ん? ああ、いつの間にか観察したまま眠っていた様である。
まあ、今更風邪とかひいてしまう体では無いし別に良いよな? そんな風に考えていた私の観察に、尋常ではない音が聞こえて来る。
何と言うか非日常を感じざる得ない音、災害や強大なモンスターのパレードとも違う、もっと重くて確実な滅びや破滅、そんな予感を感じてしまう不気味な重低音が、どうやら地面の下から響いて届いているようである。
池に意識を向けるまでも無く、『美しヶ池』の面々は大騒ぎであった。
誰かが『存在の絆』で呼び寄せたのか、ザリガニのランプとその仲間達、ドラゴが率いてきたトンボ達、夜目が効かないのに真夜中にどうやって移動して来たのかヘロンと鳥達まで集まってナッキの指示を待っているようであった。
ある意味、この池最強の存在(主にメンタル面)であるウグイの頭、ティガがナッキに言う。
「おいおい、ナッキの王様よぉ! コイツはヤバいぜ? 半端じゃ無ーよ! こんな圧迫感、小さな奴等にゃ堪えられ無いぜぇ! ど、どうするんだよ?」
ヒットも必死な声だ。
「ティガの言う通りだぞナッキ! どうだ? 一旦水路を通って大きな川まで避難しないか? そうすれば多くが生き残ると思うが?」
確かに理に適っている、ナッキは思いながら、石に躓(つまず)き水路に頭から倒れ続けながらもこの池に辿り着いて以来、今まで何とか役に立とうとして来た水鳥達の傷だらけの姿を見ながら、淀みない声で言う。
「ううん、それでは鳥達が移動出来ないから却下だよっ! ここで乗り切るっ! 一匹も見捨てはしない、仲間なんだからぁっ! 皆、上の池の浅瀬に集まるんだっ! 鳥達も水の中に立って身を寄せて、カエルもザリガニも魚も皆一緒に、一匹の大きな生き物みたいに、えっとぉ、そう、一つになるんだよぉ! トンボは鳥や大きなギンブナの背に止まってねぇっ! 良いかい? 僕たち『メダカの王国』の仲間たちは、文字通りっ! 一つになるんだよぉっ!」
『お、おうっ!』 『ぎょ、御意っ!』 『判りましたぁ!』 『南無さんっ!』 『ひいぃっ!』
様々な言い口であったが、全員が一心不乱にに上の池を目指して移動して、ナッキの言葉通りそれぞれの体を寄せ合ってジッと身を潜ませたのである。
「メダカ達ぃ! 隙間を埋めてぇ! 皆ももっと身を寄せるんだぁっ!」
ナッキの号令にメダカ達は他種族の仲間たちの大きさや形状の違いから生じる隙間を埋めるように、その身を埋め込んで行き、他の者達も出来うる限り身を寄せ合うのであった。
その様子を確認してナッキは言葉を発する。
「良しっ! 仲間が一緒だ恐れるなっ! 『同化(アフォモイオシィ)』」
ズシンッ……
群れの集合体にいた全ての個体が同時に思った。
――――なんだ? 不安が、恐怖が、消えていく? ああ、今私は巨大な存在の一部になったぁ、何て安心感なんだろうか…… ああ、何も怖くないぃ……
そのまま、どれだけの時間が過ぎた事だろう、池を襲った恐ろしい気配はいつの間にか消え去っていた。
朝が訪れ周囲が明るくなるまで身を寄せ合っていた池の仲間たちは、思いもしなかった自分たちの変化に目を見張る事となるのであった。
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