テラーノベル
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最近の陽一さんは、ちょっとずるい。
ダイエットの成果で身体がシュッと引き締まって、スーツ姿も前より格好よくなった。それなのに本人は、相変わらず自覚がない。
「いや、まだ誤差の範囲だよ」
なんて真顔で言う。誤差なわけがないもん。
しかもこの間、カフェで一人リモートワークをしていたら、見知らぬ女性に「一緒に食事でもどうですか?」と声をかけられたらしい。
もちろん、結婚していることを伝えて、丁重にお断りしたらしいけれど……。
「美人局なんて初めてだよ。怖いね……なんで僕みたいなおっさんに声をかけたんだろう……」
本人は本気で戸惑っていた。いや、違う。それ、たぶん逆ナンだから!
たまたまその日は、結婚指輪がだいぶくすんでいたので、クリーニングに出していた。つまり、指輪をしていなかったのだ。
それにしたって、逆ナンされるくらい無自覚にフェロモンをまき散らすとか、どういうこと?許せない。その話を聞いた私の内心は、嫉妬の炎で燃え上がっていた。
陽一さんは、私だけのものだもん。一欠けらですら、他の女に渡すつもりなんかない。
私は、陽一さんを逆ナンした女性が、自分より可愛かったのか、若かったのか、スタイルがよかったのかを徹底的に問い詰めた。
けれど本人は、美人局に遭ったと思い込んでいたせいで、相手のことはほとんど覚えていなかった。
気にしていたのは、怖いお兄さんが出てこないか。セクハラで訴えられないか。その二点だけ。
だから私は、お仕置きと称して、最近は早朝から彼を振り回す日々を続けていた。
ゆずのときは半年近くかかったのだから、今回だってきっと数ヶ月はかかる。
そう思って、完全に油断していた。
最近の陽一さんは、私の攻撃に振り回されて、毎日のように寝不足だ。
「……ひよりさん、元気すぎない?」
なんて、情けない顔で訴えてくる。
……可愛くて、つい胸がきゅんとしてしまう。
***
その日、会社の健康診断があった。受付で問診票を渡され、私は待合スペースの椅子に座って、いつものように項目を埋めていく。
既往歴。服薬。自覚症状。特に問題なし。ペンは順調に進んでいた。
けれど、ある項目で、ペン先がぴたりと止まった。
『現在、妊娠中、または妊娠の可能性はありますか』【 □ はい □ いいえ □ わからない 】
「…………」
ない。ない……よね?だって早すぎる。“朝活”を始めてから、まだ一ヶ月ちょっとしか経っていない。いくらなんでも早すぎる。そういえば、今月はまだだけど。
まあ、寝不足や疲れで遅れることなんてよくあるし――。
そう思って、「いいえ」にチェックを入れようとした。
けれど。ペン先が、動かなかった。なんだか、嫌な予感がする。結局、「わからない」にチェックを入れた。
その後、検査は進み、胸部レントゲンの順番が来た。
「妊娠の可能性は『わからない』ということですが、念のため今回は見送りますか?」
「……っ、はい。お願いします」
頭の中はもう、それどころではない。やっぱり。もしかして。まさか。健康診断が終わると、速攻で会社近くのドラッグストアへ向かった。
――検査薬のたった一分の待ち時間が、永遠のように長い。
そして。くっきりと線が出ていた。
「……え」
見間違いじゃない。何度見ても、ちゃんと二本ある。
コメント
1件
ひよりさん、第251話読み終わりました…! もう、最後の「くっきりと線が出ていた」で心臓が止まるかと思いました。朝活で陽一さんを振り回すひよりさんの嫉妬&お仕置きが可愛くてニヤニヤしてたのに、健康診断であの質問にペン先が止まるシーンから一気に空気が変わって、読んでるこっちまで息を呑みました。まさかの展開、めちゃくちゃドキドキしました😳💕
#ギャップ
ひより
3,413
ひより
3,504
#三角関係
霞花怜
5
#白い結婚
夕凪ゆな
123