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ーあれから月日が経つ。ー
〇〇side
現在、私たちは本当に不仲。
売りじゃなくて、ガチ。
最初の頃は空気が重すぎて、現場が凍るレベルだった。
それでもドラマは進む。
撮影は、もう終盤。
控室に戻ると、メンバーがソファに座っていた。
菊池「クランクアップ近いな」
松島「なんか変な感じするよね」
寺西「昨日のシーン、空気すごかった」
私は鏡の前に座る。
〇〇「そう?」
菊池「そう?じゃないでしょ」
松島「〇〇、あれガチで泣いてたよ」
〇〇「役だから」
寺西「でも北斗、止まってた」
胸がざわっとする。
あのシーン。
―――――
【撮影シーン】
社長室セット。
〇〇「……私、一人で平気ですから」
強がる。
北斗は静かに立っている。
〇〇「社長は、何も分かってない」
言い切るはずだった。
でも喉が詰まる。
目の奥が熱くなって、
涙がこぼれた。
〇〇「……っ」
その瞬間。
北斗「……」
止まった。
本来ならすぐ次のセリフ。
でも言わない。
数秒の沈黙。
スタッフも動かない。
北斗は私を見ていた。
役としてじゃなく、何かを確かめるみたいに。
視線が外せない。
〇〇「……放っておいてください」
やっと言う。
少し遅れて。
北斗「……放っておけるわけないだろ」
台本通り。
でも声が低くて、少し震えていた。
カット。
空気が一気に戻る。
―――――
控室。
松島「あの間、台本なかったよね」
寺西「北斗、完全に止まってた」
菊池「何考えてたんだろ」
私は目を逸らす。
〇〇「知らない」
でも本当は、
あの目が頭から離れない。
北斗side
楽屋。
ジェシー「昨日のあの間なに?」
田中「止まりすぎ」
高地「スタッフも息止めてたぞ」
森本「やり直しにならなかったの奇跡」
きょもが静かに俺を見る。
きょも「〇〇の涙、刺さった?」
俺は黙る。
あの瞬間。
役とか、不仲とか関係なく、
ただ目の前で泣いた〇〇を見てしまった。
不仲だ。
本当に仲悪い。
最初は目も合わせなかった。
なのに。
あの涙で、
時間が止まった。
田中「終わったらどうすんの」
北斗「何が」
ジェシー「このままガチ不仲で終わんの?」
北斗「今まで通りだろ」
森本「それでいいの?〇〇のこと好きなくせに」
答えられない。
きょもが静かに言う。
きょも「台本にない間ってさ、本音出るよ」
俺は目を閉じる。
ドラマはもうすぐ終わる。
でもあの沈黙は、
ただの演技じゃなかった。
最終日まで、あと少し。
あの“間”の意味を、
まだ飲み込めないまま――。
ーーーーーーー
でもあの“間”の撮影があった日の夜――。
〇〇side
撮影が終わって、家。
静かすぎる部屋。
メイクを落としても、あのシーンが頭から離れない。
ソファに座って、ぼんやり天井を見る。
なんで泣いたのか。
役の感情?
もちろんそれもある。
でも、それだけじゃない。
ドラマの中で私は強がってた。
「一人で平気です」
そのセリフを言った瞬間、
自分のことみたいだと思った。
現場で、北斗とはずっと距離がある。
話さない。
ぶつかる。
空気が悪い。
でも、本当は。
やりづらいと思われたくなかった。
負けたくなかった。
弱いって思われたくなかった。
ずっと張ってた。
その状態で。
北斗が、あの目で見た。
責めるでもなく、
冷たいでもなく、
ただ、真っ直ぐ。
初めてだった。
“分かろうとしてる目”をされたのは。
だから、崩れた。
役の涙のはずなのに、
自分の意地も一緒に落ちた。
「分かってない」って言いながら、
本当は分かってほしかったのかもしれない。
それに気づいた瞬間、悔しくて泣いた。
北斗のせいじゃない。
でも、
北斗だったから崩れた。
スマホが光る。
撮影グループの連絡。
何もない。
当然。
不仲だし。
画面を伏せる。
なんで涙が止まらなかったのかな。
北斗はぶつかる相手。
やりづらいけど、ちゃんと向き合う人。
仲間。
それ以上じゃない。
それ以上にするつもりもない。
……少なくとも今は。
ドラマはもうすぐ終わる。
きっと終わったら、
少しは話せるようになるのかな。
それくらいの距離でいい。
私はそれで十分だと思ってる。
―――――
北斗side
夜。
ベッドに横になっても、眠れない。
今日のシーンが何度も再生される。
〇〇が泣いた瞬間。
あれは、役だけじゃなかった。
分かった。
不仲だ。
最初は正直、苦手だった。
距離があるし、強いし、ぶつかるし。
でも。
あの涙は、
強がってる人間の涙だった。
俺は一瞬、
役を忘れた。
社長としてじゃなく、
ただ〇〇を見た。
止まった理由?
簡単だ。
本音が出そうになったから。
台本のセリフじゃなくて、
違う言葉を言いそうになった。
「無理すんな」とか、
「そんな顔するな」とか。
そんなの言えるわけない。
俺たちは不仲だ。
だから飲み込んだ。
あの数秒は、
飲み込んだ時間。
きょもに言われた言葉が浮かぶ。
「台本にない間ってさ、本音出るよ」
図星だ。
俺は、
〇〇が思ってるよりずっと、
あの涙に揺れた。
終わりが近い。
このまま何も言わずに終わるのか。
それとも。
――あの“間”の続き、言うのか。
天井を見上げる。
ドラマはもうすぐ終わる。
でも、
あの涙の意味は、
まだ終わってない。
俺は〇〇のことが好きだ。
認めたくなくても。
あの涙の理由を考えてる時点で、もう終わってる。
でも〇〇は違う。
あいつの中で俺は、
“共演者”
“仲間”
それ以上でも以下でもない。
今日の撮影後も、目は合った。
でもそこに特別な色はない。
ただの確認。
ただの仕事相手。
分かってる。
俺だけだって。
不仲は本当。
でも嫌いじゃない。
むしろ――
好きだからぶつかるし、
好きだから引っかかる。
あの涙を見たとき、
守りたいって思った。
でもそれ言ったら終わる。
〇〇はきっと引く。
だから飲み込む。
不仲のまま、
好きなまま。
ドラマが終わるまで。
いや、
終わっても――。