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蓮司の隣にいるとき──ふと、あの一週間の静けさを思い出す。
でも、まるで正反対だ。
ここには静けさなんかない。ただ、騒がしい演技と沈黙の嘘があるだけ。
「遥、お前ほんとバレバレだな」
笑いながらそう言われた日もある。
わかってる。
演技なんかじゃごまかしきれない。
こんなの、本物の“恋人”のふりですらない。
でも──演じなきゃ、終わる。
「昨日の夜、お前、俺のこと三回も呼んでたぞ」
そんな冗談まじりの声に、教室が笑う。
遥は、笑えない。
笑うふりだけを、している。
(“泣き顔サービス”とか、ほんと意味わかんねぇ)
蓮司の言葉は、冗談なのか本気なのか、いつも曖昧で、痛い。
誰より軽くて、誰よりよく見てる。
演技だって知ってるくせに、それを暴かず、でも許しもしない。
ただ、楽しんでいる。
「じゃ、今日も“おまえの特別”にしてやるよ」
そう言って肩に手を回された瞬間──
背筋が、冷えた。
周りはざわつく。女子たちは睨むような視線を寄こす。
「なんであいつが」「ほんと無理」
そんな声が聞こえても、遥は平気なふりをする。
でも、蓮司の手の重さは、ずっと消えない。
あの触れ方は、所有の仕方だ。
(俺は……なんで、こんなことしてんだろ)
恋人ごっこなんて、最初から無理だった。
好きでもない。むしろ、怖い。
蓮司の手のひら一つで、簡単に裏返される“役割”。
だけど、それでも「日下部よりはマシ」だと思った日があった。
日下部が見てくる「おまえ、泣いてた」って言葉が、あまりにまっすぐだったから。
蓮司の視線の方が、まだずっとやさしかった。
本気じゃないから、優しい。
どうでもいいから、優しい。
それが、遥にはちょうどよかった。
「おまえさ、本気で誰かに庇ってもらえるとか思ったりすんの?」
蓮司の言葉。
遥は笑ったふりをして、「バカにすんなよ」と返した。
でも、笑えてなんかいなかった。
──ほんの一瞬、思ったことがあるから。
(もし、日下部が……)
けれどその“もし”を思い出すたび、あの一週間が脳裏に浮かぶ。
静かすぎて、怖かった時間。
何もされなかったからこそ、壊れかけた自分を、ありのままに見られた地獄。
蓮司の言葉は軽くて、嘲り混じりで、残酷だけど。
それでも──あの静寂よりは、マシだと思いたかった。
思わなきゃ、やってられなかった。