「どっ、どういうこと!?」 「そのままの意味です。私は日本で医者をしておりますので、少しは皆さんのお力になれるかもと思ったのですが……」
目の前で誰かが大怪我を負っているという話を聞いたからには、医者として放っておくわけにはいかないと思ったのだろう。志音は先程アリスの治療をしていたので、デイジーとレグ以外の6人は、アリスが治療を受けたということを知っているし目の前で見ている。しかし、それを見ていないレグやデイジーには、出会ってすぐの人間に知り合いの治療を任せるというのは些か不安だったのだろう。デイジーは、どうしようと呟きながら困った顔をしている。
「この時間もカーティスさんは苦しんでいるんだよね……。ねぇ、レグはどう思うの?」
「い、いや、どうして僕!?」
「カーティスさんは君のお父さんでしょ! 何か思う所とかは無いの?」
「えっと……。僕は、お客様のことは信頼してるよ。だから任せていいと思う」
レグはそう言う。まだ出会ってから1日も経っていないが、レグは6人のことを信用しているらしい。
そんなレグを見て、デイジーは任せても大丈夫だと判断したのだろう。志音に向かって話しかけた。
「それじゃあ、カーティスさんが居る救護テントまで案内するね。そっちに居るのは貴方の知り合いだよね?」
と、5人の方を見ながら言った。志音が頷くと、デイジーは「じゃあそっちの人達も着いてきて」と言った。それに従い、全員でカーティスの居る救護テントへと向かった。
◇ ◇ ◇
一行が救護テントに到着すると、そこでは茶髪の女性を中心に数名が忙しなく動いている様だった。レグは茶髪の女性を見るなり、「お母様!」と言い駆け寄った。
「お母様、お父様はどこに?」
「レグ。来てくださったのですね。……あら? そちらの方々は?」
レグの母親……リストアは、初めて見る顔が6人も居ることに気付いた。レグが事情を説明すると、リストアは少し安心したような顔をした。
「では、お客様方にも手伝っていただきましょう。お客様に手伝わせてしまうのは申し訳ないですが、代わりに後でお礼をさせてください」
「お礼なんてそんな……。私は医者として、困っている方を助けたいと思っただけですので」
「ありがとうございます。では、怪我人の居るテントまでご案内しますね」
リストアは7人を救護テント内まで案内した。デイジーはまだやるべきことがあるらしく、元来た方へと戻っていった様だ。
救護テント内を見回すと、そこには怪物との戦いで怪我を負ったのであろう怪我人が何人も居り、重傷の人も数名居た。応急処置は済まされているのだろうが、時折怪我人達のうめき声のようなものも聞こえ、救護テント内は苦しむ人々で埋まっていた。
しかし、テント内をどれほど見ても、カーティスの姿は見当たらない。村へ来る途中の馬車の中で、レグからカーティスとリストアの顔写真を見せられていたので、何となくどのような見た目をしているのかは分かる。だが、ピンと来る見た目の人はどこにも居ないのだ。
「あの……カーティスさんはどちらにいらっしゃるのでしょうか?」
「……夫は、運び込まれてきた怪我人の中でも特に大怪我を負っておりまして……。こちらです」
リストアに案内されて更に森の奥へと進むと、ベッドに横たわっている1人の男性が居た。その男性こそがカーティスである。全身に包帯が巻かれており顔の確認こそしにくい。しかし、6人はリストアがここまで案内してきたこともあり、その男性がカーティスだと分かった。
そんな様子のカーティスを目にして、カーティスに近付く者や、少し遠巻きからそれを見ている者、どうするべきか分からないとでも言いたげな顔をしている者も居た。
「カーティスさん……ですよね。何故このようなことに……」
包帯姿のカーティスを見て、胡朱は少し苦い顔をした。すると、カーティスは胡朱の呟きを聞いていたのか、ゆっくりと口を開き、そして喋り出す。
「この傷は全て、融合怪物にやられた……。村の人は大丈夫だろうか? もしかすると、村が襲われている可能性も……」
「安静にしていてください! 貴方がこの中で1番の大怪我を負っているのですよ!」
突然体を起こそうとしたカーティスを見て、リストアは慌てて駆け寄りカーティスの体を支え、ゆっくりと寝かせた。再びベッドに横たわったカーティスは、ぽつりぽつりと事情を語り始めた。
「あいつらは普通の怪物とは違う……。融合し、更に強化されている。勝つには、今の戦力じゃ足りないかもしれない」
「……名前の通り、融合怪物は、普通の怪物とは違う怪物なのです。何も、2つ以上の個体が合わさって1つの生き物になったのだとか……。やはり、融合したからか、中々な強さを誇っているのでしょう」
カーティスが説明した後、リストアが補足をする。
……融合怪物。レグの父親であるカーティスに大怪我を負わせた怪物だ。カーティスがどれ程の腕の持ち主なのかは6人は分かっていないが、結構な腕前であるということが窺える。
「やっぱり、その怪物は結構強そうだね。そういえば、レグさんは何か知らな──」
「……レグさん? どうしたんだ?」
「父様を傷つけた怪物が許せないだけです。……安心してください、時間が経てば怒りもある程度は収まるでしょうから。きっと、今ここに来て父様の姿を見て、先程まで湧いていなかった怒りが湧いてきたんでしょう」
レグは怒っているにしては冷静だが、顔は人が怒っている時の顔そのもので、その表情と怒りはフード越しでも伝わってきた。
「だからってどうするんだ? 融合怪物がどんなものか分からないし、俺達は武器を持っていない。戦うにも丸腰じゃ心もとないだろ」
「心もとないというか、何なら丸腰じゃ戦えないまであるけどね……」
「……それなら宛があります。本当に戦うなら、の話ですが」
「その宛というのは?」
「村に鍛冶屋があるんです。そこでは、緊急時に武器を貸し出してくれるそうです。鍛冶屋まで行って、怪物が居る場所まで行けば……」
村には鍛冶屋が存在しており、そこでは緊急時に武器を借りることが出来る、とレグは言った。
「……皆。少し聞いてくれないかい?」
そう声を上げたのはアルバートだった。思わず、そこに居た者のほとんどがアルバートの方を見る。
「オレはその武器を借りて融合怪物と戦いたいと思う。村の人の力になりたいんだ。皆はどうか教えてほしい。もちろん、嫌なら嫌だと言ってくれて構わない」
「お、お客様……。お客様方が戦うのなら僕も戦います。お客様だけを危険に晒すなんてこと、出来ませんし」
「私も賛成です。……私には、志音さんのように医者をしている訳でも、医学に詳しい訳でもないので、これくらいのことしか出来ないかもしれませんが……」
胡朱はそう言いながら、アルバートとレグの方を見た。アルバートは、胡朱の言葉を聞いてこくこくと頷いた。一方、レグは客に戦わせるということが不安なのか、ちらちらとアルバートやレグ、そして他4人の方を見ている。次に口を開いたのは幸斗だった。
「怪物が蔓延っている村に行く、って話になった時点で予想出来ていたことだ。今更言われたってなんとも思わない。それに、さっきも言ったが死にそうになったら俺は逃げる。自分の身は自分で守れるからな」
最後に口を開いたのはアリスと志音だった。
「見殺しにするだなんてことは出来ませんし、私も人々を助けたいですわ! 皆で村の人々を救いましょう! 皆さんと一緒なら怖いものなし……のはずですわ!」
「私も……皆さんを助けたいです。今もどこかで苦しんでいる人々が居るはず。私は、そんな人々に手を差し伸べたい。医者として、そして1人の人間として」
「成瀬さんは? どうしたい?」
それぞれの意見を聞いてから、アルバートはそう言えば……と翠を見る。翠は、何も言わない代わりに静かに頷いていた。
「では、僕が村の鍛冶屋まで案内します。……村は危険な状態です。武器を手に入れても油断しないでください」
「……レグ。そしてお客様方。先程も説明した通り、融合怪物は通常の怪物の中でも特に危険な個体です。どうかお気を付けて」
リストアはそう言いながら7人をテントの中から見送る。ふと胡朱が振り返ると、カーティスが何やら不安そうな表情をして自分達の方を見ているということに気付いた。それを見た胡朱は、レグの肩を叩いてカーティスの方を指差した。すると、カーティスの不安げな表情に気付いたのか、レグはカーティスのベッドの傍に近付き、カーティスの手を握った。
「行ってきます、父様。どうか安静になさっていてください。……きっと、お客様方と共に、父様に大怪我を負わせた怪物を倒しますので」
「私は、お前とお客様達に怪我がなければいい。レグ、自分の命を第1に考えてくれ。いいな?」
「……はい」
レグはそっと握っていた手を離し、テントから離れて再び歩き出す。カーティスとリストアは、7人の背中を静かに見送っていた。
◇ ◇ ◇
「……なあんだ。意外と問題はなさそうだ」
暗い部屋の中。謎の男はつまらなそうにモニターの画面を見つめながら、指の腹でとんとんと机を叩いている。しかし、画面の中に何かを見つけたのか、途端に面白いものを見ているような表情になった。
『オレはその武器を借りて融合怪物と戦いたいと思う。──』
「なんだか面白いことになってるみたいだね。……だが、まだ私の出番ではないかな?」
「ふふ……。何があったかと思って見てみたら、こんなに面白いことになっていただなんて。これは面白いものが見れそうだ」
謎の男はニヤリと笑みを浮かべていた。
◇ ◇ ◇
いつもありがとうございます、宵月シノです。
突然ですが皆さんにお聞きしたいことがあります。「孤高のレヴェリー」の投稿頻度や内容、クオリティーについてです。
投稿頻度が死んでいることは周知の事実ですが、重要なのはそこではなく…(投稿頻度を上げるのも大切ですが)。
今回皆様にお聞きしたいと思ったのは、ノベルの1話ごとの長さについてです。
現在、ノベルは1話3000文字以上と決めて執筆しているのですが、長く感じますか? 短く感じますか? それとも丁度いいでしょうか? 私のチャットノベルの1話ごとの長さを参考に考えていただきたいです。
コメントで長く感じるか短く感じるか教えていただきたいです。
長い分には「まあ別にいっか。分けて読めるし」くらいの考えなのですが、短いと投稿頻度死んでる上に1話1話が短いというヤバいものになってしまうからです。
短いと感じる方が多かった場合、1話の長さ(文字数)を4000~5000文字、もしくは6000文字ほどに引き上げて書こうと考えております。
改善に向けて、皆様のご意見を教えていただきたいです。よろしくお願いします🙇🏻♀️
その他「ここを改善してほしい!」といったご要望もお待ちしております。
コメント
5件
謎の男…何者なのか気になります… 私的には投稿頻度は宵月シノさんのペースで大丈夫ですし、長さはちょうどいいと思います!
カーティスさん…‥…。 謎の男が融合生物作った…のか…?🤔 ちょうどいいと思います!逆にどうしてこんな長く書けるのか不思議で仕方ない…。 クオリティが高いんで投稿頻度は関係ないです。ご安心を🙃
タイトルがずっと【参加者募集中】になっていることに今気付きました…。きちんと修正しました。