テラーノベル
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24
両者の太鼓「トントントントンッ」と細くて高い音が響く。俺は旗を握って、睨み合う両者の中心に進みだす。向こうからは司がやってくる。
そうして、お互いが旗のぶつからない距離で立ち止まる。相手に勝つことも大事だが、それ以上に完璧な演目が求められる。自組のためでもあるが己のために、成し遂げなければならない。
最初は彼からの演技だが、相手は何を思ったのか着ていた上着を脱いで横に投げ捨てた。
「え?」
司の薄い筋肉がついた上半身が露わになって、女子たちから悲鳴があがった。うろたえていると、相手の薄笑いが目に入る。頭に血が昇った今の状態では、肩がぶつかっただけでも喧嘩を売られたと思うだろう。
薄笑いを返して、俺も上着を脱ぎ捨てた。俺が脱ぐと、男子達からの笑い声が起こるだけだ。
それをムカついたと思わないほど、意識が旗に集中する。白団から太鼓の音がして、司が演技を始めた。旗を横に振って、縦に上から下へと振りまわしながら後ろを向いてまた横に振って前を向く。司が旗を振ると、旗が赤い色のこともあり焔をちらつかせているようだ。
旗を回転させて、そのまま空中に旗を投げる。それを難なくキャッチして、大きく旗を横に縦にと振りまわす。最後に三回も旗を回転させ、また空中に放って旗が二回転して戻ってきた。それを右手だけで掴む。最後に手に持った旗で地面を叩いて、太鼓が「ドンッ」と締めを教えてきた。
彼のやり遂げた顔。拍手、俺だって拍手をしたい。けど、まだ俺の番が残っている。
司への称賛の拍手が鳴り止まないうちに、俺の団の太鼓が轟く。拍手が止んだ。
深呼吸をして旗を横に振り、縦に下から上にと振りまわして背後を向いてから前に体を戻す。天に円を二回書いてから、今度は前で八の字を描いた。ここまでは、練習通りだ。
次からが本番だと、ドンッという音に合わせて旗を回転させる。三回ほど回してから、空中に放り投げた。右手に全神経を集中させて、落ちて来る棒を掴む。僅かに指先が滑って落としかけたが、手の平で慌てて掴んで、どうにか一回目は成功。
キャッチした旗を振り回し、リズムをとって縦に横にと旗を風に乗せる。そして、それが終わってから三回、腕の中で旗を回転させる。そして、「いけっ」と心で念じながら旗を空中に投げた。
太陽が眩しい、天に飛んだ旗が青い空に映えて、血潮のように紅の字を浮き上がらせる。そんなことを思えるほどの時間なんてない刹那だったが、たしかにそう感じた。
二回転した旗が落ちて来る。息を呑んだ。落ちて来る前に、腕を伸ばして無理やり自分の腕に戻らせる。手の平で鉄の冷たさを感じた。そして、体が勝手に動いて旗の持ち手部分の先端で地面を突き終わりを告げる。
拍手が聴こえた気がした。しかし、今は目の前の司しかみえない。お互い、演技を通せたことに震えている。最後に二つの旗をばってんに組みあわせて、お互いの勝利を讃えると先ほどの定位置に戻る。
彼が学ランを持って帰るのをみて、急いで引き返して俺も拾って帰る。
やり遂げたとでもいうように、体から一気に緊張が抜けそうになった。しかし、大翔の隣にもどってくると「まだ終わってないぞ……」と念を押される。
最後は紅白合わせての、相手への応援を始める。紅白両者の太鼓が同時に叩かれ、三三七拍子を始める。お互いのエールが相手に向かっていた。
演武の型は紅白で違う。しかし、それが同時に舞われることで迫力が増していく。リズムが早くなる、足踏みの音、枯れ声の声援、そして大翔と青柳が右手を振りおろして皆の動きが一斉に止んだ。
「「お互いの、勝利を祈ってぇぇぇぇっ……!!!!」」
両団長の言葉を合図に、太鼓が続けざまに鳴り響く。ドロドロドロドロドロ……という音と共に、またも俺と司が先頭に立って退場を促した。
拍手の中体育館まで走り抜けたとき、それぞれの団員から拍手と笑顔が湧いた。俺は疲れ果てて、早々に旗を戻すために倉庫へ向かう。旗を壁に立てかけると、すぐその場にへたりこんだ。
「おわったぁ……」
これで、あとは願い事が叶うんだか、かなわないんだかに賭けるしかない。俺が倉庫からでると、またも渉がそこに立っていた。何か言いたそうにしていたが、俺が声をかける前に背中を向けていってしまった。泣きそうになりながら、更衣室でジャージに着替えて三年の席へ戻った。
次の種目は女子の綱引き。女子の競技に一喜一憂する声を子守唄にうたた寝していれば、大翔が戻って来た。
「成功したじゃんか」
「……だろ」
「渉が見てたぜ」
「嘘つくなよ。俺見て、得することなんてないだろう……」
彼が呆れてくるので、それを無視して目をつぶる。綱引きが終わってからの次の競技で起こされる。こっちは眠いんだよと返したが、「次、一年の騎馬戦」といわれて飛び起きた。
コメント
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うわ、やっと終わった…って感じですね。演武シーン、一本のラインで綺麗に描写されてて、読んでるこっちまで息を止めて見入っちゃいました。背中で掴んだ旗、空中の二回転のところ、すごく映像が浮かびました。特に「落ちかけたけど手の平で慌てて掴んだ」って部分、緊張感が伝わってきて良かったです。渉くんが見てたって大翔が言うのも、気になる… 全体的に、集中と解放のリズムが心地よかったです。