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煌めくルビーに魅せられて

33 - 煌めくルビーに魅せられて番外編 吸血鬼の執愛25

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2025年03月01日

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「その気持ちはわかる。不思議と瑞稀の血のことが、頭から離れなくなるんだ」


「でも今は、平気なんですよね?」


「ああ。満月なのに吸血衝動すらない」


キッパリ答えた俺に玲夜くんはスマホを取り出し、手早くなにかを打ち込む。


「決めては彼の血をある一定量を飲めば、なんとかなるのか? 実験してみないと、こればっかりはわからないな」


ブツブツ口先でなにかを告げ、すぐに見慣れた姿に戻る。


「瑞稀くん、怖がらせてすまない。もう大丈夫」


「玲夜くん、不容易に吸血鬼に変わらないでくれないか。瑞稀が怯えてしまうからね」


「すみませんでした。気持ちを強くして、なんとかします」


一時期俺も瑞稀の血が欲しくて堪らない時期があったからこそ、そのことが容易じゃないのがわかりすぎた。


「雅光さんは瑞稀さんの血の美味さを感じたから、吸血対象にしたんですか?」


「いいや、その逆だよ」


つい最近の出来事に、俺の唇の端が上がる。それにつられるように胸の中にいる瑞稀も、小さくほほ笑んだ。


「逆? どういうことなのでしょうか?」


スマホにそのことを打ち込んでいるのか、玲夜くんは手元を凝視しながら、小首を傾げた。


俺は瑞稀との出逢いを詳細に語り、彼の血の味が変わって、美味しくなっているのを伝えた。


「なるほど。最初は不味かった血が、雅光さんと付き合うようになってから、味が変わって美味しくなっていると。ん~、まだ断定できないのですが――」


スマホの画面から顔を上げ、レンズ越しの玲夜くんのまなざしが瑞稀を捉える。


「雅光さんから与えられる愛情、もしくは相手を想う気持ちで、瑞稀くんの血の中にある成分が変化するのかもしれません」


玲夜くんはふたたびコートのポケットに手を突っ込み、細長い小箱を取り出す。それを開けて俺たちに見えるように、テーブルの中央に置いた。


「玲夜くんはいつも、こんなものを持ち歩いているのか?」


小箱の中身は、注射器と試験管だった。


「血の力を求める呪術師と対抗していた一族がわかっていたので、医大のデータベースから一族の名字を頼りに、血を集めてました。そのほかは僕が吸血鬼になって、ランダムに集めていたんです」


「対抗していた一族の名字に『片桐』がいたのか?」


「はい。しかしながら片桐という名字をもつ人間は、大勢います。吸血鬼化を中和する成分を持ち合わせているのは、ごく僅かな人間になるでしょうね」


玲夜くんは説明しながら、瑞稀に視線を注いだ。研究員としてなんとしてでも、瑞稀の血を欲しているのが伝わってくる。


「瑞稀、嫌なら断ってもいい。無理しなくていいんだよ」


吸血鬼に変貌したとしても、定期的に血を飲めば死ぬことはない。満月のたびに吸血衝動で苦しむだろうが、血さえ飲んでしまえばどうにでもなる。


そのことを知っているゆえに、瑞稀に無理をするなと諭したのだが、胸に抱かれている瑞稀のまなざしに光が宿った。


「俺の血がマサさんの家族を救えるのなら、研究に使ってほしいです」


即答だった。瑞稀は俺の腕の中から自ら抜け出し、腕まくりをして玲夜くんに差し出す。


「マサさんや玲夜さんも苦しんでるなら……俺の血で助けたい!」


「瑞稀――」


「遺伝子変異S-13、吸血鬼になる遺伝子の名前です。僕の父が発見しました。Sは桜小路の頭文字という、安易なネーミングなんですけどね」


銀縁眼鏡を押し上げ、熱のこもった口調で玲夜くんが告げた。ネーミングセンスのダサさは、もしかすると一族共通なのかもしれないな。


「きっと愛情が、血の活性化の鍵になってると思います。なので瑞稀くんには日を改めて、何回か血液のサンプルをお願いしたいです」


胸ポケットから名刺を取り出し、玲夜くんが勤める研究所の場所を示した。


「瑞稀くんが、ここに来られるときでいい。それまでに君の血液を解析して、研究に役立てておくよ」


俺としては一族の過去に瑞稀を巻き込みたくなかったが、桜小路家の血 を受け継ぐ者の変貌の危機で、とめることができなかった。目の前で玲夜くんに血を抜かれる瑞稀。注射器の中にある赤ワインような赤い色の血液を、複雑な心境で眺める。


「ありがとう雅光さん、瑞稀くん。今夜中に血液を分析して、成分を解析してみせます。夜空に浮かんだ満月が終わる前に……」


リビングの静寂に、三人の熱い決意が自然と混ざりあったのだった。

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