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LAST

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「先に声かけてきたのはそっちでしょ」
「だからって。こんなに年下だって思わなかったって言ったでしょ」
「そう、年下じゃダメな理由が結婚なら俺は考えてるって言ってる」
「そうじゃなくて………」
全然通じなくて困る。
「学生だってもうあとちょっとで終わりじゃん。同じ社会人になるわけだろ」
「そうじゃない。そうじゃないの。どうして同い年くらいの子と付き合わないのって」
「だからー、そっちが告白してきたからじゃん。俺に! 」
「そうだよ。でも、じゃあなかったことにしてって言ってるじゃない」
「……勝手だな。勝手に俺の年勘違いして勝手になかったことにする? それって大人のすることなのか? 」
「責任とれってこと? 」
「そだな」
「それって、何の責任なの。あなたなら、告白なんてしょっちゅうされてるだろうし。その子たちはずっとあなたのことを好きでいなきゃ駄目なわけじゃないでしょ。何年も付き合って私に気持ちがあるなら責任も感じるけど……どうして欲しいの、私に」
七瀬くんは苛立ちを思いっきり顔に出した。
「わかったよ、OK、OK。別れよ。それでいい? 」
「……うん。ごめん」
「ちっ、腑に落ちねー。俺、30越えてるように見えるか? 」
「その、冷静に考えたら見えないんだけど、私も恋は盲目的な感じになってたし、何よりあなた私に敬語使わなかったから勝手に同い年くらいかなって思い込んじゃって。ただの不敬な子供……」
まずい。正直に言い過ぎた。
「ふ、ははは。マジでイラつくな。確かに、普段はお姉さんに敬語なんだけどな、俺」
じゃあ、あの時は単に敬語を使わなかっただけだったってこと。
どこか、吹っ切れたように七瀬くんは笑った。それから、真顔になると私を見据えた。
「え、何? どうしたの」
「春美さん。俺さ、これから春美さんにちゃんと敬語使うよ。あと、とりあえず別れてあげる。それとさ、結婚したいって言うけど相手ってそう簡単には見つからないだろ。だから、フリーなうちは俺とも遊んでよ」
「ええ? 」
何を言ってるの?
「なんだかんだ言って、俺を引き離せないの知ってますからね」
そう言ってな七瀬広睦はまたふんわりとだけど、不敵に笑った。
え?
何?結局何が起こったの。何なの。苛立ったくせにすぐに可愛い顔で笑って。
何が何だかわからないまま七瀬くんとは別れ、家に帰ってきた。
結局彼は……
「言わなかったよね、理由」
どうして、私を引き留めるの?
「あの子、言わなかったよね」
頭がぼーっとする。もやもやする。はっきり言ってくれたら、私のこと好きだって。それなら私も、関係の継続を考えたかもしれないの……
「いやっ、何言ってるの私! 違うから。考えないから。私は年相応の人と同じ目線で生きていける人と結婚するんだから。寄り道なんてしてられない! 」
立ち上がって不意に湧き出る意味のない発想を打ち消すように部屋を歩き回った。そうよ、目的は結婚。ちゃんと、真剣なやつで、子供の事とか考えたらリミットがあるんだから。私はもう、あの子には誠意を見せたつもりだ。あの子にはまだまだ未来があって急ぐ必要は無い。そうよ、あの子はほかの誰かとゆっくり愛を育んで、それから結婚したらいいのよ。1度失敗してるんだから。他の……
チクンと胸が痛んだ。指先で胸を押さえる。いたた、この痛みは羨ましいんだ。まだゆっくりじっくり相手を選ぶ時間があるあの子が……。それだけの事。この年まで誰かとそんな関係を築いて来られなかったのは私の敗因だ。妬んでも仕方がない。
誰もいないから気持ちが揺れるのよ。相手を探さなきゃ。一先ずあの子と何もなかったのはまだ良かったんだから。
そうは思うけど、恋をどうはじめていいのかわからなくなっていた。
学生の時は同級生で、社会人になってからは先輩や同僚。ほのかな好きになれそうな感情も含めれば、だけど。30手前で別れた元カレは友達の紹介だった。
友達の紹介、かぁ。
思い立って友達に連絡を取ってみた。“誰か男紹介して”じゃなくて、『久しぶりにランチに行かない? 』って。
休日をルーティン以外で過ごそうと思ったからだ。今のままじゃ、良くない。
「沼ね」
「沼だね」
学生時代からの友人、昌代が昌代が言うと、仁香も同じ言葉を重ねた。
この日、すぐに連絡のついた二人と週末に集まっていた。
――沼、とは。
「沼? 」
「どっぷりはまって抜け出せなくなるのよね。ヤバイよ、それ。春美みたいなタイプが案外ハマりやすいんだよね」
仁香が私を観察するように目を細めた。
「あー、でもいいんじゃん。そりゃさ、目の前にアイドルみたいな綺麗な男の子現れたら課金しちゃうよね」
昌代はまだ好意的な顔で笑った。
「いやいや、何、沼って。私、別にあの子の事なんか……」
前のめりで否定すると、ピッと昌代が手のひらで私を制止した。
「あのねぇ、春美。久しぶりに会おうなんて声かけといて近況報告開口一番その子の話してるのよ? 聞いて欲しかったんでしょう。しかも、可愛くて仕方がないって表情してたわよ」
「そう。明らかに沼ってる」
「え……私、そんなこと無いって。だって、どうしていいかわからなくて」
自分の表情が信じられなくて、手で頬に触れる。可愛くて仕方ない?私が?
「まだ諦めてくれないのが嬉しいんでしょう」
そう言う仁香の顔は冷ややかだった。
「……そ……んな」
「まぁまぁ、仁香。ちょっとうらやましいじゃない? 若い子にモテるなんて」
「でも、大学生だよ、昌代」
「うーん。11歳差かぁ。若いね」
昌代はカフェの背もたれに身を預け、苦笑いをした。
昌代は彼氏持ちの独身。結婚はしてもしなくてもいい、といった感じだ。仁香は独身で今は婚活中。希美は4歳の息子ともうすぐ2歳になる娘がいる。そして、今お腹に3人目がいてつわり真っ最中でメッセージアプリで参戦していた。といっても、ほぼ画面から消え、向こうの音声はうるさいからとオフにされていた。
コメント
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読み終えました。七瀬くんの「フリーなうちは遊んでよ」、あれは完全に逃げ道を塞ぎつつ自分の存在を残す手ですね。春美さんが「言わなかったよね、理由」と反芻するシーン、彼の言葉の裏を考え始めた時点でかなり沼に片足突っ込んでる証拠だなと思いました。友人の「沼ってる」も図星すぎて笑えました。ここからどう動くのか、続きがすごく気になります。