅かでも察知すれば、容赦なくはねつけるのがこれまでの弘美だった、けれど、あの夜の拓哉はそんな風にあしらえなかった、拓哉もこちらを誘おうとするそぶりはまったくなく、性的な事柄を連想させる発言やほのめかしなどもなかった


出会って初めて二人はごく親しい友人のような雰囲気で会話を楽しんだ


そして最近の彼の職業観や仕事ぶりにはずいぶん感心させられたものだ




さすがトップスターと言えるだけある、彼は常に自分のファンの事を考えていた、だからこそ熱狂的なファンに手荒な扱いをされても忍耐強く、彼は耐えていた、それこそ人権などないような扱いもあった



しかしあの暗闇のキスは、男と女の戯れの会話よりもはるかに濃密だった


彼とキスしている間、弘美は体内に電気が流れているような不思議な感覚を味わっていた




そして・・・彼も弘美を征服するというよりは、崇拝して接していてくれているようにさえ感じた




まるで二人の間に見えない絆があるように・・・・






そこで今朝の美香が見せた雑誌が思い浮かんだ


ノエミ・クリスタルと一緒に写っている拓哉の傲慢な顔が・・・・




馬鹿ね・・・彼はあの櫻崎拓哉なのよ・・・・





自分がのぼせ上がっているんじゃないかと思わずにいられなかった、こんなことではいけない・・・しっかりしなくては、私にはやるべきことがある、かえって裁判の証拠物件収集に取り組まなくては




そうおもった時に再び弘美のスマホが鳴った、真由美からだった、ゴシップ誌をほぼ全部定期購読してる真由美のことだ、今朝の「タクヤガール」の記事を読んだに違いない、呼び出し音が2回鳴ってすぐに真由美が出た





「あの記事はもみ消しよ!」





電話がこんな風に始まったことが面白くて笑ってしまった、真由美も美香が率いる(紅)に入れそうだ




あの夜信じられないことに、弘美は下沢亮に彼のベンツで家まで送ってもらった、彼はなんと自分のベンツにエンジンをかけ暖かい助手席で弘美を待たせ、店に戻って弘美のバックとコートを貰ってきてくれもした




思いがけない彼の親切に、少し心が弱っていた弘美はとても感動した




さらに彼は驚いた事に、自分が有名人だからといって偉ぶるでもなく、とても話しやすくて名声やルックスに不釣り合いなほど楽しい人だった



弘美はまるで学生時代にもどったかのように、亮とのドライブのひと時を楽しんだ



そして拓哉もそうだが、亮を見ているのは・・・・目の保養になった



亮が弘美をマンションの前まで送って来た頃には、弘美は助手席で亮の冗談ですっかり楽しくなり、笑い転げていた、彼の冗談はローリングストーンのクラブで起こった辛いことを帳消しにしてくれていた



・・・同じ芸能人でも、彼みたいな気さくで親切な人もいるのね・・・



そう思うぐらい亮の第一印象は完璧だった



そして亮は乗せてもらったお礼にと一万円を差し出した弘美をみると憤慨した、仕方がないので今度弘美がランチをおごる約束をして二人はlineのIDの交換をした、亮は不思議な魅力で、なぜかもっと一緒にいたいと思わせるような人だった




家に着くと、先に帰っていた聡子と真由美をとても心配させていた事に罪悪感を感じた、聡子に前もって合鍵を渡していて本当によかった、思わず二人にはタクシーで帰ってきたと言った、その後興奮した三人の二次会が始まり、二人のおしゃべりに一晩中付き合っているうちに、下沢亮のことを話しそびれてしまった




翌日すっかり寝坊した三人は、大急ぎで転がるように新大阪駅に駆け付け、なんとか二人を帰りの新幹線に乗せた




いったい前代未聞の出来事に、弘美は自分の周りに何が起こっているのかわからなかった




故にこのロマンチストで有名人に憧れている親友に、近況報告をする暇はなかったのだ




「彼はあの櫻崎拓哉なのよ!」


「わかってるわよ、真由美」


「ほんとに?」




真由美は電話の向こうで疑わしそうに話した



「どんな報道陣が彼がエイリアンガールと付き合ってるとスクープしてもおかしくないわ!でも私は本物の彼を見たのよ!拓哉はあなたにぞっこんよ!間違いないわ」



「あのね・・・真由美・・・私もほんの一瞬だけど、あなた達と同じようなことを考えたこともあったのよ・・・ほんの一瞬だけど・・・ 」




弘美はあの真っ暗闇で重なった彼とのキスを一瞬思い出していた




「じゃあ 何が問題だっていうのよ」


「彼はあの櫻崎拓哉なのよ、今まで何人もの女性と浮名をはせてきたのよ、しかも超有名な女優やモデルとね 」


「でも・・・もしその報道が間違っていたら?そりゃ私は彼と数時間しか過ごさなかったけど・・・どうしてもあの報道みたいに、彼がとんでもない女好きで、女性と見たら誰かれ構わず手を出す人には思えなかったわ、彼はとても誠実で良い人だわ 」




弘美は大きくため息をついた




「真由美・・・世の多くの女性が男性に騙される一番の原因は(自分だけはこの人にとって特別だ)と勘違いする事よ、「愛」で人は変わらないわ・・・」




電話の向こうで真由美がため息をついた




「そんな酷い事をとても冷静に言うのね、職業病?」


「・・・現に私が体験したからよ・・・」




元婚約者の健樹は、弘美と付き合う前にはとても女性にモテていた、実際に弘美も他の健樹を好きな女性達と同じく、彼にのぼせ上がっていた



そして彼が自分を選んでくれた時は本当に嬉しかったし、そんな彼に選ばれた自分を誇らしく思えた



故に彼を心から愛し尽くした、自分の愛で今まで浮気性だった彼は、必ず変わり、生涯お互いしか見ない最高のパートナー、魂の片割れになれると信じていた




その代償が、彼が他の女と浮気している現場に鉢合わせするという悲惨な結末だった




あの教訓から弘美は道理を信じ、証拠を研究し、そこから導かれる実際の結果しか信じない人間になった



健樹と女がむきだしのお尻を突き出してた所を見た後では、人生がラブロマンスでハッピーエンドなどではない事を誰よりも実感していた




「・・・辛い事を思い出させてしまって悪かったわ・・・でも・・・それでも・・・・・ 」



真由美は用心深く弘美に言った



「やっぱり健樹と拓哉は違うと思うの・・・」



弘美は残ったカップの冷めたコーヒーを啜って言った、そろそろ仕事に戻る時間だ




「その通りよ・・・櫻崎拓哉のほうがひどいわ 」




カフェから戻り、オフィスへと向かうエレベーターを降りた瞬間、騒然とした雰囲気を感じた。自分のオフィスへと向かう途中の通り道で、誰もが仕事の手を止めて弘美を見ていたり、秘書の美香のデスク周りに、ミツバチのように集まった紅の秘書軍団の騒々しさのせいかもしれない



秘書達は一つの手鏡をやり取りして、口紅を塗りなおしたり、髪の毛を整えたりしている。こんな騒々しさが意味するものはもはや一つしかない、櫻崎拓哉が自分のオフィスに来てるのだ




「何やってるの?」



美香のデスクに群がってる秘書軍団が後ろの弘美に気づくと、悲鳴をあげて蜘蛛の子をちらすように去っていった、なんだか最近ではこの子達を少し可愛く思えて来ていた




そこへ美香がやってきて興奮して言った




「彼が来ています!」




弘美はため息をついて言った




「そのようね」





美香は嬉しさのあまり爆発しそうだ



「信じられません!彼が(こんにちは!)って言って、私もこんにちはって言ったんです。そしたらあなたに用があるって言うものですから、オフィスへお通ししました!ああっっ!そこからは何を話したか覚えていません、だた・・・めちゃくちゃ良い匂いがしたのだけ覚えています」




今や美香は顔を真っ赤にしてクネクネしている



「ああっっ!生で見る彼ったら、本当に素敵です!他の子達がジロジロ見るから私はオフィスのドアを閉めました」




美香は弘美を見て慌てて付け足した




「わっ!私はジロジロ見てませんよ!」



弘美は大きくため息をついて、ドアノブに手をかけた。途端に先日暗がりでキスをした事を思い出した、彼と気まずくなるのだけは勘弁してほしい・・・・



まずは先日のお礼を言ってそれから・・・彼のその後の話も聞こう・・・・



そして彼が今日持ってきた案件に対しては、誠心誠意、仕事をするつもりだ




後は彼がプライべートで何をしようが自分の知った事っではない、ノエミなんとかとイチャつこうが知ったことではない




ガチャッとドアを開けたとたん元気な声が飛んできた






「ひーちゃん!!」


「まぁ!亮ちゃん?」





そこには拓哉ではなく、下沢亮が弘美のオフィスにいた、亮は弘美を見ると、飼い主を見つけた子犬ばりの笑顔を見せた




う~ん・・・・なんともかわいいじゃないの・・・そして驚いたことに今日の彼の髪の色はピンク色だった




いったい・・・有名人ってどうしてこうもアポなしでやってくるんだろう、みんな当然自分の用事を優先してもらえるって思ってる所が難点よね・・・弘美は以前、憤慨してズカズカと突然やってきた拓哉を思い出していた




「(ちゃん)づけで呼び合う仲なんですか?」




その後ろで沢山の書類の山を抱えた新人アソシエイトで、弘美の速記係の桧山が、信じられないとボー然と立って言った




「ええっと・・・これは・・・ 」




弘美が桧山に何か言おうとしたけど、何も出てこなかった




「・・・・(今夜はトム・クルーズとディナーなの)と言われても、もう僕は驚きませんよ赤坂弁護士! 」





と彼は感心したように首をふって書類を置いて出て行った






・:.。.・:.。.





「まぁ!なんてかわいいの!」



亮が公園の歩道をこちらへ走ってやってくるのを見て思わずつぶやいた、かわいいと言うのは亮ではなく、彼の連れている茶色のトイプードルだった



今の彼はラフなブラックのパーカーに白のデニム、それに片耳には大きなシルバーのクロムハーツの十字架のピアスが揺れている、そして靴は黒のコンバースハイだ、今日の彼は年齢よりもずっと幼く見える




「名前なんていうの?」


「リッキーだよ 雄なんだ」


「なかなかハンサムね」


「僕に似たんだ」




思わず弘美は笑ってしまった




なんと亮はこの間、弘美が言ったランチをおごる宣言の催促をしにきた、それならば電話でよかったのにと彼に聞いた所




「顔をみたかった」




となんともかわいい返事をした、そして彼は弘美の仕事が終わるまで、オフィスビルの横の公園で弘美を待っていた、彼の犬と一緒に



「ランチと言うよりはもうディナーの時間ね、ごめんねお待たせして」



「リッキーがいるからお店には入れないよねぇ、あれ買ってよ、僕おなかペコペコだ!」



そう指さしたのは公園の隅に止まっていたホットドックのキッチンカーだった、彼の注文はピクルスと野菜を挟んだホットドック2個と、リッキー用にソーセージだけのホットドックを1個、弘美は自分用にピクルス入りを一つ注文して、コーヒーを二つ買った



「ふふふふふ」



弘美がリッキーを抱いて含み笑いをこぼした



「なにがおかしいの?」


「いえ・・・なんでもないわ」



彼は両腕にホットドックと飲み物を抱えて言った



だって考えてみてよ、私はあの(ビューティフルボーイ)下沢亮と公園でピクニックをしてるのよ、真由美がこれを知ったらきっと卒倒するわね



弘美は自分がにやけそうになるのを必死でこらえて、リッキーの頭をくすぐった



「今日はお休みなの?」




弘美は彼の服装を見て聞いた



「ううん、撮影は今夜の0時から始まるんだ、それまで寝ようかと思ったけど寝れなくて・・・そうだ!あの綺麗な弁護士のお姉さんに遊んでもらおうワン!って 」




亮が犬の鳴きまねをした、思わず弘美は笑った、この二匹ならまとめて喜んで飼えるなと思った



彼はホットドックをテーブルに並べ、二人の席を向かい合わせにセッティングした



公園に設置されたピクニックテーブルは、真鍮製の緑色のペンキで艶々していた、弘美はひんやりしたベンチに座りうなじの髪をかきあげてクリップで留めた



「まぁ・・・夜中からなんて大変ね」


「もうなれちゃったよ」



亮はホットドックにかぶりついた、そしてウインナーを小さくちぎってリッキーに与えた




「あなたは・・・・その・・・誰かいるの? 」



「誰かって?」




きょとんとして亮が尋ねる



「ああ・・・ガールフレンドという意味なら誰もいないよ、今はお芝居が楽しいし、見ての通り不規則な仕事だから、もしつきあっても彼女よりきっと芝居を大事にしちゃうかな?そんなの彼女に悪いでしょ?」



亮は紙ナプキンで口元を拭きながら言った




「そう・・・まじめなのね誰かさんと大違い・・・」




弘美は足を組み変え、ふと犬を見て思わず本音が出てしまった




「・・・それって・・・櫻崎拓哉さんのこと?・・・・あなたは彼と仕事してるって言ってたけどきっと・・・大変なんだろうね、噂は僕の所まで届いてるよ 」



「主に女性関係の噂でしょうね、それはさぞかし沢山あるんでしょう・・ 」



弘美は眉をしかめて言った




「・・・実は僕の友人の一人から聞いた話なんだけど・・・」



言葉はしりすぼみに消え、彼はうつむいた



「気にしないで・・・あなたはこんなことは知らなくていいから・・・」



よよよ・・・・と亮が萌え袖で口を隠して、もじもじしている、こんなに可愛いくて大丈夫なのだろうか、厳しい芸能界を渡って行けるのだろうか



しかし弘美も聞きたい気持ちで引き下がれなかった



「まぁ!私は弁護士よ!守秘義務は守るわ、そこまで言われて気にならない方がおかしいじゃない、彼は私のクライアントなのよ 」



弘美の中の弁護士魂がすべてを知っておくべきだと、仕切りに叫んでいる



「絶対言わないでね・・・・・」



きゅるんッと亮が上目遣いで弘美をみた、まさに天使だ




そこから亮が話す拓哉の女性問題は酷いものだった、亮が耳にした噂では、彼は主に3Pを好み、一緒に共演した女優達をイタリアに連れて行き、飽きたらそのまま現地に放置して、自分だけ日本に帰ってきたらしいのだ




そして拓哉が売れない時代は、彼の主な仕事は映画監督の奥さんに対しての枕営業で、彼の今の地位は監督や有名女優のおかげでもっているらしかった




弘美は聞けば聞くほど、持っているコーヒーを怒りで握りつぶしそうになるのを、必死でこらえた



なんてこと、彼は実力派俳優でもなんでもなかったのだ




「・・・・ひーちゃん・・・大丈夫?」





亮はあきらかに怒っている、弘美の顔をじっと心配そうに見つめていた




「ごめんね・・・やっぱり話すんじゃなかったね僕たちの業界の事・・・・普通の人なら信じられないよね・・・でも・・・僕はそういうのが嫌だから実力を認めてもらいたいんだ・・・だからどんな小さな役でも引き受けようって・・・」




「立派な心掛けだわ」





弘美は感心した、この子は若いのにちゃんとしてる、拓哉みたいな汚い大人になってほしくない





「ほんと?嬉しいっ!僕の事わかってくれるのひーちゃんだけだよ!わーい! 」



「ちょっ・・・亮ちゃん?」





いきなり亮が弘美に抱き着いてきた、彼のラズベリーコロンの良い匂いがした、本当にかわいくて憎めない子・・・・




彼も拓哉に負けず劣らず、超有名人なのに少しもスレてなくて良い子だ、こんな弟がいたら楽しいだろうな・・・



弘美は今後はこんな風に無邪気に彼に甘えられたら、きっとなんでも願い事を聞いてしまうだろうなと思った




あの拓哉の熱狂的なファンに襲われたり写真を撮られたりした、ローリングストーンの悪夢も、彼と偶然出会えたことは感謝しなくてはいけないかもしれないと思った




可愛く弘美の腕をくんで、無邪気にもたれて甘えて来てる彼のピンク色の髪を見つめる、こんな脱色してるのにどういうわけか彼の髪のキューティクルは天使並みにツヤツヤだ、それになんてまつげが長いの




それでも自分の弁護士魂が、彼には一言忠告しておかなければいけないと言っている



「あのね・・・亮ちゃん 」



「なぁに? 」





弘美は彼の頭をなでながら間近に彼と向き合って言った







「人のうわさ話はそれが本当かどうかしっかり裏をとるべきだと思うわ」











・:.。.・:.。.









「ふん!」





弘美と別れた後彼女が見えなくなると、亮はリッキーのハーネスを強くひっぱった、せっかく昨日考えた櫻崎拓哉のありもしない噂話をあの女弁護士にさんざん吹き込んでやったのに



あの弁護士は話半分で聞いていた、どうやら馬鹿ではないらしい




あの櫻崎拓哉がぞっこんになってる女を自分が奪ってやったら、さぞかし面白いだろうと思っていたのに、どうやら作戦は長期戦になりそうだ






「おい!早く来いよ!クソ犬」




リッキーが小さく唸る、そこへ亮の携帯電話が鳴った





「ああ・・・京子さん? 」




電話口で女の怒鳴り声が音漏れして聞こえていた、かなり怒っている




「ああ・・・ごめんごめん・・・君の犬を連れてかえるよ、ちょっと散歩させてただけなんだ」




怒鳴り声はいっそう激しくなった



「え?そう言って出て行って何時間になるんだって?わかったわかった、そんなに怒んないでよ・・・愛してるんだから 」





二ヤッと笑って亮は言った





「それじゃぁ、今夜は君が2回イクまでクン二してあげる、だから許してね」




途端に電話口のどなり声は静まって亮は電話を切った





すぐにこの犬の持ち主の性欲お化けの監督の嫁の所に行く気になれず、近くにあるドックカフェで一休みすることにした




きっと誰かが自分に気づいたら、この犬と一緒にいる所を撮ってSNSに投稿するだろう、インターネットに自分の良い話題が出るのは好ましい





コーヒーを飲みながら無断で拝借してきたこの小さな犬を抱え、亮は自分のスマホのTwitterを眺めている、その画面にはあの夜ローリングストーンで拓哉と一緒に写っている弘美がいる





世間ではこの(タクヤガール)はノエミ・クリスタルだと思われているが、亮の目はごまかせない、こういう宣伝をすれば映画公開前にみんなが大騒ぎする、だがこれは完璧な話題作りだ




現にあの男はあの場にいたのだ、定期的にあの総収益5%の手数料で最高の宣伝ができると本人が豪語していた人間、稲垣幸次にさも懐いてる様に見せて、連絡をいれていた



すると幸次に「拓哉にお前を紹介するからローリングストーンに来いよ」と誘われたのだ




気に食わない相手こそ、懐に飛び込むのが最高の攻撃と知っている亮は、嬉々としてクラブにあの夜向かったのだ、それに今夜はあのクラブでは報道陣が沢山集まると情報も得ていた、彼にとって注目を浴びる絶好のチャンスは逃がすわけにはいかない




残念ながら拓哉の熱狂的なファンが騒いだおかげで、幸次は自分を拓哉に紹介はしてくれなかったが、おかげでじっくり拓哉を観察できた、敵陣でコソコソ覗いているスパイのように



そして間近で一心に赤いニットの女性を見つめる拓哉を発見した、疑いの余地なく亮が確信したのは、この二人はまだSEXをしてる関係では無い




しかし今では百戦錬磨の亮も、自分の中学生時代を振り返ってみると男子が女子の気を引こうと全力を尽くしている時はわかった、たとえその男が櫻崎拓哉でも、アイツは赤いニットの女が笑うのならバク転でもする勢いだった



一方女の方は拓哉の事をどう思っているかは謎だった、女は常に周囲を気にし、連れの友達の事を気にしていた



櫻崎拓哉の本当の意味での(タクヤガール)はあの赤坂弘美だ





そしてあの二人をずっと観察してたら、拓哉がトラブルに巻き込まれて、あの女は駐車場で連れに置き去りにされた





なんともタイミングが良かった、上手く拓哉の惚れてる女に近づけた





あの櫻崎拓哉から惚れた女を奪ってやったらさぞかし面白いだろう



亮は口元がほころぶのをエヘンと咳をして紛らわせた




その時、亮のテーブルの脇を通り過ぎたマルチーズを連れた若くてかわいい娘二人を亮はじっと見つめた




さりげないやり方で亮の注意を引こうと、彼女達が亮の周りを歩き回るのはもうこれで4度目だった




亮は彼女達がとうとうあきらめて向こうから声をかけてくるまで、もう一周歩かせることにした





二人とも良い尻をしていた、重ねて四つん這いにさせるとさぞかし良い眺めだろう





リッキーにドッククッキーをあげていると、とうとう二人が亮に話しかけてきた




「わぁ・・・やっぱりそうだ!本物ですよね」




Dカップはあると見た女の子が話しかけてきた




「あの〜私達・・・デビューした時から亮君のファンなんです~♪」




こちらは・・・残念だ・・Aカップだと思われる子が夢見るように目を凝らしていた




亮はニヤリと笑った





「いや~・・・バレちゃた?・・・お願い・・・ここで会ったことは内緒にしてね?」




































~その恋意義あり!美人弁護士と日本一有名な俳優との秘密の恋

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