テラーノベル
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お小遣いをすべて 使い果たして買い求めたその時計を、少年は翌日、図書室で逢城へと手渡した。「え?…路灯くん、これ…」
「昨日、古い時計屋で見つけたんだ。これ、手巻き式で…毎日ゼンマイを巻かないと止まっちゃうんだけど。…毎日、一緒に巻こう。今日が終わっても、また明日が来るように」
逢城は震える手で抱きしめ、涙をぽろぽろと零した。
「…ありがとう、路灯くん。私、毎日大切に巻くね。私、路灯くんと一緒にこの針をどこまでも進めていきたいな」
それからの日々、その銀の懐中時計は少年たちの命綱となった。
少年たちは中学一年生から中学二年生へ進学した。放課後になると、図書室や学校の近くの公園でふたりで小さな竜頭(りゅうず)を回した。カリ、カリ、カリと小さな金属音が響くたび、少年たちは「今日」を無事に終え、「明日」を新しく手に入れたことを確かめ会った。
5月8日の春。 その日は、どこまでも空が青く澄み渡り、心地よい冷気が街を包む穏やかな木曜日だった。
放課後、少年たちはいつものように学校の近くの公園に立ち寄り、ベンチで並んで文庫本を読んでいた。
「ねえ、路灯くん」
「ん?」
「今日ね、夕空がとっても綺麗。…明日も晴れるといいな」
逢城は膝の上に乗せた文庫本から顔を上げ、西の空を向いた。その頬は少し紅潮していて、一見するといつもより元気そうに見えた。
「そうだね。明日晴れたら、帰りにまたあのカフェの新作ココアでも飲みに行こう」
「ふふ、うん。楽しみだな…」
少年たちは二人で指を重ね合わせ、丁寧に竜頭を回した。カリ、カリ、カリ。
時計は元気に秒針を進め、規則正しい鼓動を刻み始めた。
コメント
1件
ああ、もう、このお話……心がぎゅっとなりました。手巻きの時計を「毎日一緒に巻こう」って贈る路灯くんの優しさも、それを抱きしめて泣く逢城さんの震えも、全部が愛おしい。カリカリっていうゼンマイの音が、ふたりだけの静かな約束みたいで。夕焼けを見上げる逢城さんの横顔に、何かを隠してるような切なさがチラッと見えた気がして、次が気になります。