テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ショーケースの中で、いくつもの指輪が静かに光を返していた。
白とグレーでまとめられた店内は落ち着いていて、平日の夕方ということもあり、人影も少ない。
仕事後、社外で待ち合わせをした瑠璃香と晴永は、高速を飛ばして一時間余りの場所にある隣町の宝石店まで足を運んでいた。
市内のジュエリーショップを選ばなかったのは、一応に社内の人間の目を避けたかったからに他ならない。
瑠璃香はガラス越しの輪を見つめながら、胸の奥がわずかに緊張しているのを感じていた。
指輪を選ぶ――それは、晴永との関係に確かな〝形〟を与えるということだ。
「瑠璃香はどういうのが欲しい?」
隣で晴永が低く問う。
瑠璃香は一呼吸おいてから、静かに答えた。
「石は……ないのがいいです」
「何故?」
「石があると家事の時、気になって外しちゃうと思うんです」
「そういうものか?」
「そういうものです」
ふたりの会話を聞いて、店員がいくつかのリングをトレイに並べてくれた。
その中の一本に、瑠璃香の視線が止まる。
細身のリング。
外側はやわらかなピンクゴールド。その上を、すっと一本、プラチナの帯が走っている。
金の温かな艶と、白く澄んだプラチナのコントラスト。
どちらかが主張するわけでもなく、切り離せないまま一つの輪を形作っている。
「これ……」
店員にうながされるまま手に取ると、ピンクゴールドが体温のように柔らかく光を受け、中央のプラチナが静かな芯のように揺るがない輝きを返した。
「……それがいいのか?」
晴永の問いは穏やかだった。
瑠璃香はリングを見つめながら言う。
「ぐるぐる回っても気にならなそうですし、普段使いにちょうどいいです。付けたり外したりしなくて済みそうで」
豪華すぎれば、きっと気後れして外す理由を探してしまう。
仕事中だから。場面に合わないから。
でもこれは、違う。
「私、こういう指輪は……日常に溶けて欲しいんです」
ピンクゴールドのやわらかさと、プラチナの強さ。
どちらも欠けず、でも派手に主張もしない。
晴永は一瞬だけ目を細め、微かに笑った。
「……なるほどな」
それ以上は言わない。
瑠璃香の見ていた指輪を手に取ると、彼女の指へ通す。
細いリングは左手薬指にぴたりと収まり、まるで最初からそこにあったかのように馴染んだ。
角度を変えるたび、金と白の光が上品に照明を跳ね返す。
「そちらのデザイン、オプションで内側に小さな石を嵌め込むことも出来るんですよ」
店員がカタログを手にやってきて、そんな説明をしてくれる。
晴永としては全く石のない指輪は味気ないとも思っていたので、願ったりかなったりのオプションだと思った。
凪川 彩絵
#独占欲
コメント
1件
指輪とかいいなぁ💍