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天神みねむ!クリスタルがない人
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飛翔魔法で国境の険しい山脈を越えてから、数週間。
三人は、隣国の辺境にある、活気と混沌が入り混じった港町「リガ・ポルト」に辿り着いていた。
潮騒の音と、荷揚げをする労働者たちの怒号。
ルイは、騎士団の紋章を削り取った無骨な長剣を背負い、マイロの細い肩を抱くようにして人混みを歩く。
「……ふえぇ、ルイ姉。疲れました。もう一歩も歩けません……」
さっきまで「銀嶺の審判」として君臨していたはずのマイロが、今はルイの腕に力なくしがみついている。
記憶が戻っても、ルイに甘えるときだけは、あの「無垢な小鳥」の顔を確信犯で見せてくるのだ。
「……マイロ。贅沢を言うなって。……ベルツ、お前もだ。いつまで私の肩に荷物を預けてるんだ」
「おやおや、騎士様。体力が自慢なんでしょう? 治療師の僕が倒れたら、誰がケアしてあげるんです?」
ルイは深いため息をついた。
国を捨て、世界を敵に回した「最強の逃亡者」たちの実態は、
生活能力ゼロの魔法使いと、がめつい闇医者を養う、苦労人騎士のドタバタ道中だった。
「……おい、そこな三人。見ない顔だな」
不意に、背後から野太い声が響く。
振り返ると、そこにはこの街の「徴収人」を名乗る、ガラの悪い武装集団が数人立っていた。
「この街で商売……いや、滞在するなら、『通行税』を払ってもらおうか。……おい、そこの銀髪の嬢ちゃん。金がねえなら、いい『売り先』を紹介してやってもいいんだぜ?」
ルイの瞳が、一瞬で氷のように冷たく、鋭く変わる。
ルイが剣の柄に手をかけた、その時。
「……いいですよ、ルイ姉。……お掃除は、私の役目です」
マイロが、ルイの前にスッと踏み出した。
その翡翠色の瞳に宿ったのは、かつての「商品」として扱われたことへの深い憎悪と、今の自分たちを害そうとする者への、容赦なき「審判」。
「音もなく、光もなく。静寂の銀よ、その鼓動を止めよ。――射貫け」
朗々と響く、冷徹な言霊。
マイロが指先を向けた刹那、大気中の水分が極細の銀針へと結晶化し、閃光となって徴収人たちの眉間を捉えた。
「『絶息の銀針(アブソリュート・ニードル)』」
一滴の血も流れない。
男たちは叫ぶ間もなく、その場で糸の切れた人形のように崩れ落ち、肌の表面からじわりと美しい銀の膜に覆われて物言わぬ彫像へと変貌した。
「……ねえ、おじさん。……銀色、似合ってますよ?」
マイロは事も無げに微笑み、再びルイの腕へと甘えるように擦り寄った。
港の喧騒が嘘のように静まり返り、周囲の群衆が恐怖に顔を引きつらせて道を開ける。
ルイは背負った剣を抜くことさえなかった。
自分の「呪い」が、この街に最初の銀を刻んだのだ。