私は小学生の頃から友達がいなくて、夏休みが来ると非常に苦痛だった。
よくクラスの男子に上履きを隠されたり、上級生に落とし穴に落とされて、よく泣かされていた。
クラスの女子達とは、別に虐めとかはなかったが、必要最低限しゃべらならなかった、って言うよりかは、女子は女子で、男子よりも高密な賢さもあり、陰湿な雰囲気が怖くて、信用してなかった。
私はが生まれて間もない頃、母親を失っていた。
父はサラリーマンで、仕事が忙しく、家にいる事が少なかった。
私はきほん家で一人で過ごす事が多かったので、1人は慣れっ子だった。
けど、夏休みだけは一人で過ごすのが嫌だった。
夏休みはイジメっこの男子達が、父が家にいない事をいい事に、庭先から水気の多く含んだ泥団子を投げてきたり、私が出かけようとすると、パチンコで石を当てたり、エアーガンでBB団を当てて、痛がる私を見て笑って、暇つぶしに、私を遊び道具にする感じが嫌だった。
夏休みは、私の唯一のプライベート空間を侵略するから大嫌いだったのだ。
夏休みの頃、私が町を歩いてた時だった。
急に私の目にめがけて、割り箸鉄砲の輪ゴムが当たった。
クラスの男子達が、私が痛がる様子を、動物園のニホンザルのようにキャっキャっ笑っていた。
「バカじゃーねの!?このすっとこどっこいの、おかちめんこ!」と叫ぶように笑う。
私はこの猿達の事を到底同じ人間には思うなく、無意識に睨んでしまった。
その中に上級生のボス猿がいて、「お前いま俺の事睨んだよな?」と私の前に来た。
このボス猿は見た目は強そうじゃないけど、無駄に身長だけはデカかった。
「こっちこい」と言い、そのボス猿は私の腕を引っ張り、空き地まで連れて行った。
「お前、服を脱げ」とボス猿は言う。
私はボス猿の言う通り、服を脱ぎ、下着だけの姿になった。
「お前この格好で、宮久保商店街を歩いてこい」と不細工な腹立つ顔で命令した。
私は首を横に降った。
ボス猿は「生意気だなぁ、痛い目に会いたいのか?」と無駄に大きい声で私に威嚇するのだ。
後ろから、「あなた達!何をしてるの!?」と、後ろから大人の女性の声がした。
ボス猿とその他猿は驚いたよう「わぁーー」と騒いで一目散に走って逃げた。
後ろを振り向いたら白地の生地に紺色のアヤメ柄の浴衣を着た、綺麗なお姉さんが立っていた。
お姉さんは私に駆け寄り、「大丈夫?可哀想に…女の子かこんな格好したらダメじゃないと」と言い、私に服を着せた。
お姉さんは肌が陶器のように白く、体が全体的に細く、髪を後ろで束ねた優しい雰囲気のお姉さんだった。
「お嬢ちゃんはどこの子?お姉ちゃんが家まで送ってってあげる!」と微笑むように和かに笑う。
私には姉や妹、母がいないから、お姉さんのような、優しい和やかな雰囲気が新鮮に思えたのだ。
私は緊張して声が出なかった。
お姉さんの優しい眼差し、空気のようにフワフワした感じがこの世のものとは思えないほど優しさに満ち溢れていた。
「あれ?目元が赤く腫れてるね?」とお姉さんが言う。
「さっき男の子達に、割り箸鉄砲で当てられたの」と、私はボソッと言う。
お姉さんは、「酷い…お姉ちゃんのお家においでよ、氷で冷やして上げる!」と言い、私の手を繋いで連れてってくれた。
お姉ちゃんの家は、さっきまで私が嫌がらせされた空き地の裏で、平家の縁側がある、古風な趣きのある家だった。
時刻は17時28分で、庭は夕日のオレンジ色に染まっていた。
庭には竹垣が格子状に編まれた柵につる性植物の白い花が沢山咲いてた。
お姉さんは氷を手縫いで包み、私の目に当てた。
「これでしばらく安静にしてなさい」と私の目を見て、優しく微笑んだ。
「あの白いお花はなんて言うの?」と私は聞いた。
「あれの事?あの花は夕顔と言って、夏の夕方に咲くの、実もできて味噌汁の具材として、煮込むと柔らかく、美味しい優秀な野菜なんだよ」とにこやかに説明してくれた。
「朝顔とはまた違うの?」と私は気になったので聞いた。
「うん、朝顔は朝に咲くし、それに食べれないでしょ?」と綺麗な声で笑った。
お姉さんはお盆から、ガラスの湯呑みを出し、キンキンに冷えた麦茶を差し出した。
私は麦茶を飲みながら、「またここに来てもいい?」言った。
お姉ちゃん「うん、でも…」とお姉さんは言葉を詰まらせた。
私は何かまずい事を言ったかと思い、「どうしたの?」と聞いた。
「いや、何でもないよ、また遊びに来てね!」と微笑みながら言った。
それから私は次の日もお姉さんの家に向かった。
門を開け、庭に進み縁側の所から「お姉さん?遊びにきたよ?」と言う。
中からは返事がなかった。
縁側から見える室内は、綺麗な清潔に保たれた畳、焦げ茶色の座卓、茶箪笥、奥の部屋には仏間らしき物が見える。
何度もお姉さんを呼んでみたが、いる気配がなかった。
「出掛けているのかな?」
昼間なのか、庭に植えられている夕顔の花は萎んでいた。
私はその日は一旦家に帰る事にした。
しばらくして時間が経ち私はまたお姉さんの家に向かった。
庭には夕日の茜色に染まり、 相変わらず綺麗な純白の夕顔が咲いていた。
縁側には浴衣を着たお姉さんが本を読みながら座っていた。
「あら!、いらっしゃい!」とお姉さんはこちらに気づいて、にこやかに微笑んだ。
「昼間も来たんだけど、今日はどこにいたの?」と私は聞いた。
お姉さんは「ごめん、今日はちょっと用事があって出掛けていたの」とお姉さんは微笑み私に謝った。
私はこのなんとも言えない時間が好きだった。
「そうだ!」とお姉さんは言い、台所に向かった。
奥からザクザクと包丁で切る音が聞こえる。
お姉さんはしばらくして、戻ってきて、私にスイカを出した。
「良かったら食べてね」とお姉さんは言い、「ありがとう!」と私は言いスイカを食べた。
お姉さんはしばらくして「学校は楽しい?」と聞いた。私は首を横に降る。
お姉さんは笑いながら「そうなのかー」と私の頭を撫でながら言った。
「お姉さんは子供の頃学校楽しかった?」
姉さんは遠くを見つめるように「私は、子供の頃、あまり学校に行けてなかったの」と言う。
「なんで」
「私は子供の頃から病弱でいつも入退院を繰り返してたの、だから学校と言うものをあまり知らないの、後、ちょうどその時代は日本がそれ所じゃない程、大変だったのもあるんだけどね」と言い、お姉さんの表情はどこか寂しそうだった。
「体の何処が悪いの?」と私は聞いた。
お姉さんは胸に手を当てながら「心臓が悪いの、でももうすぐ手術するの」とつぶやいた。
「きっと手術すれば良くなるよ」と言い、「ありがとう、お嬢ちゃんに言われるとそんな風に思えてきたよ」と微笑んだ。
空はまだ明るく、蝉が鳴いている。
奥の仏間からはお盆提灯の青白い光が回転しながら、ゆらゆらと回っている。
「そろそろ帰らないと」と言い、お姉さんにさよならを言い、この日は帰っていった。
家に帰ると父が台所で炊事をしていた。
「おかえり、ご飯もうすぐできるから」と父は慣れない家事をしながら台所に立っていた。
料理が出来上がり食卓にはチキンライスが並べられ、父とご飯を食べた。
私は父にお姉さんの事を話した。
「空き地の裏にそんな家なんかあったかな?」と父は不思議そうに言う。
「うん、昔の畳の古い家見たいのが」
「今時、珍しいな」と父は言う。
私はご飯を食べ終え、すぐ部屋に籠り、今日の事を絵日記に書いて、一日を終えた。
私はこの数日間の夕方だけ、お姉さんの家に何度も遊びに行った。
お姉さんと一緒に何気なくおしゃべりをするのが好きで、友達のいない私にはどこか新鮮で特別な時間だった。
ある日お姉さんは私の髪を櫛で髪をすきながら「私、そろそろ行かないと…」と呟いた。
「病院に手術に行くの?」と私が言う。
「うん…」とお姉さんは微笑みながら呟く。
お姉さんは庭先に出て、浴衣の袖からハサミを取り出し、一輪の夕顔の花を切った。
「はい、記念にあげる」と私に差し出した。
私は「ありがとう、手術から戻ったらまた会えるよね?」と私が聞くと「うん…きっとまた会えるよ」とお姉さんは微笑んだ。
「絶対だよ?約束だからね?」と私は何度も言った。
「うん!約束する!」「お嬢ちゃんと喋ってると元気が出てきたよ、ありがとう」と言いお姉さんは笑った。
私はお姉さんにさよならを言い、家に帰った。
お姉さんから貰った夕顔の花を押し花にし、国語辞典に挟んで、今日の出来事を絵日記にし、眠る事にした。
八月十六日、次の日の夕方だった。
いつものようにお姉さんの家に向かったが、何故かたどり着けなかった…と言うよりかは元々無かったような感じという表現が正しい。
私は道を間違えたのかと思い、何度もあちこちを探したが、家は無かったのだ。
そもそも間違えるはずがないのだ、だって数日間遊びに行った家を間違えるはずがないし、空き地の裏という、目印がある…しかし空き地の裏にはもう一つの空き地しかない。
私は、その日ら必死に探したがお姉さんも家も見つからない。
諦めかけた時、ある建物が目についた。
お姉さんの家の隣には診療所があるのだ、そこの人なら分かるかもしれないと思い、私はそこの看護師さんに聞いた「ここの隣の家のお姉さんを知ってますか?」
看護師さんは不思議そうな顔をし、「家?ここの隣は診療所ができてからずっと空き地しかないわよ?」と言う。
私はそれを聞いて驚いた、自分があの過ごした日々はいったい何だったのか、困惑した。
その日は諦めて帰る事し、家に向かった。
私は帰宅してからもお姉さんの事をずっと考えていた。
アレは幻だったのか、もしくは夢だったのか…しかしそんなはずはない、国語辞典にはちゃんと夕顔の押し花が挟んであるのだった。
夏休みも終わり私は何度もお姉さんの家あたりを散策したがそれらしい家も見つからなかったのだ。
今じゃ私も社会人になり、地元を離れている。
久しぶりにお盆で地元に帰省したら、子供部屋の国語辞典に目が入った。
開いて見ると夕顔の押し花がまだ挟んであり、急に過去の記憶がよみがえったのだ。
いまになっても幻か夢をみていたのかわからないが、あの日の出来事は私の不思議な、かけがえのない思い出…。
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