テラーノベル
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凪川 彩絵
#独占欲
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【作品紹介】
一夜を共にしたはずなのに、瑠璃香だけが覚えていない。
「フェアじゃない」と拗ねる彼女に、晴永は甘くも強く囁く。
――「だったら……今度こそ記憶に残るようにしてやろうか?」
記憶をなぞる夜が、二人の距離をもう一度結び直していく。
本編で端折った部分を書き出した挿話です。
「……私だけ覚えてないのは、なんだか悔しいな……。フェアじゃないです……」
「フェアじゃない、か」
晴永は、瑠璃香を見下ろしたまま低く彼女の言葉を繰り返した。
逃げ道を与えるように、ほんのわずか距離を保ったまま。
「だったら……今度こそ記憶に残るようにしてやろうか?」
そう問いかけて、晴永が彼女に覆いかぶさった瞬間、寝室の空気が一変した。
正直まずいな、と思ってしまった晴永である。
窓の外を渡る風の音も、リビングで走るなまこの回し車の音も、すべてが遠い世界の出来事のように霧散していく。
本当は、少しだけ脅すつもりの言葉だったのだ。
なのに――。
唇が触れそうな距離までグッと顔を近付けてみても、瑠璃香は逃げようとしなかった。そればかりか、まるで晴永からの口づけを望んでいるかのように、静かに瞼を閉じてくる。
「……本気か?」
自分から仕掛けたくせに、思わず問いかけていた。
その声は、いつになく掠れていて、我ながら緊張しすぎだろ、と自嘲したくなる。
瑠璃香の気持ちを確かめるように頬へ手を伸ばせば、情けないことに指先がわずかに震えた。それはこの期に及んで拒絶されるかもしれないという恐怖だったか、あるいは抑え込んできた独占欲が決壊寸前であることへの焦りだったか。
だが、そんな晴永を前にしても、瑠璃香は逃げなかった。それどころか、シーツを握りしめる手に力を込め、潤んだ瞳で晴永をじっと見上げてくる。
「……教えてください。私が、忘れてしまったこと」
その言葉が、最後の一押しとなった。
これから行うすべてを彼女の記憶へ刻み込むための儀式のように、晴永の唇が瑠璃香のそれへと重なる。
最初は壊れ物に触れるような、確かめるような柔らかな口づけ。けれど、瑠璃香が戸惑いながらもその首に手を回した瞬間、晴永の理性は音を立てて崩れ去った。
***
「……っ、ん……」
深くなっていく接吻の中で、瑠璃香は心臓の鼓動が自分のものか、それとも晴永のものか分からなくなるほどの衝撃を感じていた。
以前にもこうして愛し合ったはずなのに、肌に触れる彼の熱は、まるで初めて知る温度のように熱い。
「……瑠璃香、目を開けてろ」
晴永が低い声で命じる。
彼は、彼女に触れているのが自分なのだと執拗に分からせるように、瑠璃香が目を閉じるたびその視線を捉えて離さない。
「一度目の時は……お前のほうから俺にキスしてきたんだ。覚えてるか?」
問いかけにフルフルと首を横に振れば、晴永はおさらいを強いるように瑠璃香を抱き上げる。
自分に跨がせるように彼女を座らせると、射抜くような視線でじっと見つめてきた。
「覚えてないなら、もう一度最初からだな」
当然のように「キス待ち」の体勢で目を閉じられた瑠璃香は、少女のように戸惑ってしまう。
目の前には、凶悪なまでに整った晴永の顔。それだけでも心臓が持たないというのに、
「ほら、早く」
と誘うようにうっすら唇を開かれるから、瑠璃香はたまらなく恥ずかしくなった。
「あ、あの……でも……」
「なんだ。酒の勢いがないと、キスもできないのか? ……仕方のないやつだ」
吐息混じりに言われるなり、グイッと距離を詰められ、腰を引き寄せられる。その動きに合わせるように押し当てられた柔らかな唇の感触に、瑠璃香は懸命に応えた。
湿った密着音に、心臓が早鐘を打つ。絡められる舌の熱さに、息をすることさえ忘れてしまいそうになる。
パジャマの胸元へ伸ばされた晴永の手つきは、どこか強引で、それでいて泣きたくなるほど愛おしげだった。
「瑠璃香……」
ボタンを外す指先、素肌を這う掌の質感、キスの合間を縫うように繰り返される自分の名前。
「あの日も、俺はこうしてキスをしながら、お前の服を脱がしていったんだ……」
「えっ……」
少しずつ剥き出しにされていく肌に、瑠璃香は夜気と彼の視線の熱さに身体を震わせた。
当然の権利のように、晴永の大きな手が胸のふくらみを包み込む。
その感触にキュッと身体を縮こまらせれば、「覚えてないくせに、全く同じ反応をするんだな」と愉しげに微睡んだ声で笑われた。
羞恥のあまり晴永にしがみつくと、そのまま優しくベッドへ押し倒される。
「瑠璃香……綺麗だ」
その囁きも、一夜目の時と同じだったのだろうか。
ぼんやりと思う瑠璃香に、晴永が影を落とす。
「瑠璃香は、ここを吸われるのが好きだって言ってたな」
「……ひゃ、ぁんっ!」
身をかがめた彼が、胸の先端に吸い付いた瞬間、瑠璃香はびくりと身体を跳ねさせた。
甘やかに疼くそこは、存在を主張するようにジリジリと熱を帯びる。
「あの日の瑠璃香は……自分のいいところを、全部俺に教えてくれたんだぞ」
「……うそ」
否定の言葉を飲み込ませるように、首筋へ熱い舌が這わされる。あまりの快感に、瑠璃香は彼の腕を掴む手に力を込めた。
「や、んっ。……そこ、ダメ……っ」
「ダメじゃないだろ。お前が言ったんだ。『耳はあんまり感じないけど、首筋はすごく気持ちいい』ってな」
唇が触れるか触れないかの距離で紡がれる「過去の自分の告白」に、全身が粟立つ。
そんな恥ずかしいことを教えていたなんて信じたくない。けれど、あまりにも的確に攻め立てられる甘美な刺激に、それを教えたのが自分であることを認めざるを得なかった。
「なぁ瑠璃香。あの夜をじっくり再現してやるから……今度こそ絶対に忘れるなよ」
身体を這い降りてくる指先の感触に翻弄されながら、瑠璃香はコクコクと頷いた。
彼は、彼女が最も悦ぶポイントを、嫌になるほど正確に記憶している。
下着越しに敏感な花芽を押しつぶされ、瑠璃香は絶妙な力加減に涙目になる。
まだほんのわずかな接触なのに、秘所がとろとろに解けていくのが自分でも分かった。
クロッチをずらされ、直に触れられる快楽に、瑠璃香はギュウッと彼にしがみつく。
晴永の指は、溢れ出した蜜を纏わせ、蕾を割って侵入してくるなり、内側の弱点を的確に突き始めた。それすらも、かつて自分が教えた「ウィークポイント」なのだ。
「熱いな……」
その言葉がどこを指しているかなど、聞くまでもない。
「膣内が震えてる。……イキそうか?」
耳元での意地悪な問いかけさえも、今は最高の悦びに変わる。
「や、んっ……、晴永さん、もう……っ」
「いいよ。まずは一回、堕ちろ」
内側を追い上げられ、同時に外側の突起をキュッと圧迫される。逃げ場のない快感に、瑠璃香は背を逸らして絶叫に近い吐息を漏らした。
熱い体液が溢れ、晴永の手を濡らしたのが分かったが、羞恥を覚える余裕すらなかった。
「瑠璃香……挿入るぞ」
ぼんやりした頭に届いた宣告。
次の瞬間、指とは比べものにならない質量が、隘路を強引にこじ開けていく。その圧倒的な充足感だけで、瑠璃香はまたしても達してしまいそうになった。
「お前が好きなところ、全部突いてやるから」
溶け合う境界線。
ベッドの広い空間が、次第に二人だけの狭い宇宙になっていく。
瑠璃香の髪がシーツに広がり、晴永の重みが心地よい圧迫感となって彼女を包み込んだ。
「あ……っ、はる、なが、さん……、そこ、もう……っ、だめぇ……っ!」
晴永が腰を進めるたび、脳が焼き切れそうな快楽が襲う。どうしてこれほど気持ちいいところばかりを知っているのかと、瑠璃香は翻弄されるしかなかった。
揺さぶられるたびに、これが初めてではないのだと身体が実感していく。彼の名前を呼ぶだけで、指先まで痺れるような感覚。
晴永は、瑠璃香が喘ぐたびにその声を食むように口づけを繰り返した。記憶がないことを逆手に取るように、一つ一つの愛撫を刻みつけるように、一夜目の晩をなぞっていく。
「ここ、弱いだろ」
「ひゃ……っ、あ、あぁ……、違っ」
「嘘つくな。お前は忘れていても……身体はちゃんと覚えてるみたいだぞ」
意地悪な言葉とは裏腹に、見つめる瞳には狂おしいほどの情熱が宿っていた。
「ほらな。忘れてるのは頭だけだ。身体は俺のものだって、知ってるじゃないか」
晴永だけが抱えてきた孤独な記憶。それを共有できないもどかしさを、彼は言葉ではなく、肌を合わせる熱量で埋めようとしていた。
腰を突き上げられるたび、視界が白く弾ける。
緩やかに、さざ波のように攻め立てられるのが好きなのだと、彼の動きがすべてを知っていた。
「……っ、瑠璃香……!」
耐えきれないように彼女の肩口に顔を埋めた晴永の吐息が、瑠璃香の胸に深く響く。
そのとき、瑠璃香は確かに感じた。
言葉では決して語り尽くせない、彼が隠し持っていた寂しさと、自分に対する執着にも似た深い愛を。
揺れる視界の中で、瑠璃香は晴永の背中に爪を立て、必死にその体温を吸い込んだ。
今夜のこの熱とともに、彼との記憶を、今度は魂にまで刻みつけようと祈りながら。
【挿話/R18】記憶に残る一夜 ―完―
コメント
1件
はるながさん、ちょっぴり意地悪さん♥