いさなは夜になっても、船の一角で頭を抱えていた。
「くそっ…!」
彼は拳で自分の頭を軽く叩いた。何度も、何度も。
「あの場面を忘れろって、俺!なんであの瞬間だけ、脳みそが鮮明なんだよ…!」
船の揺れに合わせて、彼の脳裏には萌香の姿がちらつく。
淡い光に照らされた肌、慌てて布団に隠れる姿、そして――
「うおおおおおおっ!」
いさなは叫び声を上げて、頭を抱えながら甲板に転がった。
「いさな、何してんの?」
みりんが甲板に上がってくると、転がっているいさなを見てため息をついた。
「いや、なんでもない。星を眺めてただけだ。」
「ふーん。でもその顔、どう見ても悩んでるようにしか見えないけど。」
みりんは腕を組み、じっと彼を見下ろす。
「…ほんとに何でもないって!」
いさなはそっけなく答えたが、顔が赤くなっているのをみりんは見逃さなかった。
「さては、まだ萌香のことを考えてるでしょ?」
「なっ…!そ、そんなことない!」
みりんはにやりと笑った。
「嘘だね。ビンゴ。」
「くそ、なんなんだよ、もう!」
いさなは足音を立てながら船室に駆け込んだ。
「男って単純だよね。」
みりんは呆れながら甲板に残り、波の音に耳を傾けた。
船室のベッドに倒れ込んだいさなは、天井を見つめながら息を吐いた。
「これじゃ、明日萌香と目合わせられないじゃん…。」
しかし、彼は同時に気付いていた。
それだけ萌香を意識している自分に。
「…いやいやいや、そんなわけない!俺が萌香を!?いやいや、それは絶対にない!」
彼の独り言が船室に響く中、心臓の鼓動だけが止まらなかった。
「はぁ…。」
萌香もまた、ベッドの中で頭を抱えていた。
「いさなが見てた…。いや、仕方ないけど…。でも、あの時の表情…。」
思い出すたびに、顔が赤くなる。
「こんなの…。」
しかし、次の瞬間、自分で頭を振ってその考えを追い払った。
「何言ってんのよ、私!彼、変態なんだから!勘違いしちゃダメ!」
船全体が静まり返る夜。
いさなと萌香は、それぞれの部屋で、違うようで同じような悩みを抱え続けていた。
コメント
11件
わおわお()
恋愛かよ( '-' )