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『 先生は、これから何処に行くんですか?』
「んー…教え子のとこ」
『 教え子…ですか』
「そ。教え子」
それ以上を聴く勇気は、もう無かった。
「なぁ、アイツ男前だよな」
『 え?』
先生の言ってることがよく分からなくて聞き返す
「ほら、あいつ、スタッフの…」
『 手塚さんですか?』
「そう。好青年って感じ」
『 ふふっ、そうですね。でもああ見えて意外と毒吐いたりするんですよ?』
へぇ、気合いかも。って先生が笑う。
駅前に近づくに連れて、人が増える。
もっと、駅が遠かったら良かったのに。
いつもは、駅と店が繋がってたらいいのに、なんて思うのにね。
2人で歩く時間はあっという間に終わってしまう。
『 お前、家あっちだよな』
先生が私が乗る駅方面を指さした。
『 え?覚えてるんですか?』
「そりゃそうよ。送ったことあるんだから。」
助手席に載せて貰えなかったあの日を、思い出す。
『 …先生は、どっち方面ですか?』
「一緒」
『 え』
「降りる駅は違うけど」
先生はスタスタと券売機に歩いていく。
慌てて、私もついて行ったのと同時に切符を買ったとたん、
『 あぁ、!私定期持ってた!』
叫んだ私に、先生は「バッカじゃねぇの」って大笑い。そして、
パコんって軽く私の頭を叩いた。
で、私が間違えて買ってしまった切符を先生がヒョイって取り上げた。
「まったく、手が掛かる子ですねぇ」
呆れたように笑って駅員さんの所へ持って行く先生の後ろを小走りでついて行く。
「すいません、この切符間違えたので、払い戻し出来ますか?」
「はい、少しお待ちください」
駅員さんとのやり取りをわたしは後ろから見ていた。
「はい。どーぞ」
『 …ありがとうございます、ごめんなさい。』
払い戻したお金を先生から貰って、ペコっと頭を下げた。
先生は「うん」と返事をしてそのまま改札を通って行った。
私は定期で改札を通る。
電車を待つのなんて毎日やってる事なのに、先生の隣に立つと緊張とドキドキで時間が早く感じる。
やっぱり、先生の近くには立てなかった。
やって来た少し混んでいる電車に乗ると、丁度2人座れそうなところに先生は座る。
近くに立っている私に向かって先生は「座んねぇの?」と言うから隣に座った。
先生に触れている左半分の体が、熱くなっている。
黙っていると、心臓がとび出てしまいそうだから、持っていたいちごミルクをストローを使って飲む。
氷が熔けて、少し薄くなっている。
「それ、美味いの?」
小さな声に、ストローを咥えたまま先生を見る。
「ちょっとちょーだいよ。」