夜が明け、いさなは目を覚ました瞼をこじ開けると、頭の中にはまだ昨日の萌香の姿がちらついている。
「もう忘れるんだって…!」
布団を跳ねのけて、いさなは船室から外に出た。
「おはよ。」
みりんがいさなに声をかけた。
「お、おはよう。」
いさなは顔をそらしながら答える。だがその動きは不自然で、みりんはすぐに何かを察した。
「まだ昨日のこと考えてる?」
「はぁ!?何のこと?」
いさなは思わず声を荒げたが、みりんのにやりとした笑みを見て、すぐに口を閉じた。
その時、船室から萌香が現れた。顔を伏せたまま、足早に甲板を通り過ぎようとする。
「萌香、おはよう。」
いさなが声をかけるが、彼女は一瞬立ち止まったものの、そのまま無言で通り過ぎた。
「……。」
その様子を見ていたみりんは、小さくため息をついた。
「ねえ、あんたさ、ちゃんと話した方がいいんじゃないの?」
「いや、でも、何話すって言うんだよ。」
いさなは頭をかきむしる。
「そりゃあ、昨日のことを謝るとか、気まずさをなくす方向で話すとかさ。」
「でもさ、あれって俺が悪いのか?状況的にさ…。」
いさなは小声で反論するが、みりんの冷たい視線に黙り込んだ。
その後、いさなは釣りをするふりをしながら、船の端でぼーっとしていた。
すると、後ろから足音が聞こえてきた。
「……。」
振り返ると、そこには萌香が立っていた。
「あの…」
萌香は俯きながら声を絞り出す。
「昨日のこと、気にしてないから。」
「えっ?」
いさなは驚き、思わず顔を上げた。
「だから、その、あんまり気にしなくていいって言ってるの!」
萌香は早口で言い切ると、恥ずかしそうに顔を赤らめながら立ち去ろうとする。
「待って!」
いさなはとっさに声を上げた。
「俺も…その、ごめん。昨日、変なタイミングで入っちゃって。」
いさなは必死に言葉を紡いだ。
「別に、見ようとしたわけじゃないんだ。ほんとに偶然で。」
「分かってるよ。」
萌香は振り返らずに答えるが、その声には少し安心感が混じっていた。
「ありがとう。」
いさなの短い言葉に、萌香は小さく頷き、その場を去った。
遠くからそのやり取りを見ていたみりんは、満足げに微笑んだ。
「ふーん、結局そういう感じなのね。」
「よし、これで少しは落ち着く…かな。」
いさなは自分に言い聞かせながらも、まだ心臓が高鳴っているのを感じていた。
しかし彼は気づいていなかった。
この不思議な感覚が、ただの気まずさではないことに――。
穏やかな海の朝。船は緩やかに進み、波音が心地よいリズムを刻んでいる。ゆうなは船端に腰掛け、釣り竿を手にしていた。
「全然釣れないなぁ…」
ぼやきながらも、揺れる糸をじっと見つめている。
「もうちょっと待てば、そのうち釣れるだろ。」
いさなが後ろで声をかけるが、ゆうなは舌打ちして応じた。
「あんたはいいのよ。何もしてないくせに余裕ぶってさ。」
「いやいや、俺は見張り役だし?」
適当に返すいさなに、ゆうなは半眼で睨む。
その時、海面に異変が起きた。釣り糸がピンと張り、ゆうなの手元を激しく引っ張る。
「えっ、来た!」
興奮しながら竿を握り直すゆうな。しかし、その引きの強さは尋常ではなかった。
「でかいぞ、それ!」
いさなが慌てて近づくが、次の瞬間、海面が大きく割れた。
現れたのは巨大なサメの背びれ。鋭い歯がちらりと見えた瞬間、ゆうなの顔から血の気が引く。
「やばい!サメだ!」
サメは釣り糸を引っ張り、船を揺らし始めた。
「ゆうな、糸を切れ!」
いさなが叫ぶが、ゆうなは恐怖で手が動かない。
「無理無理無理無理!」
ゆうなは泣きそうな声を上げながらも、竿を手放せずにいる。
「バカ、そうなったら俺がやる!」
いさなは急いでナイフを取り出し、釣り糸を切ろうとする。
だがサメは勢いよく跳ね上がり、船に向かって突進してきた。
しばらくの格闘の末、サメは深い海へと逃げ去っていった。
「助かった…ありがとう。」
ゆうなはお礼を言いながら、頭を撫でた。
「まったく、サメ相手に釣りするなんて。」
いさなが呆れたように笑うと、ゆうなは悔しそうに顔を赤らめる。
「私だって好きでやったわけじゃない!」
その後、船の中ではサメの話題で盛り上がったが、一つの問題が残っていた。
「釣り竿、壊れちゃったよ。」
ゆうながしょんぼりと言うと、みりんがふっとため息をつく。
「また道具作り直しね。」
「それもいいけど、次はサメが来ない場所で釣りたいな…」
いさながぼそっと呟くと、全員が苦笑した。
静かに揺れる青い海。前日のサメ騒動から、ゆうな達の船旅は再び穏やかなものとなっていた。
「そろそろ海のアーティファクトを探し始めるか。」
いさなが海図を広げながら言う。
「でも、どうやって探すの?広すぎるでしょ。」
萌香が不安そうに呟く。
「これを使う。」
みりんが取り出したのは、小さな手製の水中スコープだった。
「すごいじゃん!これで海の中を見られるの?」
ゆうなが興奮して声を上げる。
「まぁ、限界はあるけどね。あとは運次第。」
みりんが苦笑する中、彼らはスコープを使って海底の探索を開始した。
数時間後、船の先端でスコープを覗いていたゆうなが突然叫ぶ。
「見つけた!何か沈んでる!」
全員が集まってスコープを覗き込むと、深い海底に大きな影が見える。それは朽ち果てた沈没船だった。
「ここにアーティファクトがあるかもしれないな。」
いさなが静かに言った。
船を沈没船の真上に停めた一行は、潜水の準備を始める。リオとサニー、トラは今回は船で待機。
「酸素ボンベ、ロープ、そしてこれ。」
みりんが手渡したのは簡易の防水ランプだった。
「こんなのまで作れるのか…本当にすごいな。」
いさなが感心する中、ゆうなと萌香も潜る準備を進める。
「怖いなぁ。」
萌香が震えながら言うと、ゆうなが笑って肩を叩く。
「私たち、ここまで生き延びてきたじゃん!大丈夫、大丈夫!」
水中に潜ると、辺りは青と黒のコントラストで覆われていた。ランプの光が揺れる中、沈没船が徐々に姿を現す。
「でかいな…まるで映画の世界だ。」
いさなが船体を見上げながら呟く。
船は古びており、木材は腐敗し、藻が絡みついていた。しかし、不思議なことに一部だけが綺麗に保たれている。
「こっちだ!」
ゆうなが手を振りながら進むと、船内の一角に不自然に輝く箱があった。
「これだ!アーティファクトだ!」
箱を開けると、中から光る赤色の石が現れる。その輝きはまるで生きているかのようだった。
アーティファクトを手に入れ、全員が安堵していたその時。突然、暗闇の中から巨大な影が現れる。
「なんだ、あれは…?」
萌香が恐る恐るランプを向けると、それは巨大なウミヘビだった。
「ヤバい!逃げるぞ!」
いさなが叫ぶが、ウミヘビは素早い動きで近づいてくる。
「アーティファクトを守らないと!」
ゆうなが咄嗟にウミヘビの注意を引くように泳ぎ出す。
「バカ、戻れ!」
いさなが追いかけようとするが、みりんが腕を掴んで止める。
「冷静に。私たちは船に戻るべき!」
全員で息を合わせ、ウミヘビの攻撃をかわしながら船へと急ぐ。リオとサニーが甲板から大きな咆哮を上げると、それに気圧されたウミヘビは一瞬動きを止めた。
その隙に全員が無事船に戻り、アーティファクトを守り切った。
一行はアーティファクトを手に入れ、次の目的地に向かうため、船を走らせていた。いさなが地図を広げ、目を凝らしながら言った。
「次のアーティファクトは…この近くの小さな孤島にあるらしい。雪山の次に行こうとしていた場所だが、島の地下にあるみたいだ。」
「孤島…なんだかまた不安になるな。」
萌香が不安そうに呟く。
「でも、次のアーティファクトを手に入れないと帰れないんだろ?」
ゆうなが意気込む。
「その通りだ。」
いさなが頷く。
コメント
1件
えうちサメ釣ったすっご( '-' )