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天神みねむ!クリスタルがない人
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港に銀の静寂を残し、三人は街外れの古びた宿に身を寄せた。
窓の外では、夜の潮風が湿った音を立てている。
ルイが一人、月明かりの下で剣の手入れをしていると、背後から音もなく気配が近づいた。
「……おやおや、騎士様。そんなに熱心に磨いても、今日出番があったのは彼女の指先だけでしたよ?」
ひょっこりと現れたのは、中性的な美貌に皮律な笑みを浮かべた闇医者、ベルツだった。
「……ベルツ。お前、さっきの騒ぎの最中、どこへ行っていた」
「どこって、決まっているでしょう。……根回しですよ。……『銀嶺の審判』がこの街に降臨した。その噂が広まる前に、この街のギルド長たちに『挨拶』をしておかないと、明日の朝には毒入りのスープを飲む羽目になりますからね」
ベルツは懐から、古びた「通行許可証」を取り出してルイの前に放り投げた。
本来なら多額の賄賂が必要な、この国の深部へ進むための切符。
「……これを、どうやって手に入れた」
「さあね。……僕の『指先』を欲しがる有力者はこの街にも腐るほどいる。……彼らの醜い腫瘍を一つ摘み取る代わりに、君たちの自由を買い取ってあげたのさ。感謝してくださいよ?」
ルイは絶句した。
自分が剣を握り、マイロが魔法を放つ裏で、
この男は独り、三人が生き残るための「泥」を被っていたのだ。
「……ルイ。感傷に浸っている暇はありませんよ。……マイロのあの『銀』。……あれ、ただの魔法じゃないことぐらい、君も気づいているんだろう?」
唐突に切り出された言葉に、ルイの心臓が跳ねる。
「……どういう意味だ」
「……アブセンティア。忘却を代償とする攻撃魔法。……彼女が記憶を取り戻した今、その『代償』はどこへ行くと思う?」
ベルツの瞳が、月明かりを反射して冷たく光る。
「……彼女が魔法を使えば使うほど、彼女自身を侵食していく。……今の彼女が天真爛漫に見えるのは、恐怖や痛みの記憶から順に、消されているからだ」
「……なっ……!? ……そんなこと、あり得ない」
「……あり得ますよ。……だが、一番の問題はそこじゃない。……彼女が真にその力を完成させようとしたとき。……その時、彼女の身体がその負荷に耐えられるかどうか……。……僕は医者として、あまり楽観視はしていませんよ」
ベルツの言葉は、夜の静寂の中に、冷たい「呪い」のように深く突き刺さった。
隣室では、マイロが安らかな寝息を立てている。
…マイロが…消える?
私の…愛した…モノ、いや…人間が。
ルイは、自分の手が激しく震え出すのを止めることができなかった。