テラーノベル
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その封筒は、午後四時を少し過ぎた頃に届いた。
日向まどかは、自分の部屋で数学の宿題をしていた。
シャープペンの芯が折れて、ため息をついた、その直後だった。
――がさり。
玄関のポストに、何かが落ちる音。
「郵便、来たよ」
母の声がして、
廊下を歩く足音がだんだん近づいてくる。
「まどか」
呼ばれただけで、胸がきゅっと縮んだ。
理由は分かっている。
でも、確かめる勇気はまだなかった。
差し出された封筒は、白くて、厚くて、
指で触ると、紙なのに少し冷たく感じた。
左上に印刷された文字を見た瞬間、
まどかは一度、息を止めた。
鈴蘭学院。
テレビや噂の中だけにあるはずの名前。
お嬢様学校。
選ばれた人だけが通う場所。
「……開けてもいい?」
誰に向けた言葉か分からないまま、
まどかは封を切った。
中の紙は、やけに整っていた。
文字はきれいで、感情がなくて、
だからこそ逃げ場がなかった。
『合格』
その二文字を見た瞬間、
嬉しさより先に、静けさが来た。
「受かってる……」
声に出しても、現実になった気がしない。
「おめでとう」
母が言った。
少し遅れて、父も「すごいな」と言った。
その中で、姉のさやだけが黙っていた。
まどかは、そっと顔を上げる。
「……お姉ちゃん?」
さやは、まどかの手元を見てから、
ゆっくりと微笑んだ。
「うん。そっか」
それだけだった。
優しい声だった。
でも、どこか遠い。
その夜、机の上には合格通知が置かれたままだった。
“選ばれし者たちの学び舎”。
その言葉が、何度も頭に浮かぶ。
わたしは、選ばれたんだろうか。
それとも、たまたま通ってしまっただけなんだろうか。
紙は何も答えてくれない。
ただ一つ分かっているのは、
この日を境に、
日向まどかの「普通」は、
少しずつ、静かに終わっていくということだった。
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