2.「乱暴な優しさ」 ルークが愛生の担当執事になってしばらくたったある日、ルークは愛生、ムーと、途中で合流したルカスと馬車に乗っていた。ルーク達三人の目的はとある孤児院への訪問だった。正確にはルークが行くだけったが、愛生が着いていきたいと言い出したのでルークは愛生の同行を認めざるを得なかった。その一方でルカスは、好物のパウンドケーキの補充だったらしい。三人とルカスはたまたま孤児院の前で鉢合わせ、ルカスは愛生の厚意で馬車に乗ることになり、今に至る。
「にしても、本当にありがとうございます、主様。」
愛生はルカスが礼を述べる声で我に帰った。愛生はどうやったらルークが笑顔らしい笑顔をみせるのかについて考えを巡らせていたのだ。
「いえいえ!道中は人が多い方が楽しいでしょ?」
愛生がルカスに答えると、ムーも愛生の隣でそうですよ!と笑った。そんな会話を他所に、ルークは御者の代わりにデビルズパレスへと馬車を導いていた。そして突然警報音が響き渡った。
「この音は……まさか?!」
「天使??」
ムーと愛生がすこし慌てたような声を出す。それをルカスが落ち着かせている。落ち着いた頃を見計らってルークが声をかけた。
「申し訳ありません、主様。天使狩りになりそうです。」
「ううん、大丈夫!犠牲者が出てしまう前に急ごう!」
その後、四人は大急ぎで向かった。すると一人の少年が襲われる寸前だった。ルークが駆け出して何とか少年を抱えて天使から救った。
「逃げろ、ケイン!
女の人達の所まで下がるんだ!」
ルークが叫ぶとケインと呼ばれた少年は慌ててルカスと愛生の元へ下がった。愛生はルークの口調の変化に驚いたが、口調を忘れるほど彼はケインが大切なんだろうか、と思った。
「主様、悪魔の力の解放をお願いします。」
ルカスの言葉に愛生は頷いた。悪魔執事は人を消す驚異的な存在『天使』に対して唯一対抗出来るが、いつ何時でも対抗出来るわけでは無い。力を行使するには主様の許可と、解放の呪文が必要なのだ。
「来たれ。闇の盟友よ。我は汝を召喚する。ここに悪魔との契約によりルークの力を解放せよ。」
するとルークの背中に七つの頭を持つ蛇の姿が見えた。よく見ると、たくさんの人間の男の顔も見えた。そして、ルークの髪の色が漆黒から、ルークの髪と似た紫味を帯びた黒へ変わったような気がする。
「天使、貴様の相手は俺だ。」
ルークの武器は、ハルバードという武器であり彼が多く扱える武器の中で最も得意とするものだ。ルークがこれを持てば彼に勝てる執事はぐんと減るだろう。
「死になさい。命の為に。」
天使が無表情に同じ言葉を繰り返しながらルークに近づいていく。
「うっせーよ、タコが。」
ルークがハルバードを器用に回転させて天使を馬車から遠ざけた。愛生とケインをより安全にするためだろう。その策は成功したが、代わりに天使とルークの間にかなりの空間が出来てしまった。ところが、愛生が瞬きした瞬間、ルークは天使の目の前にいてとどめを刺していた。そのあと、スタスタとこちらに近づいたかと想えばケインを一喝した。
「何をしていたんだ?この辺りは危ねぇから一人で行くなって教わってるだろ?」
ルークが呆れたと言わんばかりに溜息を着きながら尋ねた。
「ご、ごめんなさい……。迷子になって。」
呆れ果ててイライラし始めるルークを、ルカスが割って入った。ケインの怪我を確認したかったのだ。
「まぁ、まぁ、レオくん落ち着いて……。ところで、ケインくんとルークくんは知り合いなのかな?」
ルカスの優しい問いかけに、ケインはうん!と元気よく頷いた。どうやら、ケインは先程訪問した孤児院で過ごす子供のひとりで、ルークによく懐いているらしい。
「んで、なんであんなとこで迷子になったんだよ?」
ケインを孤児院に送る馬車の中でルークが聞いた。どうやらケインは山菜を採ってくるようにいわれて山に来たらしいが、綺麗な蝶々を見つけて好奇心から追いかけた所迷子になったという。この理由を聞いてルークが再び怒り出してしまったが、ルカスが何とか宥めた。無事ケインを孤児院に送った四人(正確には三人と一匹)はようやく帰途についた。天使が出たと聞いて駆けつけてくれたバスティンに御者役を任せ、ルークは馬車の中で休んだ。
「あれ?ルークが寝てる。」
ルークが馬車の壁に頭を預けて眠っていた。いつの間にか髪色は元の引き込まれるような漆黒に戻っている。愛生はムーも一緒に寝ているのが微笑ましくなり表情を和ませた。そして愛生は思い出したようにルカスに質問した。
「そういえばなんだけどさ、ルークがケインくんに怒った時、なんでルークじゃなくてレオって呼んだの?」
その質問を受けてルカスは一瞬キョトンとしてからなにか納得したような声を上げた。
「主様にはまだ説明がなかったんですね。では、彼の悪魔の能力について多少説明させて頂きます。ルークくんは悪魔の力を使うと『超高速移動』が出来るようになります。」
愛生は、先程の天使との戦いで、ルークが一瞬で移動していたのを思い出して納得した。
「ただし、体への負担が大きいので能力を使ったあと彼は不可抗力でねむってしまいます。また、身体が力の負担に耐えようとして防衛本能で、二つ目の人格をつくりだします。我々はその二つ目の人格の希望で、二つ目の人格状態の時は彼を『レオ』と呼んでいるんですよ。」
愛生はなるほど……と言ってからメモ帳を取りだしてメモした。忘れっぽい愛生なりの対策だ。ルカスはほかにも、ルークが戦ってる間の記憶を持たないこと、人格が入れ替わっている間の記憶が無いこと、(滅多にないらしいが)感情が高ぶった時にも二つ目の人格が出てくることなども教えてくれた。愛生は、ルークのことを知ることが出来て嬉しくておもった。